過去最大級の「さまざまながんを検出できる血液検査」の有効性を調べる大規模研究が進行中

GIGAZINE



近年ではAIを用いて医療技術が大幅に進歩しつつあり、50種類以上のがんを検出できる血液検査も開発されています。そんな中、アメリカ国立がん研究所(NCI)は血液サンプルを用いたがんのスクリーニング検査の有効性を調べる大規模研究を予定しているとのことで、学術誌のサイエンスがNCIのがん予防ディレクターを務めるフィリップ・キャッスル氏にインタビューを行いました。

‘The complexities are staggering.’ U.S. plans huge trial of blood tests for multiple cancers | Science | AAAS
https://www.science.org/content/article/complexities-are-staggering-u-s-plans-huge-trial-blood-tests-multiple-cancers

アメリカのジョー・バイデン大統領は「今後25年間でがん死亡率を半減させる」と訴え、がん検診の促進や治療法開発の支援、官学民連携の推進などに取り組んでいます。その一環としてNCIが進めているのが、AIの発達と共に現実味を増してきた「血液サンプルを用いたがんスクリーニング検査」の有効性の研究です。

すでにGrailExact Sciencesなどのスタートアップはがんを検出する血液検査を開発しており、Grailは50歳以上の人々やリスクの高い人々に949ドル(約12万8000円)の検査を提供しています。これらの「がんを検出する血液検査」の有効性を調べるため、NCIのアドバイザーは2022年6月に発表した(PDFファイル)文書で、7500万ドル(約10億1000万円)もの資金を投入し、4年間で2万4000人以上を対象にしたパイロット研究を行うことを支持しています。

がんの血液検査に関するパイロット研究への第一歩として、NCIはすでにがんを患っていることが判明している患者と、がんではないと考えられている人々から血液サンプルを採取し、スタートアップの主張を検証する予定です。その後、2023年か2024年にパイロット臨床試験を開始し、この試験が成功すればさらに大規模なフォローアップ研究へ進むとのこと。


サイエンスはNCIが進めるがんの血液検査についての野心的なプロジェクトについて、NCIのがん予防ディレクターであるキャッスル氏にインタビューを行いました。以下が、サイエンスの質問およびキャッスル氏の回答です。

Q:NCIはパイロット研究から何を学びたいのか?
A:私たちは血液の取り扱いや、血液を会社に送って結果を受け取るといった点について理解する必要があります。私たちは、臨床研究で通常のケアのみを受ける対照群を設定できるかどうかを知る必要がありますが、血液検査が実際に利益をもたらすかどうかは不明なものの、対照群の設定は契約を破ることになるかもしれません。

Q:多くの企業が20以上の検査を開発しているが、それらをどのように検証するのか?
A:がんの血液検査の研究結果は査読され、データが公開されており、結果が再現可能であることを示す必要があります。それらは検査パラメーターやアルゴリズムを確定できなくてはならず、十分なテストを行う能力があることも必要です。そのため、本当に臨床試験ができるのは2~3の検査に過ぎないかもしれません。

Q:GrailやExact Sciencesなど、パイロット研究に含まれると明示できるものはあるのか?
A:まず、GrailやExact Sciencesがパイロット研究に含まれることを望んでいるかどうかは不明です。そしてGrailがすでに消費者へ直接検査を提供していることを考えれば、研究に参加するインセンティブはないかもしれません。また、Exact Sciencesも独自の臨床試験を検討しているようです。


Q:パイロット研究後の「大規模で長期的な臨床試験」はどのようなものになるのか?
A:おそらく、対照群や実験群ごとに約7万5000人が含まれるでしょう。従って、3つの血液検査をテストして1つの対照群を設ける場合、約30万人が登録されます。臨床試験の完了には7~8年ほどかかると考えています。アメリカでは、これほど大規模ながんスクリーニング検査の研究は過去にありませんでした。

Q:過去の研究では被験者の1%ががんになっているとの陽性判定が出ると推定されているが、実際にこれらの人々はがんになっているのか?
A:過去の肯定的な研究では、陽性判定を受けた人の3分の1には何も見つからず、3分の1にはがんではない良性の腫瘍などがあり、3分の1が実際にがんを患っていました。

Q:NCIの会議でアドバイザーが、がんの血液検査がPSA(prostate specific antigen/前立腺特異抗原)検査の二の舞になることを懸念していた件についてどう思うか?(PSAは前立腺がんのマーカーとして利用されるが、無害な前立腺腫瘍による誤判定も多いため物議を醸している)
A:害はたくさん考えられます。がんの血液検査では進行期のがんを減らすことができるかもしれませんが、死亡率そのものを減らすことはできず、PSA検査のように治療しなくてもいい腫瘍を見つける可能性もあります。また、実際に陽性判定を受けた人がその後の診察を受けるのかや、将来のリスクがどうなるのかを懸念しています。さらに、がんの血液検査が陰性だった場合、標準のがん検診を行わない人が出てくれば、血液検査の利点を打ち消すことになりかねません。

Q:がんの血液検査には疑念が残っているのに、なぜプロジェクトを前進させるのか?
A:膵臓(すいぞう)がんや卵巣がんなどの致死的ながんのスクリーニング検査がないため、血液検査でそれが可能になるのは喜ばしいことです。しかし、私たちは私情を脇に置いて、これらの技術を評価するために努力し、何ができて何ができないのかについて自信を持って語れるようにならなくてはいけません。


この記事のタイトルとURLをコピーする

Source

タイトルとURLをコピーしました