【福田昭のセミコン業界最前線】高性能プロセッサの祭典「Hot Chips 34」でIntel、AMD、NVIDIAが最新技術を披露

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「Hot Chips 34」のロゴ

 高性能プロセッサの最新技術を披露する国際学会「Hot Chips 34」の開催プログラムが決まった。開催時期は2022年8月21日~23日(米国太平洋時間)、開催形態はバーチャルである。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により、3年連続のバーチャル開催となった。

 バーチャル開催のため、参加登録料金は国際学会としては安価なものになっている。また8月5日(金曜、米国太平洋時間)までは早期割引料金が適用される。たとえば主催学会であるIEEEの正会員の場合、早期割引料金で100ドルとなる。なお料金には初日のチュートリアルが含まれる。

バーチャル開催とはいえ、会期の基本的なスケジュールはリアル開催と変わらない。開催初日の8月21日にチュートリアル、第2日と第3日にカンファレンスを予定する。

Hot Chips 34の参加登録料金

チュートリアルでは「CXL」と「MLIR」の技術講座を開催

 8月21日に予定するチュートリアルは、午前と午後に分かれる。つまり2つのテーマに関する技術講座を開催する。Hot Chipsのチュートリアルは伝統的に、時機を得たテーマを扱う。今回のテーマもきわめてタイムリーだ。

8月21日に開催されるチュートリアルの講演一覧。公式Webサイトから筆者が作成した

 午前のテーマは、アクセラレータ用高速インターフェイスとして俄然注目されている「CXL(Computer Express Link)」である。合計で4件の講演を予定する。始めがCXLの概要、次がCXL第2版(CXL2)とCXL第3版(CXL3)の解説、3番目がメモリのユースケースと課題の説明、最後がCXL3ファブリックの解説である。

 午後のテーマは、「MLIR(Multi-Level Intermediate Representation)」である。直訳すると「マルチレベルの中間表現」となる。機械学習プログラミング言語や高級プログラミング言語などで記述したプログラムを一括してコンパイルできるようにするための(厳密には一括して扱えるコンパイラを作るための)中間表現形式だ。「Multi-Level Intermediate Representation Compiler Infrastructure」とも表記する。

 こちらのテーマも、午前と同様に4件の講演を予定する。始めは基本概念の説明、次がコード生成の解説、3番目がフロントエンドとフレームワークの説明、最後がMLIRベースのデジタル回路中間表現やコンパイラなどの開発プロジェクト「CIRCT」の解説である。

カンファレンス初日午前:最先端GPU技術をNVIDIA、AMD、Intelが講演

 翌日の8月22日はカンファレンスの初日である。3つの講演セッションと、1件のキーノート講演を予定する。まず、午前の講演セッションを簡単に紹介しよう。最初は「グラフィックスプロセッサ(GPU)と高性能コンピューティング(HPC)」をテーマとするセッションである。4件の講演を予定する。

 始めはNVIDIAがGPUアーキテクチャ「Hopper(ホッパー)」のスケーリング性能を報告する。次にAMDがデータ向けGPU「Instinct MI200」シリーズのアーキテクチャとパッケージングを解説する。

 それからIntelが、次世代GPU「Ponte Vecchio(ポンテベッキオ)」のアーキテクチャとシステムを報告する。最後は中国のBiren Technologyがデータセンター用GPGPU「BR100」の概要を解説する。

カンファレンス初日(8月22日)の講演一覧(前半部分)。公式Webサイトから筆者が作成した

 次の講演セッションは「集積化技術」をテーマとする。異種のデバイスを集積するヘテロジニアスインテグレーションが主要なテーマだ。

 始めはシリコンフォトニクスの開発企業のLightmatterが、ウェハスケールのプログラマブルな光相互接続基板「Passage」を発表する。次にIntelが、FPGAベースのRFアプリケーション処理を高速化するヘテロジニアス集積化技術を報告する。それからシリコンフォトニクスの開発企業Ranovusが、光回路と電子回路をモノリシック集積した特定用途向け光エンジンを発表する。最後はSamsung Electronicsが、「CXLメモリエクスパンダー」によるメモリの性能と容量の拡張技術を解説する。

カンファレンス初日午後:Intel CEOのGelsinger氏によるキーノート講演

 8月22日午後のセッションは、キーノート講演から始まる。IntelのPat Gelsinger氏が「Semiconductors Run the World(半導体が世界を回す)」とのタイトルで講演する。

 その後には「アカデミア(大学や政府支援の研究計画など)」の研究成果を報告するセッションを予定する。始めにYale Universityが、脳とコンピュータを接続する低消費電力インターフェイス「HALO」の開発状況を説明する。次にETH Zurichが、イベントベースのマルチセンサーSoC「Kraken」を報告する。超小型UAV(ドローン)に搭載して画像処理を実行する用途を想定した。3番目はStanford Universityによる再構成可能なアレイベースのSoC「Amber」の解説である。線形代数の演算を高速に処理する目的で開発した。

