「警官になるには頭が良すぎる」と採用を拒否された人物の物語

GIGAZINE
2022年06月20日 21時00分
メモ



1997年、当時46歳だったロバート・ジョーダン氏がコネチカット州ニューロンドン市を相手取り、「市の警官になるには頭が良すぎる」として採用を拒否された件について訴えを起こしました。訴えから25年の節目を迎えた2022年、ニュースサイトのMEL Magazineがジョーダン氏の物語について記述しています。

Robert Jordan, the Man Who Connecticut Police Said Was ‘Too Smart To Be A Cop’
https://melmagazine.com/en-us/story/robert-jordan-too-smart-to-be-a-cop

1997年に市警察の採用試験を受けたジョーダン氏は、Law Enforcement Council of Southeastern Connecticutという会社が行った「Wonderlic Personnel Test and Scholastic Level Exam(ワンダーリックテスト)」と呼ばれる知能テストを受験。このテストにおいてほかの受験者の平均点は21点でしたが、ジョーダン氏は33点を獲得しました。

しかし、このような高得点を獲得したにもかかわらず、当時の市警察はジョーダン氏の採用を見送りました。ジョーダン氏は採用が見送られたことについて、当時は46歳という年齢のせいだと考えていたとのこと。46歳という年齢は採用者の中でも最高齢である可能性が高かったためです。しかし、納得のいかないジョーダン氏がコネチカット州の人権機会委員会に行政訴訟を起こしたところ、実際に問題となったのは知能テストの結果だったことを知りました。


ジョーダン氏は採用を監督している当時の副市長キース・ハリガン氏から、「IQが高すぎる人は採用したくない」と言われたとのこと。実はジョーダン氏が受けたテストには「資格のある候補者はやりがいのない仕事にすぐに飽きて辞めてしまうため、単にスコアの高い従業員を採用することは自滅的である」という注意書きが付されていたとのことで、このことから採用者は「知能テストで高得点を取った応募者は警察の仕事にすぐに飽きてしまい、警察を去ってしまう」と考え、ジョーダン氏を採用しなかったというわけです。

また、MEL Magazineは「警察は新人警察官の訓練に多額を費やしており、警察学校を出てすぐに警察を辞めてしまうような応募者の訓練にお金をかけるわけにはいかないとも見積もっていたのでしょう」と推測しています。

ジョーダン氏は憲法修正第14条の「平等な保護を受ける権利」に市警察が違反したとして訴えを起こしましたが、裁判所は警察側の主張を支持。「警察には賢すぎない警官を求めるという合理的な理由がある」と判断しました。ジョーダン氏はこの判決を不服として控訴ましたが、2000年にニューヨークの第2連邦控訴裁判所はコネティカット州の地裁の判決を支持し、またもジョーダン氏は敗訴しました。控訴審では「テストを受けた全員に同じ基準が適用されたので、ジョーダン氏の修正第14条の保護は侵害されなかった」と判断されていました。

ジョーダン氏にとって最も不満だったのは、「賢い警官が本当に法執行機関を去る可能性が高いかどうかは問題ではなく、ジョーダン氏の憲法上の権利が侵害されたかどうかが問題だ」と裁判所が判断したことでした。控訴審の判決文には「ワンダーリックテストの高得点と仕事への満足度の低さからくる離職との間に統計的に証明された強い相関関係がないとしても、テストメーカーが作成した資料とLaw Enforcement Council of Southeastern Connecticutが送った同様の内容の手紙に基づいて、『市がそうした関係がある』と信じていれば十分であると結論づけた」と記されていたとのことで、つまり実際に知能と離職率の関係を示す有力な証拠がなくとも、「市がこのテストが有効であると信じていたこと」が重要だと判断されていました。その信念が受験者に平等に適用されている限り、憲法上の権利は侵害されないと判断されたということです。


ジョーダン氏は当時報道陣の取材に対し、「これは、アメリカにおける一種の階級差別に公式の判を押したようなものです。ただただ驚かされました。法執行機関全体に対して不快感を覚えました。基本的な知能と仕事の満足度や勤続年数との間には何の関係もないのです」と語りましたが、最終的に判決を受け入れています。

しかし、ジョーダン氏には明るい兆しもありました。テストの失敗の後、ジョーダン氏は矯正局で新しい仕事を得ており、少なくとも刑務官になるには賢すぎないということを証明していたのでした。

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