その日は朝から何かが変だった。まず、埼玉県の某所にあるロケット荘に行くため、ワクワクしながら特急ラビューに池袋から乗り込んだ……ら、所沢で突然ストップ。しばし待つも、“復旧未定” とのことで降ろされた。
どうしよう。このままだと遅刻するぞ。現場ではIMAZUさんをはじめたとしたホービエン軍団が待っているというのに。電話電話……てゆうか電話が通じない。きっと今このパニックで、所沢駅周辺の回線がパンクしているのだ。
まいったなぁ……と思いながら列車から降りると、偶然、Yoshioとリアム(甥っ子)がそこにいた。運良く合流し、急きょレンタカーでロケット荘まで向かうことに。約1時間の遅刻の末、現場に到着。するとそこには──
ユンボ(パワーショベル)がうなりをあげていた……!
そう、なんと今回、待望のユンボ参戦! 物置小屋の破壊をする前に、まずは先日の作業で積み上がった草木の整理を始めておいてくれたのであった。ユンボでつかんで、橋へ置く。それを手作業でトラックに積んで──
なんて頼もしいんだユンボってやつは。
長い首を自由に、力強く動かして……
まるで……まるで……
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> 龍(ドラゴン)のようではないか。 <
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私には、思いのままユンボを操る厚化粧のIMAZUさんが、さしずめ龍の上に乗る龍遣い(りゅうづかい)のように見えた。頼もしさは無論のこと、神々しささえ感じていた。もしも大昔の人がユンボを見たら、その姿を「龍じゃ、龍じゃ!」と形容することだろう。
──と、そんなことを考えていたその時、IMAZUさんが声をあげた!
「カニがいるぞ〜!」
一体何を言っているんだIMAZUさん。ここは山だぞ。暑さで頭がヤられてしまったのかIMAZUさん。カニなんているわけ……
いたぁ〜〜〜〜〜〜!
そう、そこにいたのは、橋の下の小川からよじ登ってきたサワガニだった。IMAZUさんによると、「ジメジメとした草木の水分目当てに潜り込んでいたのでは?」とのこと。それにしてもIMAZUさん、目が良すぎる。
とにかくこの日の午前中は、草木の整理に費やされた。集中して作業する我々。というのもこの現場、携帯の電波が非常弱く、私のキャリア(Y!mobile)なんて圏外なので、作業に集中せざるを得ないのである。
そして午後──
ついに──!!
「テゴワシ」ならぬ「ドラゴワシ」が始まった!
すごいすごい!
あっという間に倒壊する物置小屋。
木材、トタン、ガラス、釘と、できる限りの分別をしつつ……
IMAZUが操るドラゴン(ユンボ)は、足場の悪さもテクで回避し、奥へ奥へと進んでいく。IMAZUさん、カッケーなぁ〜。お化粧してるけどカッケェ〜なぁ……なんて考えていたその時、またもIMAZUさんが声をあげた!
「ハチだぁ〜〜〜!」
どうやらハチ(スズメバチ)がいたらしく、めずらしくIMAZUさんが殺虫剤の指示を「アニ・キ」に送った。造園業の世界では、スズメバチは特に要注意なのかも? ともかく、ガンタイプの殺虫剤を噴霧するアニ……
「カマドウマだぁ〜〜〜!」
なんと、ハチ用の殺虫剤に反応したのか、半倒壊した物置小屋の隙間という隙間から、ちょっと引くくらいデカいカマドウマ(ゴキブリみたいな昆虫)が、100匹、いや200匹……と姿をあらわしたのである!
カニだのハチだのカマドウマだの、今日は予想外の生物が出てくるな……と思ってたら、今度は生き物ではなく──
「雑誌だぁ〜〜〜〜!」
携帯の通じないエリアにおいては、それがたとえ20年以上も前の雑誌であっても「文明」に見える。どうやら前に住んでいた人はテレビが好きだったようで、WOWOWの小冊子や、『TV Taro』といった番組表、そして──
数々のチラシ……
例えばパソコン屋さんのチラシには……
懐かしすぎる古いMac!(PowerMacintosh7600/120)
懐かしすぎるデジカメ!(CASIO QV-100)
IMAZUさんは女装した時に使えそうな下着を真剣な表情で選んでいたが、
私はとある不動産のチラシに目が釘付けとなっていた。なぜならば──
このチラシの主というか不動産の会社に、かつてそば屋でバイトしていた私はよく出前に行っていたからである。会社名を見てハッとして、住所を見て確信したので間違いない。私はここに行っていた。毎日のように。さらにさらに、
おそろしいことに、私がバイトしていた時期まで被っていた。いったいなぜ、埼玉の奥地にあるこの場所に、私がバイトしていた蕎麦屋がある目黒区・学芸大学の不動産会社のチラシが配布されているのか。謎すぎる。
バイトしていた18〜19歳のころの私と、42歳の今の私が、ここ埼玉の奥地でつながった。私がここに来たのは運命なのか。なんだか不思議なことが起きるもんだな。そんなことを考えながら──
やがて日が暮れ始めたので、この日の作業は終了と相なった。次回、テゴワシならぬドラゴワシ(ユンボ壊し)の続きをやろうと話し合い、IMAZUさん率いるホービエン軍団と別れた我々。
車に乗り込み、山を降りると、ようやく携帯の電波が入ってきた。次々と「未読」の数字がカウントアップされていく私のiPhone。LINEを開くと、複数名から同じようなメッセージが届いていた。
安倍元首相の事件が起きたのは、まさにこの日のことだった──。合掌。
参考リンク:有限会社豊美園(ホービエン)
執筆:GO羽鳥
Photo:RocketNews24