テイストメーカー になりたい小売業者の野心に着目した新たな企業買収【ファッションブリーフィング】

DIGIDAY

「トレンドセッター」になりたい小売業者の野心に着目した新たな企業買収

ファッションの買い物客のトレンドセッターを目指すことが新たな買収の動機となり、小売の風景を変化させている。

ブランドが顧客がいる場所で顧客に対応するために販売チャネルをますます拡大しているため、ラグジュアリー小売業者、とくにオンラインショップは、差別化に苦労している。同時に、デジタル広告で競合他社を圧倒して顧客を獲得するような戦略の限界にも気づいている。多くの企業が安定を求め、以前よりもM&Aのアイデアを受け入れるようになりつつある。また、ファッションの現在の潮流を考えると、目にしているオファーは同業他社や新進のショッピングの目的地からのものであるという事実も納得がいく。

高額の買い物客の価値がもっとも明白であるため、小売業者はファッションの発信源になるか、あるいは発信源であり続けようという落ち着かない状態にある。しかしラグジュアリーの定義が変化し、市場の境界線が曖昧になり続けるなかで、ラグジュアリーブランドとパートナーシップを結ぶことは、そこに到達するための一歩に過ぎない。今日の買い物客は、あらゆるレベルで見識があり、店舗よりもTikTokerに影響されやすい傾向がある。したがって小売業者は、ラグジュアリーの顧客にラグジュアリー製品へのアクセスを提供することに加え、キュレーター、インスピレーションの源、エンターテインメントのハブになることに注力している。そして、それに応じて戦略的な動きをしている。

ブランドがレベルアップすることはむずかしい

6月初め以降、プラスサイズのeテイラーであるディアアンドコー(Dia&Co.)が、同じターゲット消費者を持ちながらラグジュアリーブランドに注力している11オノレ(11 Honoré)を買収した。また、ソーシャルプラットフォームのピンタレスト(Pinteres)は、メイドウェル(Madewell)からマルジェラ(Margiela)やバレンシアガ(Balenciaga)までのスタイルを販売するAI搭載のファッションマーケットプレイス、ジ・イエス(The Yes)を手に入れている。そしてちょうど今週は、ドイツのオンライン小売業者ザーランド(Zalando)がハイスノバイエティ(Highsnobiety)を買収した。ハイスノバイエティはストリートウェアの出版物で有名だが、プラダ(Prada)などの独占コレクションに支えられて成長している小売事業を持っている。

ラグジュアリーブランドや小売業者は、ディフュージョンラインなどを通じて、マスコンシューマにリーチする製品拡大に成功しているが、レベルアップはいわばより困難である。しかしそれでブランドが止まることはない。人気のイヤリングを70ドル(約9450円)で販売している20歳のケンドラ・スコット氏は、2013年にはファインジュエリーに拡大し、先月末にはブライダルリングを発売した。ファストファッションのシーイン(Shein)でさえ、その製品を高めようとしているが、シルク、カシミア、リネンのベーシックな新ラインは、MOTFという新しい名前で販売されている。 MOTFのドレスの価格は25ドル(約3380円)から、Sheinのドレスは3ドル(約405円)からとなっている。

「自分たちが知られてきたことから脱却するのはむずかしい」と先週のGlossyのファッション&ラグジュアリーサミットで、クリスティーズ(Christie’s)のマーケティング責任者ネダ・ホイットニー氏は述べた。「コラボレーションはそこに到達して、新しいフォロワーや、これまでそのブランドに興味を持たなかった人たちを獲得するためのすばらしい方法だ。しかし上に行くのは下に行くよりむずかしい。それを成功させたブランドはほとんどない」。

顧客に質の高いテイストを提供するアプローチ

コラボレーションではなく、アソシエーションによってラグジュアリーにアクセスすることも効果的だ。サミットでは、アトランタの専門店ウィッシュ・アンド・アンティドート(Wish and Antidote)の創業者ローレン・エイモス氏が新しいラグジュアリー小売業者としてハイエンドなブランドパートナーを確保することのむずかしさについて語った。「当初は、物乞いのようなものだった」と、彼女はそのアプローチについて説明している。現在アトランタのラグジュアリー市場が活況を呈していることが助けになったと彼女は述べ、ディオール(Dior)やルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)はアトランタで大きなビジネスをしていることに触れた。ちょうど今日、ニーマン・マーカス(Neiman Marcus)はアトランタのレノックス・スクエア(Lenox Square)にある店舗で、外観をバーバリーのロゴで包むといった手の込んだバーバリー(Burberry)のテイクオーバーをローンチした。 6月16日のZoomで同社プレジデントのラナ・トドロヴィッチ氏は、この店舗はニーマン・マーカスの店舗のなかでもバーバリーをもっとも多く取り扱っていると述べている。

ラグジュアリーブランドが直販を優先し、ラグジュアリーが間違いなく消費者の観点からさらに独占的になるにつれ、小売業者によるこのようなキャンペーンが今後も必要であることは疑いの余地もない。それは、有名なラグジュアリー大手にも当てはまる。

ニーマン・マーカスにとって、顧客第一のアプローチを取ることは効果的だった。「大小のブランドが、目の肥えたオーディエンスの前に自社ブランドを置くことに価値を見出している」と、トドロヴィッチ氏は言う。

「私たちは(買い物客と)関係を持っており、この非常に魅力的な人々を活性化する方法は、つねにオーダーメイドの目の肥えたテイスト(に基づいたキュレーション)を提供することだ。それは店に入ったり、ログインしたりすると、本当に楽しくて夢中になれるような(ある種の)ファッションだ」。