 最後はArmのセキュアCPU研究プログラム「Arm Morello」の評価プラットフォームに関する解説である。セキュリティを高めたプロセッサ「Arm Morell」を搭載したボードを開発した。SRI InternationalとUniversity of Cambridgeが共同開発した、セキュリティを向上させたRISC命令サブセット「CHERI(Capability Hardware Enhanced RISC Instructions)」を組み込んでいる。

カンファレンス初日(8月22日)の講演一覧(後半部分)。公式Webサイトから筆者が作成した

カンファレンス2日目午前:Teslaが「Dojo」アーキテクチャを解説

 カンファレンス2日目の8月23日は、4つの講演セッションと1件のキーノート講演を予定する。講演セッションは午前に2つ、午後に2つである。

 午前は「機械学習」チップのセッションから始まる。まず、機械学習アクセラレータの開発企業Groqが、テンソルストリーミングプロセッサ「GroqChip」の技術概要を発表する。続いてデータセンター用機械学習アクセラレータの開発企業Untether AIが、実性能2PFLOPS、消費電力当たりの性能30TFLOPS/Wの推論アクセラレータ「「Boqueria」」を報告する。

 3番目と4番目はいずれも、電気自動車メーカーTeslaのスーパーコンピュータ開発プロジェクト「Dojo(日本語の「道場」を意味する)」に関する講演である。1件目がスーパーコンピュータのマイクロアーキテクチャに関する発表、2件目が機械学習の訓練用高速計算システムのスケーリングに関する発表となる。

 最後は、ウェハスケールの機械学習アクセラレータで知られるCerebras Systemsが、「Cerebrasアーキテクチャの詳細」と題して深層学習向けのハードウェアソフトウェア協調設計を報告する。

カンファレンス第2日(8月23日)の講演一覧(前半部分)。公式Webサイトから筆者が作成した

 午前の2つ目のセッションはネットワークスイッチの講演セッションである。始めはAMDが400GbpsのスマートNIC(Network Interface Card) SoCを発表する。次にネットワークシステムのベンダーJuniper Networksが28.8Tbpsの超高速ネットワークルーティング用ASIC「Express 5」の概要を報告する。それからNVIDIAが高速リンクNVLink用ネットワークスイッチを説明する。

カンファレンス2日目:「Ryzen 6000」や「Arrow Lake」などが登場

 8月23日午後のセッションは、前日と同様にキーノート講演で始まる。TeslaのVenkataramanan氏が「Beyond Compute – Enabling AI through System Integration(コンピュートを超えて-システム集積と人工知能)」とのタイトルで講演を実施する。

 続く講演セッションでは、「先進運転システムとGrace」をテーマとした3件の講演を実施する。3件中2件の講演者がNVIDIAという異色のセッションだ。機械学習のエッジ推論向けSoC「Orin」の概要と、データセンター向け次世代CPU「Grace」の概要である。

 残る1件は、先進運転システム開発企業NODARによる、自動運転車用3次元ビジョンシステムの開発状況だ。複数のカメラを使い、前方あるいは周囲の状況を運転者よりも短時間で把握し、適切な運転操作へと結びつける。

カンファレンス第2日(8月23日)の講演一覧(後半部分)。公式Webサイトから筆者が作成した

 最後の講演セッションには「モバイルプロセッサとエッジプロセッサ」を集めた。まずAMDが、モバイルPC向けのハイエンドプロセッサ「Ryzen 6000」シリーズの技術概要を発表する。続いてIntelが、次期クライアント向けプロセッサ「Meteor Lake(開発コード名)」とその後継となるクライアント向けプロセッサ「Arrow Lake(開発コード名)」の技術概要を報告する。いずれも先進パッケージング技術「Foveros」を利用したチップレット構成となる。

 それからMediaTekが5G対応ハイエンドスマートフォン向けプロセッサ「Dimensity 9000」の概要を公表する。ただし同社はすでに後継プロセッサ「Dimensity 9000+」を2022年6月に発表しているので、両方のプロセッサをまとめて説明する可能性がある。

 最後にIntelがネットワークおよびエッジ向けの次期プロセッサ「Xeon D 2700」と「Xeon D 1700」の概要を発表する。最大で100Gbpsの高速なイーサネット(100GbE)に対応する。

 なお例年だとポスター発表が予定されるのだが、現時点(2022年8月3日)ではプログラムに掲載されていない。論文投稿の概要では例年と同様にポスターが選択できると記述されている。この点については不明だ。

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