「制御不能ロケット」の落下で人が死ぬ可能性はどれくらいあるのか?

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by Tobin

2022年7月31日に、20トン以上ある中国のロケットの部品が地球上に落下し、多くの人が流星のような火球を目撃しました。また、それからほんの数日後にオーストラリアでSpaceXの宇宙船「Crew-1」の破片が地面に突き刺さっているのが見つかるなど、宇宙開発の進展に伴い宇宙から落下してくる人工物の危険性が話題にのぼることも増えています。このような落下物で人が犠牲になるリスクについて改めて考えさせられるような研究結果が、科学誌・Nature Astronomyに掲載されました。

Unnecessary risks created by uncontrolled rocket reentries | Nature Astronomy
https://doi.org/10.1038/s41550-022-01718-8

Scientists calculate the risk of someone being killed by space junk
https://theconversation.com/scientists-calculate-the-risk-of-someone-being-killed-by-space-junk-186666

イギリス・オープン大学で宇宙惑星科学を教えているモニカ・グレイディ氏によると、地球上には毎日のように微少な天体が降り注いでおり、それらの重さを合計すると年間で4万トンにもなるとのこと。また、100年に1回程度の割合で数十メートルサイズの天体が大気圏を突破して地上に衝突し、巨大なクレーターを作ることもあります。

こうした天然のスペースデブリに代わって近年新たなリスクとなっているのが、人工衛星を打ち上げたロケットのブースター部分を始めとする人工的なスペースデブリです。

カナダのブリティッシュ・コロンビア大学とビクトリア大学の研究チームは、2022年7月11日にNature Astronomyで発表した論文の中で、宇宙空間におけるロケットの部品の挙動や軌道、それらが落下する地点の人口密度をモデル化し、さらに30年間分の衛星データも加味して、人工的なスペースデブリが地球に落下する場所やそれによる被害を予測しました。

その結果、インドネシアのジャカルタ、バングラデシュのダッカ、ナイジェリアのラゴスなどがある緯度に人工スペースデブリが落ちる確率は、アメリカのニューヨーク、中国の北京、ロシアのモスクワなどがある緯度に比べて3倍も高いことが判明しました。このことから研究チームは「打ち上げたロケットが落下してくるリスクが、ロケット打ち上げ国ではなくグローバル・サウス、つまり赤道付近にある発展途上国に偏っている」と指摘しています。

by rik rose

また研究チームは、制御不能な状態で大気圏に再突入したロケットが10年の間に人命に被害を与えるリスクである「死傷者予想」を計算しました。その結果、1回の落下が10平方メートルの面積に致命的な破片をまき散らすと仮定した場合では、「今後10年間で1人以上の死傷者が出る可能性が10%」との結果が算出されました。この数値をグレイディ氏は「小さいが重大」と形容しています。

天然のスペースデブリと同様に、人工衛星やロケットの破片の多くは地球上に落下しても再突入時に燃え尽きるので、人工スペースデブリが落下するリスクは無視できると考えられてきました。そのため、スペースデブリに関するこれまでの研究は、機能しなくなった人工衛星がまだ機能する人工衛星に被害を与えるリスク、つまり宇宙機同士の衝突に焦点を当てたものが主でした。

しかし、ロケット打ち上げビジネスが盛んになるにつれて、中国の長征5号Bロケットのような宇宙と地上との間での事故も増加します。そのため、研究者らは「10%という数字は非常に保守的な見積もりである」と位置づけています。

こうしたリスクの増大に対し、イーロン・マスク氏率いるSpaceXとジェフ・ベゾス氏率いるBlue Originが推進している再使用型ロケットや、欧州宇宙機関が計画を進めている4本腕のスペースデブリ捕獲ロボットなどのアイデアが検討されています。

Space is becoming filled with debris.

Luisa Innocenti, Head of ESA’s Clean Space Office explains the world-first mission to remove debris from orbit, Clearspace-1.#SpaceDebris#SpaceCare pic.twitter.com/atlANlcf7i

— ESA Operations (@esaoperations)


また、国連の「スペースデブリ低減ガイドライン」のように、スペースデブリを抑制する国際的な枠組みもあります。しかし、ガイドラインはあくまでガイドラインなので罰則はありません。オゾン層保護を世界共通の目標として、実効性のある法整備が各国で進められたモントリオール議定書のような前例もありますが、こうした規制は南北問題で言うところの北側に位置する先進国で影響が出るまで議論が進まないのが現実です。

今後ますますリスクが増大し、特に発展途上国の人々の身に危険を及ぼすロケットなどの落下物について、グレイディ氏は「2027年には人類初の人工衛星の打ち上げから70周年になります。その記念すべき年に、スペースデブリに関する国際条約を強化し、すべての国連加盟国が批准することができれば、なによりの祝儀になります。そして、最終的にはすべての国がそのような協定から利益をえることができるようになるでしょう」と述べました。

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