「生き残るには超大作級のマーケティングが必要」: HBOマックス マーケティング担当バイスプレジデント S・カードウェル氏

DIGIDAY

数多の動画配信サービスが業界の覇権をめぐってしのぎを削る「ストリーミング戦争」は、まさに、玉座をめぐる権力争いを描いた「ゲーム・オブ・スローンズ」の世界を彷彿させる。

さきごろ公開された同作のスピンオフシリーズ「ハウス・オブ・ザ・ドラゴン」について、HBOマックス(HBO Max)のオリジナルズマーケティング担当バイスプレジデントを務めるスティーヴン・カードウェル氏は、「同サービス始まって以来最大のキャンペーンを展開した」と述べている。(具体的な金額は明かされなかったが、同作へのマーケティング投資は「ゲーム・オブ・スローンズ」シリーズのどの作品と比べても、その3倍近くに相当し、媒体費は1億ドル(約143億円)を超えると報じられた。)

8月21日に公開された新シリーズでは、テレビ、ソーシャルメディア、ビルボード、そのほかのオンライン広告を用いた通常の広告に加え、外国語学習アプリのデュオリンゴ(DuoLingo)やソーシャルプラットフォームのSnapchatら、他ブランドとのコラボレーションにも注力している。また、「ハウス・オブ・ザ・ドラゴン」の全話を通じて仮想ドラゴンを訓練し、その成長を見守るAR(拡張現実)アプリも投入された。

米DIGIDAYはカードウェル氏にインタビュー取材をおこない、「ハウス・オブ・ザ・ドラゴン」のマーケティング活動やマーケティング期間の短期化に対応する戦略、ディスカバリープラス(Discovery+)の合併計画の影響などについて話を聞いた。

なお、カードウェル氏の発言内容は、簡潔さと読みやすさを考慮して編集を加えている。

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――「ハウス・オブ・ザ・ドラゴン」とこれまでの「ゲーム・オブ・スローンズ」のマーケティングを比べたとき、その違いは何か?

ゲーム・オブ・スローンズの最終章が公開された2019年と比べて、世界は大きく変わった。そもそも、当時HBOマックスは存在していなかった。今作のマーケティングを考えるにあたり、HBOマックスがグローバルな動画配信サービスであることに着目し、何よりもまず、できるだけ広範囲にリーチを伸ばす、世界的なキャンペーンをめざした。他社との連携やプロモーションを企画する際は、「これはグローバルな展開が期待できるか? この施策で米国外に視聴者を広げることは可能か?」という視点で検討した。「ゲーム・オブ・スローンズ」のファンは海外にも大勢いる。彼らをまるごと巻き込むマーケティングキャンペーンを考えた。

――具体的には?

たとえば、ARアプリの開発では、当初から海外のファンが利用することを想定して開発した。Snapchatとのコラボでは、新シリーズ公開を世界中の注目を集める大きな文化的瞬間に昇華させるべく、世界各地のクリエイターと連携して特別なARマーカーを作成した。このシリーズについて語るTwitterの投稿を見ても、中心的な言語は英語ではない。とびきりクールだ。

――「ハウス・オブ・ザ・ドラゴン」のマーケティング予算が「ゲーム・オブ・スローンズ」の各シーズンよりもはるかに高額という報道があった。今年のキャンペーンが例年と異なる点、その理由は?

具体的な数字については明らかにできないが、間違いなく過去最大のキャンペーンであり、確実に成果をあげている。公開初日の視聴者動員数も過去最高で、キャンペーンとの相関関係には大いに関心がある。我々の基本精神はこれまでと変わらないが、消費者の視聴習慣は昔よりも断片化している。動画配信サービスの数も増えており、当然、視聴者の注目をめぐる競争も激化している。シリーズ新作に対する需要と興奮を生み出すには劇場公開映画並みのマーケティングが必要だった。

異なる点といえば、我々がワーナーブラザースディスカバリー(Warner Bros. Discovery)という新しい会社の一員となったこともそのひとつだ。おかげで以前には手の届かなかった新しいプロモーション手段も使えるようになった。ディスカバリーネットワーク(Discovery Network)が保有するすべてのチャンネルに加え、「フレンズ」や「アメリカンダッド」からレスリング番組まで、ワーナーブラザースディスカバリーを代表するブランドすべてを統合的に活用できる。まさに膨大な作品リストだ。

――先月の決算説明会で、最近はキャンペーンの期間が短くなっているという話があった。この傾向が広告活動に与える影響は?

このキャンペーンでは従来の劇場公開映画に近いモデルを採用している。もうすぐ大型作品が公開になるというシグナルを世間に送り、綿密な計画のもと、公開初日に向けてさまざまな施策を積み上げる。一方で、ロングテールの視聴者を誘導するための施策も必要になる。

世の中にはいろいろなイベントが数限りなくあって、すべてについて1年半も前からマーケティング活動を開始するとなると、多くの消費者は不満を感じるのではないか。なにかおもしろいことがあるといわれれば、居ても立ってもいられない。すぐにも見たくなるのが人情というものだ。ちょっと変わったコメディ作品程度なら、これほど長期におよぶキャンペーンはやらない。いずれにしても、このやり方に斬新さがあるかと問われれば、それは疑問だ。どちらかといえば、ドル箱映画のマーケティングモデルへの回帰に近い。2週間という短い期間に凝縮できる類いのものではないということだ。

――先週、HBOマックスで多くのオリジナル作品を含む数十本のコンテンツが配信停止になるというニュースに触れた。HBOマックスとディスカバリープラスの合併計画は、多様な作品のマーケティング戦略全体にどのような変化をもたらしているか?

そのことについては、まだ何も決まっていない。できるだけリーチを広げ、持てるチャネルを最大限に活用するという意味では、「ハウス・オブ・ザ・ドラゴン」は最良のシナリオで進んでいる。従来のファン以外に視聴者を広げる機会はいくらでもある。ワーナーブラザーズのデヴィッド・ザスラフ最高経営責任者(CEO)が決算説明会で言及したように、我々は良質なコンテンツに集中したい。

その結果、我々のプラットフォームのコンテンツが不足するのであれば、視聴者を惹きつけ、時代を映すような超大作への投資を増やせばよいだけだ。そういう理由で、「ハウス・オブ・ザ・ドラゴン」への投資も大きなものとなった。作品の大きさやスケール感に見合うキャンペーン、さらには「ゲーム・オブ・スローンズ」シリーズに寄せるファンの期待と同じくらい斬新で、大規模で、プレミアム感の高いマーケティングを展開したいと考えた。

[原文:‘Tentpole-level marketing’: HBO Max’s Steven Cardwell on promoting House of the Dragon, Discovery+ merger

Marty Swant(翻訳:英じゅんこ、編集:黒田千聖)

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