ロイヤルカスタマーベースの強化に取り組むニーマン・マーカス

ニーマン・マーカスのロイヤルカスタマーは、平均して年間46回購入し、年間112回サイトを閲覧している。これらの顧客は年間1万ドル(約135万円)以上を消費しており、ニーマン・マーカス全体の買い物客ベースの40%を占めている。同社の新しいロイヤルカスタマー、つまり最初の購入から60日以内に2回目の購入を行う顧客は、パンデミックの開始以来、より若くなっている。平均年齢は40代半ばから30代半ばにシフトした。現在、60%がZ世代、ミレニアル世代、X世代だ。

ニーマン・マーカスの事業は明らかに安定しており、4月30日までの四半期の売上高は前年同期比30%増となった。この1年で同社はいくつかの機能を構築することで、ロイヤルカスタマーベースの強化に取り組んできたが、その多くは偶然にも、最近買収されたラグジュアリー小売業者の得意分野だ。

ひとつに、ニーマン・マーカスが品揃えに新しさと独占性をもたらしたことが挙げられる。2021年秋から2022年春にかけて、コンテンポラリー部門だけで40ブランド、そのうち20ブランドはニーマン・マーカスだけの独占販売となるなど、200の新規ブランドを導入した。また、「何が重要かをあなたに教えよう」から「あなたにとって何が重要かを発見するお手伝いをする」というラグジュアリーの進化に基づき、ショッピング体験に新たなパーソナライゼーションをもたらした、とトドロヴィッチ氏は言う。そして最後に、さまざまなチャネルを通じて、より多くのエンターテインメントを顧客に提供している。「リテールテインメント」に新たに焦点を当て、前四半期には店舗で1000件のイベントを開催した。昨年夏には、ダラスのノースパーク店でのアクティベーションが7桁の売上を達成している。また、バルマン(Balmain)と共同で制作した最近の動画は、2億回のインプレッションを記録した。

ピンタレストやザーランドの目論見

ピンタレストは、最近コマース機能を拡張して買い物客に積極的にアプローチしている。ジ・イエスのニュースを発表したプレスリリースでは、この買収によるピンタレストのショッピング目標に関連して、「テイスト」という言葉が4回使われている。ジ・イエスの創業者で現在はピンタレストのショッピングおよびビジョン責任者であるジュリー・ボーンスティーン氏は、ジ・イエスで販売されているすべてのブランドがピンタレスト経由で購入できるようになるのかという質問に対し、次のように答えている。「計画では、すべてのブランドをピンタレストでの新しいショッピング体験に招待する予定だ。私たちは、それがブランドにとってすばらしい経験になると想像しているが、まだ移行の詳細について検討しているところだ」。

一方、ザーランドの契約のプレスリリースでは「ハイスノバイエティと提携することで、ストリートウェア、新しいラグジュアリー、ファッションのインスピレーションを提供するトップの目的地になるというザーランドの野心を加速させるだろう」とある。現在、ザーランドのサイトでは、プラダのサングラスのみを入手できる。

もちろん、ハイスノバイエティの今日のブランドパートナーは、明日には違っているかもしれない。その点でいえば、すべてのセフォラ(Sephora)のブランドがコールズ(Kohl’s)へのショップインショップベースでの拡張に参加したわけではない。アソシエーションをオプトアウトするブランドは、現在の業界の統合と変革に翻弄される小売業者にとってリスクとなる。2019年、アメリカン・イーグル(American Eagle)がリセール会社アーバンネセシティーズ(Urban Necessities)への投資に続いて、ソーホー店でリセール商品を発売した際、ストリートウェアのリーダー、ジェフ・ステイプル氏は、この小売業者が店舗のウィンドウにイージー(Yeezy)やナイキ(Nike)のロゴを表示していることを問題視した。実際にこれらのブランドがその店舗で購入可能であるにもかかわらずだ。

手頃な価格で身近な存在になろうとするラグジュアリー

ラグジュアリーの面ではブランドが、たとえば、今購入して後で支払うサービスを開始するなどで、Z世代に対応する小売業者を介して販売するかどうか疑問視しているのは間違いない。結局のところ、取り置きと独占権は両立しないようだ。しかし、影響力のある企業による最近の動きは、ラグジュアリーがより身近なものになろうとする意欲を確かに変える可能性がある。たとえば、今週、LVMHベンチャーズ(LVMH Ventures)はルシックス(Lusix)への投資を発表した。これは、傘下のブルガリ(Bulgari)やティファニー(Tiffany & Co.)がまだ拒絶している比較的手頃な価格のラボグロウンダイヤモンドを提供する企業だ。また1月には、LVMHベンチャーズはデザイナーズファッションのオフプライス商品の販売を専門とするヒート(Heat)に投資している。

これは手頃な価格に手を出している多くのラグジュアリー企業が、そうすることによってみずからのブランドが実際に希薄になることはなかったことを証明することにもなっている。水曜に公開されたGlossyポッドキャストのインタビューで、デザイナーのリズ・ラング氏は、ターゲット(Target)との人気コラボレーションが、彼女の名を冠したハイエンドのマタニティウェアのコアビジネスに悪影響を与えることはなかったと語っている。またGlossyサミットでは、 リング・コンシェルジュ(Ring Concierge)の創業者ニコール・ウェグマン氏が、70ドル(約9470円)のイヤリングを100万ドル(約1億3520万円)の指輪と一緒に販売することは、同社に利益をもたらすのみだったと述べた。

もちろん、いつでもそうしたことへの抵抗はあるだろう。

[原文:Fashion Briefing: New acquisitions spotlight retailers’ ‘tastemaker’ ambitions]

JILL MANOFF(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)

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