「深く作り込む」を可能にするスペックとは? 映像作家・稲葉秀樹さんが求める理想のPC

GIZMODO

強いマシンでなら、トライアンドエラーも贅沢にできちゃう。

現代は、人類史においてもっとも動画コンテンツが多い時代と言えるでしょう。スマホでもタブレットでもテレビでも、何かしらのスクリーンを見ない日はありませんよね。

我々が当たり前のように見ている映像の向こうには、必ずクリエイターが存在します。実は今年、インテルがクリエイターを支援するプログラム「インテル® Blue Carpet Project」をスタートさせました。 なかでも、このプロジェクトに賛同するトップクリエイターによるコミュニティ「インテル® Blue Carpet Club」では、PCのスペックを限界まで使い倒し新たな領域への挑戦を重ねるクリエイターとの対話を重ね、現在の制作環境やその課題を精査。より高みを目指すために理想とするPC環境を洗い出し、インテルがテクノロジー面からサポートしていくというものです。 これ、クリエイターからすると超ありがたいのでは?

「Blue Carpet Club」のメンバーの一人として選ばれたのが、映像クリエイターの稲葉秀樹さん。YOASOBIのミュージックビデオや、報道番組「報道ステーション」のOPムービーを手掛けるなど、いま最前線で活躍している映像クリエイターです。

稲葉秀樹

Photo: 小原啓樹

映像クリエイター。独自の手法を用いた、繊細で緻密なアニメーションのスタイルを得意とし、CM、MV、OOH(屋外広告)など幅広く手掛けている。

公式サイト:P.I.C.S. / 公式Instagram: @hideki_inaba_kanahebi

今回、インテルがマザーボードメーカーMSIの協力のもと、稲葉さんに立ち会っていただきながらオートクチュールな自作PCを組み立てました。CPUはもちろん最新の第12世代インテルCPU。

組み立てを担当したMSIの新宅氏、中島氏によると「負荷の高い作業をどれだけ快適にできるかという点に着目し、パワフルなマザーボードとグラフィックボード、冷却性能の高いCPUクーラーを用意しました」と語るこのPC。

モニターはEIZOからクリエイター向けの4K 27型カラーマネージメント液晶モニターColorEdge CS2740をご用意いただきました。

実際の使い心地や「Blue Carpet Project」への思いなど、稲葉さんに伺っていきましょう。

流行りの表現はあえて避けつつ、違うアプローチを模索する

Photo: 小原啓樹

──稲葉さんはアーティストのMVやテレビ番組の映像などを手掛けていらっしゃいますが、それぞれの制作において意識している部分などはありますか?

稲葉秀樹さん(以下、稲葉):広告映像の時は、クライアントの意向を一番に意識しています。その意向に沿いつつ、自分ができる制作や手法を織り込んでいますね。テレビ番組のオープニング映像などは想像を膨らませて、自由にやっていいよというオーダーが多くあります。

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──かなり間逆なオーダーですね。

稲葉:あくまでも私の受けた仕事の中の話ですけどね。そうしたオーダーにおいては、じゃあこんなのはどうですかと提案するかたちで制作するようにしています。ミュージックビデオについては、個人制作なのかプロダクションからの発注なのかで変わってくるのですけど、アーティストの意向がある場合はそこを意識しています。

──アーティストの世界観を作るような感じで?

稲葉:そうですね。アーティストに対するイメージや、その方が表現したい世界観を作っていく感じです。いずれの制作にしても、仕事の中で覚えたスキルを試してみたり、新しい表現は無いかなと模索したりと、相互に影響し合ってると思います

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──いわゆるアートな発想が求められる部分と、クライアントの意向を表現する受託的な部分と、かなり振り幅があるなぁと感じました。

稲葉:私としては受託仕事をしてる感覚が強いです。仕事をしている中で、あまり発注が来ないテイストなどが、分かってくる気がします。そうした部分に気づいたら、そこにどんなアプローチができるか考えたり、試行錯誤をして、新たなスキルが身につくと良いなと考えながら仕事をしています。

