トレードデスクとAWS、 UID 2.0 の統合契約を締結:広告主のメリットは大きいが、パブリッシャーからは懸念も

DIGIDAY

ザ・トレードデスク(The Trade Desk、以下TTD)が、メールベースの識別子ユニファイドID 2.0(Unified ID 2.0:以下、UID 2.0)の展開を促進し続けるなかで、AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)とUID 2.0の統合契約を結んだ。

今回の統合により、AWSを利用している企業は、UID 2.0を採用するファーストパーティデータをマッチングして、AWSマーケットプレイスを通じてプログラマティック広告掲載をもっと効率よく促進できる。

プライバシー規制への対応手段

Amazonは、ユーザーの機密データを外部にさらす必要なしに、「AWS Nitro Enclaves」を利用してプログラマティック広告を掲載できるため、統合はプライバシー要件を満たすのに役立つと主張している。AWS Nitro Enclavesは、顧客のPII(個人の識別可能情報)のセキュリティを向上するとAmazonが主張している機能だ。

また両社は、UID 2.0識別子は、ユーザーと入札リクエストとをマッチングするために共有される非永続型の「一時的UID 2.0トークン」に暗号化されるため、統合によって、PIIが外部者間で直接的に共有されることはないと主張している。

DIGIDAYでは、欧州経済地域(EEA)でのサービス開始日が、まだ未定であることを両社に確認しているが、EEAでは、EU一般データ保護規則(GDPR)がUID 2.0展開の障害だと分かっている。プライバシー要件を守りながらターゲティング機能の維持を目指す業界の取り組みを妨げる法制定のさらなる例といえる。

UID 2.0は、業界のバイサイドの主要な関係者(特に、広告業界の持株会社数社)のあいだで、注目を集めるような支持を勝ち取ってきた。だが、パブリッシャー間での受け止め方はもっと多様で、プライバシーを守る責任をめぐって懸念を表明するパブリッシャーもいる。

業界標準の管理者は誰に?

バイアスをめぐるこうした懸念を打ち消すべく、TTDは、(オープンソースの)UID 2.0の管理をサードパーティに委ねるよう求めてきた。だが、業界のIAB(インタラクティブ広告協議会)テックラボ(Tech Lab)とプレビッドオーグ(Prebid.org)はいずれも、提案されている技術基準の管理者になる機会を避けた。

この目的に向け、TTDは、AWSとの提携の発表を利用して、ターゲティング手法の管理者およびオペレーターが、ターゲティング手法にアクセスする際に果たす役割の違いなど、UID 2.0の内部動作の一部をより詳細を説明している。

提携について詳述したブログ投稿によると、「UID 2.0の管理者は、分散型UID 2.0 システムへのアクセスを管理する一元的なサービスであり、暗号化および復号化キーの配布を担当する」という。「UID 2.0のオペレーターは、UID 2.0サービスを運用して、ユーザーのPIIの処理と、UID 2.0およびUID 2.0トークンの生成と管理を行う」。

投稿は、「パブリックオペレーター」と「プライベートオペレーター」の区別へと続く。パブリックオペレーターは、APIを通じてUID 2.0トークンにアクセスする関係者で、プライベートオペレーターは、独自の内部バージョンのUID 2.0を運用する。

「機密データに第三者がアクセスできない環境だ」

AWSで全世界のデータコラボレーションおよび相互運用性ソリューションと広告およびマーケティングテクノロジー業界を担当する責任者、アダム・ソロモン氏は、メールでの声明で次のように述べている。「UID 2.0プライベートオペレーターサービス運用の主要な要件のひとつは、UID 2.0オペレーターアプリケーションが電話番号やメールアドレスなどのユーザーのプライベートデータを処理するため、機密データに他のUID 2.0オペレーターやプロバイダーがアクセスできない信頼できる環境だ」。

ソロモン氏によると、AWS Nitro Enclavesなら、プログラマティック広告にUID 2.0を採用して、「機密データを隔離する、高度に制限されたコンピューティング環境」を構築し、消費者のプライバシー保護に貢献することができるという。

「このソリューションによって、クラウドでUID 2.0のワークフローを運用したい顧客からの激しい突き上げを減らせる。顧客は、クリック数回で開始できる既製のソリューションを利用して、AWSアカウントでUID 2.0プライベートオペレーターサービスを容易にデプロイできる」と、ソロモン氏は付け加えた。

「IDの利用がシームレスになるはず」

アドテクおよびマーケティングテクノロジー専門コンサル企業、カントン・マーケティング・ソリューションズ(Canton Marketing Solutions)の共同創設者、ロバート・ウェブスター氏は、DIGIDAYとのインタビューで、人間工学面での向上を考慮すれば、今回の提携で、UID 2.0の魅力が高まるはずだと語る。

「多くの広告主が、AWSを利用して、独自のデータウェアハウジングソリューションをデプロイしている。そうしたシステムを通じてUID 2.0を導入できれば、IDの利用がシームレスになるはずだ。つまり、ID利用時に、広告主が自社のアーキテクチャーでデータの収集や保存を行うたびに、UID 2.0を選択したいと思うようになる可能性がある。詳細次第では、オープンな市場から離れて非公開でIDを作成できるかのように思われるので、業界のCTOやCIOにある程度の信頼を与えることができるだろう」。

[原文:Amazon and the Trade Desk ink deal to deploy UID2

Seb Joseph | and Ronan Shields(翻訳:矢倉美登里/ガリレオ、編集:分島翔平)

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