ウイルスが宿主の体臭を「蚊を引きつける臭い」に変えて蚊に刺されやすくしていることが判明

GIGAZINE



蚊は刺された部位にかゆみを引き起こすだけでなく、マラリアデング熱ジカ熱といったさまざまな病気を媒介しており、世界中で年間100万人以上が蚊が媒介する病気の影響で死亡しているとされています。「最も多くの人間を殺した動物」とされる蚊について、特定のウイルスが宿主の体臭を「蚊を引きつける臭い」に変えてしまい、宿主を蚊に刺されやすくしているという研究結果が報告されました。

A volatile from the skin microbiota of flavivirus-infected hosts promotes mosquito attractiveness – ScienceDirect
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0092867422006419

Viruses can change your scent to make you more attractive to mosquitoes, new research in mice finds
https://theconversation.com/viruses-can-change-your-scent-to-make-you-more-attractive-to-mosquitoes-new-research-in-mice-finds-185833

蚊は特定のウイルスや病原体に感染した動物の血を吸うと、そのウイルスや病原体のキャリアとなり、その後に血を吸った動物にウイルスや病原体を広げます。そのため、蚊がどのようにターゲットとなる動物を見つけ出しているのかは、ウイルスが自然界を循環する上で重要な要素であり、蚊が媒介する病気を防ぐ新たな戦略を考案するために役立ちます。

以前から、蚊は動物の体温や呼吸で放出される二酸化炭素など、さまざまな感覚的手がかりを利用してターゲットを見つけていることが知られていました。また、2014年の研究ではマラリアに感染したマウスの体臭が変化し、より多くの蚊を引きつけるようになることもわかっていました。中国やアメリカの研究チームはこれを念頭に置き、デング熱を引き起こすデングウイルスやジカ熱を引き起こすジカウイルスなどのウイルスも宿主の臭いを変化させるのか、そして体臭の変化を防ぐ方法はあるのかを研究しました。


まず研究チームは、「デングウイルスに感染したマウス」「ジカウイルスに感染したマウス」「ウイルスに感染していないマウス」をそれぞれ異なるガラスケースに入れ、空気の流れを作り出して蚊のいる方向へマウスの臭いを流しました。すると、ウイルスに感染していないマウスよりもデングウイルスやジカウイルスに感染したマウスの方へ、より強く蚊が引きつけられることが確認されました。

ジカウイルスに感染したマウスは非感染マウスよりも二酸化炭素排出量が少なく、デングウイルスに感染したマウスも二酸化炭素排出量は変わらなかったことから、蚊がマウスに引きつけられる理由として「二酸化炭素」は除外されました。また、ガラスケースがあるせいで蚊が病気によって体温が上昇したマウスと平熱のマウスを区別できなかったため、「体温」も要因から排除されたとのこと。しかし、ガラスケースにフィルターをかけて蚊に臭いが届かないようにしたところ、ウイルスに感染したマウスと非感染マウスに引き寄せられる蚊の数が同程度になったことから、マウスの「体臭」が蚊を引き寄せていることが確かめられたと研究チームは述べています。

続いて研究チームは、ウイルスに感染したマウスから放出される体臭から、20種類のガス状化合物を分離し、蚊に有意な反応をもたらす3つの化合物を特定しました。これらの化合物をマウスと人間の皮膚に塗り、蚊がどれほど引き寄せられるのかを調べたところ、「アセトフェノン」という有機化合物だけがより多くの蚊を引き寄せることが判明しました。

デングウイルスやジカウイルスに感染したマウスは、非感染マウスより10倍多いアセトフェノンを産生していることや、デング熱になった人間の脇の下から採取した体臭サンプルには健康な人間より多くのアセトフェノンが含まれていることもわかりました。また、デング熱患者の体臭サンプルと健康な人間の体臭サンプルをボランティアの肌に塗ると、蚊は一貫してデング熱患者の体臭に引かれることも確認されたとのこと。


以上の研究結果は、デングウイルスやジカウイルスが宿主の産生・放出するアセトフェノンの量を増やすことができ、それによってより多くの蚊を引き寄せていることを示唆しています。さらに研究チームは、「一体なぜ、デングウイルスやジカウイルスに感染するとアセトフェノンの放出量が増えるのか?」という疑問についても調査しました。

アセトフェノンは人間やマウスの皮膚に生息する細菌によって産生される代謝副産物であるため、研究チームは「ウイルスが皮膚に生息する細菌の種類を変化させ、結果としてアセトフェノンの産生量が増加するのではないか」と考えました。このアイデアをテストするため、デングウイルスやジカウイルスに感染したマウスからさらに腸内細菌を除去するか、皮膚細菌を除去して蚊にさらす実験を行いました。その結果、皮膚細菌が除去されたマウスは有意に蚊の誘引量が少なかったとのことで、皮膚の細菌がアセトフェノンの供給源であることが示唆されたそうです。そして、ウイルスに感染したマウスと非感染マウスの皮膚細菌組成を比較したところ、一般的なグラム陽性桿菌であるバシラス属の細菌が、ウイルスに感染したマウスでは有意に増加していることが判明しました。

最後に研究チームは、ウイルスによるアセトフェノン産生量の増加を抑制し、体臭変化を防ぐ方法について研究しました。ウイルスに感染したマウスでは皮膚において微生物と戦うレジスチン様分子α(RELMα)の量が低下していることに着目した研究チームは、RELMαの産生量を増加させるビタミンAの誘導体をウイルスに感染したマウスに投与し、皮膚に存在するRELMαとバシラス属の細菌の量を測定した上で、蚊にさらす実験を行ったとのこと。

その結果、ビタミンA誘導体で治療した感染マウスはRELMαの量が非感染マウスと同程度になり、皮膚上のバシラス属細菌の量が減ったことが判明。また、ビタミンA誘導体で治療したウイルス感染マウスでは、非感染マウスと比較して誘引される蚊の量が変わらなかったこともわかりました。


研究チームは次のステップとして、これらの結果を人間において再現することを目指しています。ビタミンA欠乏症は蚊によるウイルス媒介が深刻な東南アジアやサハラ以南のアフリカなど、多くの発展途上国で一般的な病気です。そのため、経口接種するビタミンAあるいはビタミンA誘導体を増やすことで、蚊によるウイルス媒介を軽減し、長期的なデング熱やジカ熱の流行を抑制できる可能性があるとのことです。

この記事のタイトルとURLをコピーする

Source