──なるほど。稲葉さんの映像表現の根幹が、少し見えた気がしました。

稲葉:どんな仕事でも、何か新しい発見があるのかなと思いながら、映像を作っています。たとえば引き出しが増えると、その表現はミュージックビデオにも活用できるかもしれないと思います。また、どういう手法が流行っているのかが分かってくるのも、この仕事の面白さかなと思います。流行とは別のアプローチで挑戦してみるのも、私は面白いと思っています。

Photo: 小原啓樹

──あえて避けちゃうんですね! でも、流行りからハズレるというのは不安もあるのでは?

稲葉:同じ表現をしないことに対する不安も確かにありますが、不安以上に自分が見てみたいという好奇心が強いです。その欲求が先に来ています。

──稲葉さんの映像制作において、インスピレーションになっているものってどんなものでしょう?

稲葉人との会話はインスピレーションになりやすいです。友達と話していている際に、「自分はこう思っていたけど、この人は全く別の考え方をするのか」と価値観の違いがインスピレーションのきっかけになったりします。それが映像のコンセプトやきっかけになったりもしています。

Photo: 小原啓樹

──かなり概念的な感覚ですね。たとえば映画や漫画のように、ビジュアルから影響を受けることはありますか?

稲葉:漫画はよく読みます。漫画の場合は、登場するキャラクターの価値観の違いや、その違いをどうやってコンテンツに落とし込んでいるかを参考にします。ビジュアル表現でいうと、私は図鑑が好きで、同じ種類のものが同じサイズで並んでいるものに惹かれるんです。

──言われてみれば、稲葉さんの映像作品からも図鑑的なモチーフやフェティシズムのようなものを感じたことがあります。フラクタルというか連続する相似形というか。

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稲葉:昆虫の図鑑とかも好きですね。図鑑っぽいパーツが色違いでずらっと並んでいたりします(笑)。はじめはビジュアル面への創意工夫がきっかけで、こんな方法はどうかなとかを試してきました。そこに追加して、今度は人の会話や価値観のような、仰っていた概念的な部分がインスピレーションのきっかけになってくるのだと思います。

トライアンドエラーの回数を増やすには、スペックが重要

──稲葉さんの現状のPC環境において、悩みなどはありましたか?

稲葉動作が重いのが、一番の悩みです。レイヤーを増やしたりするとプレビューやレンダリングが重くなるので、トライアンドエラーが満足にできないことも多々あります。プレビューもレンダリングも、もっと快適になればいいな…とは思っていました。

──その動作の遅さは昔から感じていたのか、それともキャリアを重ねるうちに表現できることが増えてきたからでしょうか?

稲葉:自分の経験値が増えてきたからだと思います。「これができるならあんな表現もできるかな」と、昔よりも手法が増えてきたので、動作が遅く感じるのかなと思います。

──今回は「Blue Carpet Project」を活用して、インテルと相談しながら理想のPCを組み上げてもらったと思います。 主にどんな部分を重視しましたか?

稲葉:レンダリングとプレビューですね、これが速くなるようにとお願いをしました。具体的にこんなパーツを使ってくださいというお願いはしてないです。最新の第12世代のCPUをベースにベストなパフォーマンスを発揮できるマシンを作っていただきました。

Photo: Kosumo Hashimoto

──今回MSIさんからパーツをご提供いただいたフルスペックのPCと、EIZOさんの4K液晶モニターColorEdge CS2740を使用してみて、これまでの制作と比べて最も変化を感じた部分はなんですか?

稲葉:実際に使ってみて動画の読み込みがすごく速いと感じました。私の映像の制作では、一度書き出した動画を大量に並べて作ります。提供いただいたPCでは、並べた時にスムーズに映像を表示でき、最終形をすぐに見ることができました。モニターもすごく綺麗でした。普段から色にこだわりを持って制作しているので、色が忠実に再現されることはとても重要です。

Photo: Kosumo Hashimoto

──稲葉さん的には、制作環境が快適になることで、制作や作品にどんな影響が出てくると感じていますか?

