全世界で大ヒット中。各種映画批評サイトでも軒並み高評価を獲得している「トップガン マーヴェリック」。筆者も公開初日に手放しで大絶賛したが、マジに何度褒めても褒めたりない凄い映画だ。
映画のあまりの素晴らしさに打ちのめされた筆者は、より高水準な映画館で見る必要を感じた。その結果行きついたのが「IMAXレーザーGT」。
色々と規格外の仕様で、国内には2か所しかない。今の日本で最も素晴らしい映像体験ができる映画館のうちの一つだろう。そこで素晴らしい体験をしたのだが……あの席って、どうなんだ?
・IMAXレーザーGT
IMAXレーザーGTのある映画館は、「グランドシネマサンシャイン池袋」と「109シネマズ大阪エキスポシティ」の2か所。筆者が訪れたのは池袋だ。
凄いところはいろいろとあるが、こちらの記事でも述べられている通り、何よりスクリーンが半端なくデカい。
他の上映形式であれば、だいたい劇場内の中央付近にある座席こそベストな視聴体験を得られるもの。しかしIMAXレーザーGTは、もっと後ろの方が見やすいと思われる。
全ての座席で最強は l列プレミアムクラスのド真ん中2座席。これは間違いない。次いで良いのが、その左右や前後の k列 と m列の中心付近だと思う。
p列のグランドクラスと、その前の n列も、見やすさという点では優秀そうだ。何の苦も無く自然に正面を向いて画面全体を視界におさめられるのは、この2列だけじゃなかろうか。
そのかわり没入感や迫力は若干下がりそうだが、見やすさとのバランスについては、個々の好みによるところが大きいだろう。得られる映像体験のクオリティに関して、k列辺りから p列は同等だと考えたい。
・超不人気
対して超絶に不人気なのが最前列だ。もちろん各列の両サイドの席も不人気ではあるが、端よりも最前列の方が売れてない気がする。
まず、先に挙げたイイ感じの席は競争率が超絶にヤバい。オンラインチケットの購入は2日前の午前0時に解禁となるのだが、最強の2席は一足早く購入が解禁される有料の会員によって予約済みなのが基本。
他の良さそうな席も、0時からの予約レースに勝たないと取れない。公開からもっと時間が経てば落ち着いてくるのかもしれないし、他の映画でどうかは不明だが、公開から1週間前後の「トップガン マーヴェリック」ではそうだった。
その他の列も、スクリーン中心に近いエリアほど競争率は高く、すぐに売り切れる。しかし最前列だけは別だ。どれだけギリギリにチケットを購入しても、真ん中付近が売れ残っている率はぶっちぎっていた。
ちなみにこの最前列の席は普通のシートよりも幅が広く、実にラグジュアリーな感じ。他よりデカいシートで寝ながら見るとか貴族かよ。値段は通常の席と同じだが、それでも売れないほどの不人気っぷり。
ぶっちゃけ売れない理由は一目瞭然なので、全く不思議ではない。この席はスクリーンの底辺とほぼ同じ高さ。ワンチャン、底辺より低いまである。そしてスクリーンの高さは6階建ての建物に匹敵する18m。凄まじく見辛そう。
・買ってみた
だが……極まれに、もっとマシそうな席が空いていても、あえてこの席を予約するチャレンジャーが存在する。ベストな席を確保するため、連日「トップガン マーヴェリック」のチケットをチェックしていて気付いたのだ。
そういう姿を見ると、こちらも好奇心を刺激されてしまう。あのシートでの視聴体験はどんなものなのだろうか? 見辛いのは確定してそうだが、しかし前代未聞であることもまた確か。気になって仕方がない。
ということで買ってみた。
文句なしに、最前列のど真ん中だ。
ここからのスクリーンの眺めはどうなっているのか? こんな感じである。
これは焦点距離が12㎜という超広角レンズで撮影したもの。レンズから水平方向に写される光景の範囲は、およそ112度。ゆえにほぼ全体が見えているが……
人間の視野に近いとされる50㎜だとこう。クッソ一部しか見えねぇぇえええええええ!!!
