AIはアスリートの「ケガ防止」や「パフォーマンス向上」にどうやって役立てられているのか?

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近年ではAI技術の進歩によってさまざまな産業分野でAIの導入が進んでおり、その波は「スポーツ」にも押し寄せています。アメリカの大手経済紙であるウォール・ストリート・ジャーナルが、「AIがどのようにスポーツ分野へ導入・活用されているのか?」についてまとめています。

How AI Could Help Predict—and Avoid—Sports Injuries, Boost Performance – WSJ
https://www.wsj.com/articles/how-ai-could-revolutionize-sports-trainers-tap-algorithms-to-boost-performance-prevent-injury-11654353916

アスリートにとって自身の体は大切な道具であり、パフォーマンスを上げるための練習やケガを防ぐケアはアスリートとして活躍する上で欠かせません。プロスポーツチームにデータ分析ソリューションを提供しているKitman Labのスティーブン・スミスCEOは、「自分の体をビジネスのように扱い、データと情報を活用して自己管理を徹底しているアスリートが存在します。今後はさらに多くのアスリートがより長く、より高いレベルでプレーできるようになるでしょう」と述べています。

たとえば、「Mustard」という野球アプリはユーザーのプレーを撮影したデータを基に、その動きがプロの動きとどのように違うのかを比較し、より効率的な体の動かし方やトレーニング法を提供しています。Mustardの共同創設者兼CEOを務めるロッキー・コリス氏は、Mustardが熱心なプレイヤーのパフォーマンスを向上させ、長期的なケガや痛みを引き起こす動きを避けるように設計されていると主張しています。

by Mustard

コンピュータービジョンやAIを基にしたデータ分析は、ゴルフやサッカーなど野球以外のスポーツでも普及しています。イングランド・プレミアリーグの名門サッカークラブであるリヴァプールFCは、Google傘下のAI開発企業であるDeepMindと協力して戦術分析を行っているほか、アスリートのケガを防ぐためにAIを活用しているZone7の分析プログラムを導入した後、選手の負傷者数が前年の3分の1に減ったと述べています。Zone7のプログラムはトレーニング方法を調整し、休息を取る最適な時間を提案しているとのこと。

また、2022年の北京オリンピックに出場したアメリカのフィギュアスケート選手らは、ニュージャージー州に本拠を置く4D Motion Sportsの動作解析プログラムを使用して疲労を追跡していました。アメリカフィギュアスケート選手団のスポーツ科学マネージャーであるリンゼイ・スレーター氏によると、選手らのデータは腰に取りつけた小さなデバイスで収集され、練習後に選手とコーチで動作データを見直したそうです。

スレーター氏は、「私たちは実際にジャンプの離陸と着地を明確に定義できるところまでアルゴリズムを完成させ、ジャンプによる股関節と体幹へのストレスがかなり高いことを推定できるようになりました。1日の中でアスリートの角速度が低下し、ジャンプの高さが下がり、より多くのジャンプをごまかすようになってしまい、そこで慢性的な体の使いすぎによるケガが起こりがちであることもわかりました」と述べています。


スポーツ分析の専門家は、今後数年間でドローンなどの超高解像度のビデオ映像を基にしたAI分析が広まり、試合中に選手の関節がどれほど曲がっているのか、どのくらい高くジャンプしているのか、走る速度はどれくらいかといった要素を基に、ケガのリスクをリアルタイムで測定できるようになると予想しています。ウェアラブルデバイスに基づくデータ収集とは違い、ビジュアルデータはデバイスの精度によってデータ品質が左右されにくく、故障の心配なしにリモートで収集できるという利点もあります。

一方、AIによるプレイヤーのパフォーマンス分析やケガのリスク算出にアルゴリズムを導入する際には、解決するべきいくつかの課題があります。たとえば、パフォーマンスに影響するのは体の状態だけではなく、人間関係や契約交渉などの心理的ストレス、前夜の食事といったさまざまな要因が絡むため、簡単に測定することはできません。また、アルゴリズムの精度を本当の意味でチェックするには、「AIによってケガのリスクが高いとフラグが立てられたプレイヤーへの介入を行わなかった場合、実際にケガをするかどうかを調べる」ことが必要ですが、このテストは倫理的な問題があるため実施は困難です。

加えて、「プレイヤーのデータをどのように管理し、誰にアクセスを許可するのか?」といったプライバシー上の懸念もあります。記事作成時点では、アメリカには企業が選手のトレーニングデータを収集・使用することを禁じる法律はありませんが、ホワイトハウスはAIと個人データの管理を使用する規則の導入を目指しており、今後法律で規制が設けられる可能性もあるとのこと。


AIによるプレイヤーのデータ分析はケガ防止やパフォーマンス向上だけでなく、獲得する価値のあるめぼしい選手の発掘にも役立てられています。フランスのパリに本拠を置くSkillCornerは、世界各国のサッカーリーグについてTV放送の動画データを分析し、個々の選手のパフォーマンスを測定してスカウトに役立てています。

SkillCornerのゼネラルマネージャーを務めるポール・ニールソン氏は、AIアルゴリズムが完全に人間のコーチに取って代わる可能性は低いとみています。「試合中、コーチはその場にいて匂いを嗅ぎ、感じ、触れることもできます。そのような意思決定者が人工知能からの情報に耳を傾ける可能性は、まだ低いのではないかと思います」と、ニールソン氏は述べました。

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2022年06月20日 20時00分00秒 in ソフトウェア, Posted by log1h_ik

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