稲葉トライアンドエラーの回数が増やせることがすごく重要だと思っています。

──クリエイティブにおいては作って試すが何より重要ですし、その機会が増えることはプラスでしかないですよね。

稲葉:まさにプラスでしかないですね。プレビューの時間って結構長くなってしまうことも多々あります。「こんな表現はどうかな」と好奇心がある時に、いろいろと試してみたくなる衝動があるので、制作環境が快適になると面白いですね。PCの性能が高まればできることが増えて、仕事がより楽しくなるかなと思います。それはトライアンドエラーにも繋がってきますし、制作全体にも直結してきますね。

Photo: Kosumo Hashimoto

──プレビューのカクカクを待ってる間に、イメージしていた初期衝動が逃げてしまうと、モヤっとしますよね。衝動って思い出せるものでもないですし…。

稲葉:そうですね。その間に漫画とか読んじゃうと、集中力が逃げてしまうので(笑)。私の場合は一度集中が切れると深い部分に入っていけず、浅い部分で止まってる感覚があって。1つのプロジェクトで作業時間を分割するのが苦手なので、一回の集中で深く作り込みたいんです。それが可能なPCは、私にとってありがたいパートナーだと感じていますね

インテルがクリエイターを繋ぐ存在になる

Photo: Kosumo Hashimoto

──今回の「Blue Carpet Project」および「Blue Carpet Club」は、クリエイターに対してどんなメリットがあると思いますか?

稲葉: 私は以前までWindowsではない環境で作業していましたが、WindowsのPCを試すのは、お金や環境も含めて簡単ではなかったんですよね。そのため、今回のプロジェクトを通じてサポートしていただけたことはありがたかったです。Windowsだとこんな環境が作れる、こんな選択肢があると、選べるようになったのは私にとってメリットでした。

──今後、インテルや「Blue Carpet Project」に期待したいこと、あるいはサポートして欲しいことなどはありますか?

稲葉:そうですね…。他のクリエイターの方との交流をしてみたい気持ちがあります。コラボまではいかなくても、お話をする機会があるとすごく嬉しいですね。私は個人で制作してるので、他のクリエイターと会ったり、一緒に制作をするというようなアクションを起こし辛いと感じています。

──個人制作している人にとって、そこは悩みのタネですよね。

稲葉: 私は誰かと話すことがインスピレーションになるので、そうした場などがあると嬉しいです。それこそクリエイターだけでなく、いろいろなジャンルの人が垣根を超えて繋がれるような場所があれば面白そうですよね。意見交換にもなるし、横のつながりも出来るのではないかと思います。

──「あの人の作品は知ってるけど、実際に会ったことはない」というのが珍しくない業界ですもんね。制作物で語り合うといいますか。

稲葉:SNSのアイコンと作品は知ってるけど、ご本人と話したことがないという方も多いのではないかと感じます。そこの交流が増えれば面白いと思います。


Photo: Kosumo Hashimoto

「思いついたことを試す」というのは、人間にとっての根源的な欲求。そこの試行錯誤がPCのスペックによって制限されてしまうのは、やはりもったいないですよね。稲葉さんはトライアンドエラーを重要視されていましたが、試行錯誤しやすい環境を用意することはクリエイティブの質に直結するんだなと改めて感じました。

では最後に、インテルからのコメントを紹介します。「Blue Carpet Project」がこれからどんな広がりを見せるのか、ご期待ください!

──インテルとしては、今後どのようなことを実現していきたいと考えていますか?

インテル:日本のコンテンツ産業はとても勢いがあり、インテルとしてはコンテンツ制作に関わる人がもっと増えて、よりクリエイティブなものが増えて欲しいと考えています。稲葉さんはそのトップを走っている人の一人であり、学生やアマチュアのクリエイターにとっての憧れになって欲しいですね。このプロジェクトは中長期を見据えているので、クリエイターの皆さんと一緒に、世界に誇れるものをお届けしていきたいと考えています

Source: Intel