見える範囲、ほぼ水に沈みます。
新横浜の日産スタジアムそばにある公園は、水没することが前提で作られている。
想定される最大の水深は8.57m。真夏の空の下、水の底にいることを想像して巡った。
「公園」でもあり「遊水池」でもある
横浜F・マリノスの本拠地であり、昨年は東京オリンピックのサッカー会場でもあった、日産スタジアム(横浜国際総合競技場)。
僕は昔、この近くに住んでいた(大倉山)。部屋でくつろいでいると微かにミスチルの声が聞こえてきて、「脳内にミスチルが話しかけてきた……」と思ったらスタジアムから漏れ聞こえるライブだったりした。
その日産スタジアムは、「新横浜公園」という横浜市内最大の運動公園の中に建っている。
市内最大というだけあって、めちゃくちゃ広い。サッカーコートはいくつもあるし、野球場やテニスコートはもちろん、バスケットボール広場、スケートボードパーク、ドッグランまである。
中央の緑地のところが全部新横浜公園である。右下にある日産スタジアムの大きさを見てもらえれば、いかに広いか分かっていただけるかと思う。
で、なんでこの公園が水没すること前提なのかというと、ここは「鶴見川多目的遊水地」でもあるのだ。
新横浜公園のそばには鶴見川が流れている。鶴見川は昔から“暴れ川“で有名で、大雨による洪水が頻繁に起きていた。
そこで、氾濫した川の水を一時的に溜め込んで、周辺の洪水被害を最小限に留めるための遊水池をここに作った。それが1997年のこと。
新横浜公園は、遊水池であり、公園でもある。有事の際はこの公園一帯が水に浸かるのだ。
遊水池に溜められる水の量は、最大で390万立方メートル。東京ドーム3杯分よりまだ多い。
1000本以上の柱で支えられたスタジアム
さっきの図、よく見ると日産スタジアムも水に浸かっている。
実は日産スタジアムは、1000本以上の柱に支えられた「高床式」。水没することを前提に、スタジアム全体が底上げされているのだ。
外周を歩くと、どこまで行ってもコンクリートの柱だらけ。上には無数のパイプが走っている。装飾など必要ない、無骨な世界観が続く。
ちなみに、1階部分の外周はランニングコースとしても利用されている。炎天下を避けられるし、車や信号も無いしで走りやすそう。この日はどこかの部活がタイム計測をしていて、厳しい檄も飛んでいた。
水没が前提になっている公園設備
そのままスタジアムを出て、公園に出てみよう。
気温は30℃を超え、日光が容赦なく降り注ぐ。「ここは水底……」と想像すれば少しは涼しく……なるわけもなく暑さの圧勝。心頭滅却しても体は正直だ。
とにもかくにも、「ここは遊水池」という目線でウロウロ歩いてみる。すると、いろいろ発見があった。
たとえばサッカー場に隣接したレストハウス。
「遊水池目線」で園内を観察すると、なんの変哲もない公園に「これも水没前提じゃない?」というものがポロポロ見つかる。
「柵に木やロープを使わず金属やチェーンを使っている」のはたぶんそうなんじゃないの?とか、本当はどうか分からないけどブラブラ歩くぶんには「そうかも~」って思えるだけで楽しい。
このまま歩いて川のほうまで行ってみよう。
鶴見川があふれると、あの堤防を越えて水がやってくるのか……と想像する。想定された環境とはいえ、それはやっぱり怖い。
言い忘れていたけど、鶴見川が危険な状態になったら、もちろん新横浜公園も駐車場も事前に閉鎖される。ご安心を。
鶴見川さえ暴れなければ、ここは穏やかな水面が広がる環境。野生動物もいろいろ暮らしているのだろうな。
ありがとう治水工事
「日産スタジアムの周囲は洪水のとき水が溜まるようになっている」というのは、ニュースで見たりして知ってはいた。
でも実際に行ってみると、公園の広さや想定された水深に驚いたり、設備の工夫に気づいたりする。視点が増えるのはいつだって楽しい。