プログラマティック はこの不況を乗り越えることができるか?:不況の「恩恵」を受けてきた支出の行方

DIGIDAY

プログラマティックによるメディアバイイングが、これまで不況の恩恵を受けてきたことに誰も異論はないだろう。2008年の不況は業界を大いに活性化させ、2020年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による不況は、プログラマティックバイイングの新たな急増につながった。

では、ゆっくりとはいえ確実に不景気に陥っている今の状況は、再び新たな急増をもたらすのだろうか。それとも、コスト意識の高いマーケターは、さまざまな手数料で調達部門を苛立たせているプログラマティック投資から手を引こうとしているのだろうか。

「プログラマティックのパフォーマンスは高い」

「プログラマティックには、手数料や価格設定の不透明さに対する反感がある」と話すのは、独立系のエージェンシー兼コンサルタントのバウンテアス(Bounteous)でシニアバイスプレジデントを務め、プログラマティックとペイドメディアの責任者でもあるジリアン・テート氏だ。「しかも、フォーチュン500企業を筆頭に、企業の調達部門(担当者)はメディアエージェンシーのプロセスや契約により深く関与するようなっている。そのため、エージェンシーに対して完全な透明性を求める圧力が高まっているのが現状だ」と、テート氏は語った。

また、プライバシーに関する懸念も、オープンなリアルタイム入札(RTB)など、プログラマティックの一部の分野にとって圧力となるはずだと、フォレスター・リサーチ(Forrester Research)のバイスプレジデント兼主席アナリスト、ジョアンナ・オコネル氏は指摘する。「さまざまな角度からこうした圧力がかかり、オーディエンスベースでデータドリブンなデジタル広告を展開する能力に重大な影響を与えている」と、同氏は指摘する。

「データ漏えいの懸念から、プログラマティックはすでに監視下に置かれていたといえる。デジタルサプライチェーンやエコシステムが極めて複雑なことや、膨大な数のプレイヤーがいることが一因だ。オープンRTBはほかのタイプのプログラマティックと比べ、一般的にはあまり人気がないように感じられる」。

だが、この記事のために取材した情報筋の大方の意見は、プログラマティックバイイングが調達面で苦境に陥ることはないというものだった。その理由は、パフォーマンスと柔軟性の高さ、そして価格の手頃さにある。プライベートマーケットプレイスやダイレクトプログラマティックバイイングなど、成長している分野では特にそういえる。

「不況に見舞われると、広告主はパフォーマンスの低いチャネルから切り捨てる傾向がある」と、オムニコム・メディアグループ(Omnicom Media Group)でデジタルアクティベーション担当マネージングディレクターを務めるライアン・ユーザニオ氏はいう。「プログラマティックは、ファネルの上部でも下部でも、広告主に極めて高いパフォーマンスをもたらす。プログラマティックで減少が見られるようになる前に、定量化が難しい従来のチャネルのようなメディアで撤退が始まる可能性が高い。ダイレクトメディアも含めてだ」と、ユーザニオ氏は語った。

「支出はやがて回復する」

「プログラマティック支出は、初めのうちは急速に減少しても、経済状況が改善すれば以前にも増して急回復するだろう」と、アドバタイザー・パーセプションズ(Advertiser Perceptions)で予測担当ディレクターを務めるエリック・ハグストロム氏はいう。

「関連性の高いオーディエンスに大規模かつ効率的にリーチする能力は、アドテク関連の手数料を補って余りあるものだ。経済状況が厳しさを増すなかでも、ブランドはオーディエンスにリーチする必要がある。ただし、自らの価値を証明できるメディアが優先され、あるに越したことがないという程度のメディアや余分なメディアへの投資は切り捨てられるだろう」

奇妙なことに、不況は無駄の排除につながることが多いが、中小企業向けエージェンシー、アカディア(Acadia)のCEO兼共同創業者、ジャレド・ベルスキー氏は、プログラマティックでそれが起こるとは考えていない。

「いい時期には、人々はソファのクッションの隙間を見るような行動は取らないものだ。プログラマティックにとって、この行動はクライアントがメディアのサプライチェーンについてより多くの質問をすることを意味する。こうした質問によって、データ、可視性、ブランドセーフティ、ビューアビリティに関わる無駄なコストが排除されるのだ。たとえその過程で多少の痛みがあったとしても、業界を傷つけるのではなく助けることになるだろう」

また、プログラマティックによるメディアバイイングは、いくつかの形でマーケターに予算の柔軟性を提供するという点で、助けにもなれば害にもなる。「今日は利用して明日は利用しないといったことも可能だ」と、あるエージェンシーホールディングスのプログラマティックデジタルバイイングの責任者は、オフレコを条件に語ってくれた。「ほかのメディアチャネルの多くは、これほど柔軟ではない。一般的には、不況になるとプログラマティックにより多くの目が向けられるようになる。より高い柔軟性がもたらされるからだ」。

やがては否定的に見られるようになる?

このような柔軟性は、業績不振で株価に打撃を与えないよう株式市場に対応しなければならない上場企業のマーケターに、マーケティング費用を減らして利益を取り戻す手段を提供する。とはいえ、同じ理由で企業がプログラマティックから手を引く可能性もあると、バウンテアスのテート氏は指摘する。同氏は以前、オムニコム・メディアグループでプログラマティック投資を担当していた。

「オムニコムのクライアントの多くは、『何を切り捨てられるか』と考えることを選択した。そして、デジタル広告は2週間前に通知すれば契約を解除できるため、その多くが切り捨てられたのだ」と、同氏はいう。「テレビ広告のアップフロント契約や印刷広告では、そのような形で費用を回収することはできない。(中略)だが(ブランドは)四半期の収益を良く見せるために費用を取り戻そうとするはずだ。四半期の費用を減らすためなら、一時的な打撃を受けることも厭わない。消費者市場の売り上げが落ち込んでいる場合はなおさらだ」。

プログラマティックが、投資に欠かせない存在として不況を切り抜けられるかどうかはわからないが、プログラマティックの分野で仕事をした経験からプログマティックに批判的なある人物は、メディア投資が環境にもたらす影響が注目されている現状から、長期的には否定的に見られるようになると考えている。

「私も他の人々もそう考えているが、近い時期に(プログラマティックが景気の谷間から)勢いよく抜け出すことはないだろう」と、プログラマティックコンサルタントでニュースレター「クオ・バディス(Quo Vadis)」の著者であるトム・トリスカリ氏はいう。「ブライアン・オケリー氏とスコープ3(Scope3)(アドテクのベテランであるオケリー氏が設立したスタートアップで、広告主が二酸化炭素排出量の少ない広告投資先を見つけられるよう支援している)、それにカーボンフットプリント関連のレポートによってますます広まっている戦略への移行が、不景気によって進むことになる。予算をプログラマティックからほかの分野に予算をシフトしたいと考えているなら、極めて真っ当な選択肢だと思う」と、トリスカリ氏は語った。

[原文:Media Buying Briefing: How will programmatic investment ride out the recession?

Michael Bürgi(翻訳:佐藤 卓/ガリレオ、編集:分島翔平)

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