ヘリテージブランドとしてスニーカーの分野に参入することは、NFTのおかげで以前よりも容易になっている。
バルマン(Balmain)のようなラグジュアリーブランドは、デジタルの領域をWeb3のファンとドロップカルチャーにどっぷり浸かっている人々が交差する場と捉えている。そして今度はクラシックなフラットシューズやパンプスで知られるヘリテージブランド、サルヴァトーレ・フェラガモ(Salvatore Ferragamo)が、ニューヨークにオープンした新店舗と、Web3やデジタルアーティスト、コラボレーションに焦点を当てたスニーカードロップで、その製品ラインを一新させている。
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NFTと没入型のリテール体験を提供する新店舗
1928年に創業したサルヴァトーレ・フェラガモは、6月24日、ニューヨークのグリーンストリート63番地に2600平方フィート(242平方メートル)のコンセプトストアをオープンした。この店舗は同ブランド初のNFTコレクションと没入型のリテール体験が特徴となっている。オープンは、他のファッションブランドも参加したニューヨークでのWeb3カンファレンス、NFT.NYCの終了と時を同じくした。
「サルヴァトーレ・フェラガモのファミリーに若いオーディエンスを引き込むことは、長いこと私たちの目標だった。そしてソーホーの石畳の通りは、昔からまさしく若い精神の象徴だった。ニューヨークのダウンタウンのカルチャー固有のエネルギーを糧にしているブランドとして、ここは私たちにぴったりの本拠地だ」と、サルヴァトーレ・フェラガモのチーフブランドオフィサー、ダニエラ・ヴィターレ氏は述べた。現代的な小売業態と商品展開は、サルヴァトーレ・フェラガモがメタバースへの関心の波に乗りたいという意識の現れである。同ブランドは、ニューヨークの5番街と、ロウアーマンハッタンのショッピングモールであるブルックフィールド・プレイス(Brookfield Plac)の2カ所にそれぞれ独立した店舗を構えている。
デジタルアーティストとのコラボレーション
ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)など同等のラグジュアリーブランドにとって、実店舗は商品を販売する場であると同時に、ブランドイメージを展開するための展示スペースでもある。「ソーホーのコンセプトストアは、リテールへの明確なモジュラーアプローチによって定義されている。つまり、私たちのほかの多くの店舗のように固定された空間ではなく、流動的な空間になっている」と、ヴィターレ氏は説明した。「インテリアのデザインにアプローチする方法について考えた際、フレキシブルな外観と雰囲気(アートギャラリーやエキシビションセンターに似たような何か)を作り出すことが、私たちにとって非常に重要だった」。
店舗には、以前ディオール(Dior)やMACコスメティックス(MAC Cosmetics)とも提携していたマルチデザインスタジオのデ・ヤン(DE-YAN)と共同で設計した体験型の要素が多数盛り込まれている。そのなかには、デジタルアーティストのShxpir(シェイクスピア)氏との共同で作られたNFTブース、カスタムスニーカープログラム、同アーティストのグラフィックプリントをフィーチャーしたTシャツやスウェットシャツの限定カプセルコレクションなどが含まれている。
Shxpir氏は、15年前に大学でデジタルアートの制作を始めた。今回のコラボレーションのプレスリリースによると、当初、彼の作品は年配のアーティストやギャラリストから軽蔑され、「壁にかけることができない」ため「本当のアートではない」と批判されていた。Shxpir氏は自身の特徴的なスタイルについて、「フェイクアートは普通の人が楽しむためのもの。人生は短い。ゆるく、そして楽しく!」と語っている。
NFTの制作をわかりやすく体験できるユニークなNFTブース
NFTブースは、ほかのラグジュアリーブランドではこれまで実施されていないユニークなリテール機能だ。顧客は鏡張りのインスタレーションからブースに入る。そしてShxpir氏がデザインした背景のなかから好きなものを選び、ハイスペックなブラックマジック(Blackmagic)カメラで撮影される。制作されたアートワーク(さらに拡張される可能性もあるが、当面は256個のNFTに限定される)は、オープンシー(Opensea)を通じてイーサリアムのブロックチェーン上で鋳造される。その鋳造費用はすべてサルヴァトーレ・フェラガモが事前に負担する。物理的なコラボレーションカプセルコレクションの収益金はすべて、ニューヨークでもっとも歴史がある有数のLGBTQ+団体のひとつであるザ・センター(The Center)へ直接寄付される予定だ。
NFTブースについてヴィターレ氏は、Web3の領域が威圧的になりがちである点をはっきりと指摘した。「ブランド、アーティスト、オーディエンスが一緒になって、物理的な小売空間で完全にパーソナライズ可能なデジタルアート作品を制作する今回のようなプロジェクトは、私たちが行う規模としては初めてのものとなる。このプロジェクトは、システムをわかりやすく説明する形でコンセプト化されており、私たちはすべてのステップを顧客と一緒に行う。NFTの経験がなくても、あるいはウォレットを持っていなくても、必要なステップを私たちが案内するし、それに非常に重要なことだが、鋳造に関わるすべての費用をこちらで負担する」。
パーソナライズできるホログラムスニーカー作成ステーション
また、店内にはホログラムスニーカー作成ステーションがあり、顧客はスニーカーのカラーリングをカスタマイズすることが可能で、またそれを保存して製造に回す前にリアルタイムでホログラムスニーカーを確認することができる。ホログラムは、服の試着の手段として更衣室でテストが行われたり、ラルフ・ローレン(Ralph Lauren)が人の代わりとして使用したことがあるが、ファッション業界ではあまり成功していない。しかしサルヴァトーレ・フェラガモは、そこを変えたいと考えている。「このプログラムのカスタマイズという側面は、オーディエンスがこの領域にどのように関わるかを見る上で不可欠だ」とヴィターレ氏は述べた。「ここではホログラム作成ユニットによって、ビジターが自分のスニーカーを完全にパーソナライズすることができるという、ほかでは得られない体験を提供する」。
アディダス(Adidas)やナイキ(Nike)とくらべて、スニーカーはサルヴァトーレ・フェラガモが販売する代表的な商品ではないかもしれないが、ホログラムストアの統合は、同ブランドがスニーカー文化へとさらに入り込みたいと考えていることを示している。そして、そのWeb3フレンドリーなフォーマットは、プーマ(Puma)、ナイキ×RTFKT、アディダスといったブランド(この3社はいずれも昨年、NFTをローンチしている)が推進しているスニーカーやNFTに興味を抱く同じコミュニティを取り込むことを意味している。
[原文:Salvatore Ferragamo opens NYC store with NFT booth and customizable sneaker holograms]
ZOFIA ZWIEGLINSKA(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)