・人よりデカい字幕
しかし、ここまでは想定通り。これで最高の映画を最後まで見たらどうなるのか……? まず真っ先に感じたのが、字幕だと死ぬということ。
恐るべきことにIMAXレーザーGTでは、字幕1文字のサイズが人間一人分くらいにデカい。数文字で視界がいっぱいになる。読んでられねぇぇええええ!!! 言語認識を英語に切り替えて見るしかあるまい。
・人によっては酔いそう
続いて感じたのが「デカいモニターでFPSのゲームをやってる時の感覚」に近しいものだ。あっ、これは人によっては酔うヤツだな。
特に「トップガン マーヴェリック」のような激しいカメラワークの多い映画では顕著になると思われる。筆者はゲーム等でも酔わない体質なので平気だったが、駄目な人は開幕10分で酔ってもおかしくない。
・音圧でGを感じる
いい意味で想定外だったのは、音の凄まじさだ。そもそもIMAXレーザーは、後ろの方のベストな席で見ても音量がハデだ。12chサウンドシステムというヤツのおかげなのだろう。明らかに他の規格より音がデカいし、音質もイイ。
前段階ではビジュアル面での影響についてしか考えていなかったが、よく考えれば最前列のシートは、前にあるであろうスピーカーから一番近いと思われる。
そして、そのスピーカーの出力のヤバさは、冒頭での1作目を彷彿(ほうふつ)とさせる艦上からの戦闘機の発艦シーンにて早々に思い知らされる。
「ガチャッ!(おっ?)」「ドーーーーーーン!!(ビクゥッ!!!)」って感じ。音圧で体全体にGを感じる。音で感じる迫力のヤバさは、この席がぶっちぎっていると思う。
・全員バズライトイヤー
そして最もインパクトが強かったのは、マーヴェリックを始め、登場人物がことごとくバズ・ライトイヤー化することだ。主に顔面に対する下顎(あご)の面積が。
どういうことか? 実際に説明するには、トムの写真を加工するのが最適なのだが、実際にそれをやるといろいろな方面からブチ切れられるだろう。
ということで、絵の経験ゼロな筆者が描いたイラストを用いて説明するぞ。まず、これを正常な角度から見た、正常なトム・クルーズとする。
そしてこれが、IMAXレーザーGTの最前列ど真ん中から見たトム。
肉眼での視界はこう。
湾曲した6階建てのビル相当な馬鹿でかいスクリーンを、足元から見上げているせいだろう。強烈なパースがかかり、スクリーンの下部が異常にデカく、そして上部は果てしなく小さく見えるのだ。
そして、顔のアップでスクリーン下部に来るのはだいたい顎! 結果としてトムだけでなく、登場人物全員の顎が圧倒的に急成長を遂げてしまう。
下唇から顎の先端までで人間3人分くらいはある。どっかで見た骨格だな……あっ、本編前に新作映画の予告をやってるバズ・ライトイヤーや!
全員バズ・ライトイヤーの遺伝子入ってる!! 顎が無限の彼方にインフィニティ and ビヨンドォォオオオオ!!!
・選ばれし者の遊戯
どう考えても、トムやジェリーが想定したであろうものとマッハ10ですれ違ってそうな視聴体験が続くが、いくつかのシーンについては最高だった。
それはコックピットからの1人称での視点だ。渓谷の間を低空飛行してるシーンとか、ドッグファイトのシーンで度々入るが、その時の迫力はダンチ!
強烈なパースの問題はある。しかし、航空祭とかでお試しで座らせて貰えた時の見え方にかなり近く、映画ではマジに飛んでいるのだ。良くも悪くも、規格外にリアル感ある戦闘機からの視点だった。
筆者は事前にベストな席にて複数回視聴した後だったため、視界が限られたり、パースがヤバい等の影響下でも、何だかんだで最後までエンジョイできた。
スクリーンの全体像は常に見えないが、逆にごく一部は異常に良く見えるため、これまで気づかなかった細部に気づけたというメリットもあったしな。
だが、はっきり言ってこれは、もはや選ばれし者のための、高次元の遊戯。1回や2回普通に視聴した程度で2600円払ってこの席を試すのは、まだいろいろと早いと思う。
いや、視聴回数とか関係なく、多くの人類にとって永遠に早い可能性もある。まあそれでも……さんざん見まくって極めた映画であれば、貴族の遊び的な感覚でやってみるのはアリかもしれない。マジで次元が違った。
参考リンク:グランドシネマサンシャイン池袋
執筆&イラスト:江川資具
Photo:RocketNews24.