こちらは、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です
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D2C新興企業が次の成長段階を描くにつれ、新しい経営トップを迎え入れるケースが増えている。
美容系新興企業のグロシエ(Glossier)と、生理用品ブランドのシンクス(Thinx)は5月、ともに新しいCEOを任命した。両社は操業しているカテゴリーが異なり、それぞれ独自の事情から新しいCEOを任命するに至ったが、両者とも同じような変曲点にある。すなわち成長のため小売の拡大をさらに重視しつつあるという状況にある。
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D2C新興企業は初期段階において、口コミによる熱心な信奉者を増やすとともに、有料のFacebook広告でオンラインでの売上を伸ばすことを成長の手段とすることが多い。しかし、D2C新興企業が操業を続けるにつれ、eコマースで成長することは難しくなる。この時点で、グロシエやシンクスのような新興企業は成長のために実店舗での売上を重視しはじめるようになる。すべてのD2C新興企業がCEO交代の必要性を感じるようになるわけではないが、エモリー大学(Emory University)のビジネススクールで准教授を務めるダン・マッカーシー氏によれば、「CEOに要求されるスキルがより幅広く、異なったものとなる、ある種の自然な転換期がある」という。
D2Cブランドに訪れる転換期
シンクスとグロシエは、一部のD2Cブランドが戦略の移行に対応するため新しい最高幹部を探すようになる典型的な例だ。シンクスは、昨年ターゲット(Target)とウォルマート(Walmart)で販売を開始してから、マスマーケットでさらに広く受け入れられることに重点を置き、卸売への展開を広げることをめざしている。一方でグロシエは、従来から同社の成長の多くはD2Cウェブサイトで得られていたことから、新しいCEOの助けを得て、さらに多くの自社店舗の開設と、卸売への展開の拡大の両方を求めている。
シンクスの新しいCEOであるメガン・デイビス氏は、「当社の成長における課題は、消費者がどこで買い物をするかを考え、消費者が必要とする価格帯やアクセスポイントについて考え、それに確実に適応することだ」と筆者に語った。同氏はシンクスに入社する前、ジョンソン・エンド・ジョンソン(Johnson & Johnson)で多くの指導的役割を務めてきた。同氏は、CPG複合企業であるキンバリークラーク(Kimberly-Clark)がシンクスの多数株を取得した約3カ月後に、前CEOのマリア・モーランド氏からその地位を引き継いだ。
グロシエは5月24日、コールハーン(Cole Haan)やナイキ(Nike)の元役員で、最高商務責任者のカイル・リーヒ氏がCEOに就任し、創設者のエミリー・ワイス氏は執行委員長に就任すると発表した。グロシエは早期に成功した企業で、創業4年目で収益が1億ドル(約130億円)を突破した。しかし同社は、テクノロジーに多く投資しすぎ、同社の中核業務である「自社の美容品ブランドを拡張する」ことを怠ったとワイス氏が認めたあとで、今年初め、80人以上の従業員を解雇した。
同社は、リーヒ氏が米モダンリテールのインタビューに応じることを拒否したが、同氏はブルームバーグ(Bloomberg)とのインタビューで、同社の実店舗小売への展開を、新店舗の開設と卸売パートナーを増やすことの両方により、拡大することを重視していると語った。
また、リーヒ氏は、「当社はD2C企業として、独自のチャネルでブランドへの需要を高めてきた」とも語っている。「今このブランドをさらに拡大し、より多くの場所で、多くの人々に提供する機会があると考えている」。
マッカーシー氏は、自社ウェブサイトのみでの販売によってスタートしたD2Cブランドの場合、「有料広告を使用し続けるだけでは、顧客獲得のコストが高価になりすぎ、必ず限界にぶつかる。そして、Facebook広告では到達できないような顧客層にリーチし、ブランドへの認知をより広げるためのほかの方法を見つけることが必要になる」と述べている。
直販と卸売で求められるスキルセットの違い
実際に、ワービーパーカー(Warby Parker)やオールバーズ(Allbirds)のように、最大手で株式を公開しているいくつかのD2C新興企業にとって、今年は実店舗小売で売上を伸ばすことが重点となってきた。オールバーズの最高財務責任者を務めるマイク・バファーノ氏は3月の決算発表において、「実店舗小売は第4四半期における成長を促進した最大の要因だ」と述べ、同社はその席で、恒久的な卸売パートナーシップを追求していくとはじめて語った。
しかし、ブランドの実店舗小売の拡大戦略がどのようなものかは、カテゴリーによって異なる。すべてのブランドが、独立店舗の開設を正当化できるだけの十分な商品の品揃えを保有しているわけではない。
ブランドが独自の店舗を増やすか、卸売によって展開を行うかを決定するには、多少似ているが異なるスキルセットが必要とされる。店舗数が数店舗を超えたら、CEOには、店舗に適切な場所を探しだし、店舗の以後の経営が長期的に実現可能なものであることを保証する能力に長けていることが要求されるだろうと、マッカーシー氏は語っている。
これに対して、卸売を使用するブランドのCEOは、主要な小売パートナーとの関係構築により多くの時間を費やし、ブランドのD2Cサイトの売上を損なうことなく、それぞれのパートナーに独自の製品を提供できるよう継続的に努力する必要があるだろう。マッカーシー氏は次のように述べている。「ある意味で、顧客レベルの可視性は失われるという事実を受け入れる必要がある。一般にサードパーティに販売を行った場合のこの可視性は、あまり良いものではない」。
シンクスのデイビス氏は、「現在のところ、独立の店舗が優先事項とは考えていないが、買い物客のショッピングが進化するにつれ、当社も当然のこととして、それらの顧客に対応できるよう進化する」。シンクスの商品は現在、米国の4500店舗で販売されており、同氏は小売パートナーをさらに増やす余地があると考えていると語る。「私は、当社にとって重要なのは、当社の買い物客がどこでショッピングを行うかを常に考えることだと思っており、当社が知っているのは、生理用品や失禁用商品が多く購入されるのは小売店舗内だということだ。したがって当社は、顧客が商品を探しており、顧客に最良の方法で接触できる場所で確実に販売を行うことを重視する」。
商品政策の見直しも
デイビス氏は、シンクスにとって、商品と価格の適応戦略が重点だとも付け加えた。同社が昨年ターゲットで販売を開始したとき、同社は店舗を通して低価格の商品ラインを販売することを決定し、それ以後にその商品ラインをほかの小売業者にも拡大した。この商品ラインはシンクス・フォー・オール(Thinx for All)と呼ばれ、一着17ドル(約2210円)から販売された。これに対して、シンクスのクラシックスタイルは一着約35ドル(約4550円)から販売されている。
「売れている商品がひとつあるとしても、それで終わりではない」と同氏は述べ、シンクスは新しいスタイルや素材を追加していくことをめざすと付け加えた。
同氏は、短期的な重点を次のように説明している。「より多くの店舗に販売を広げ、生理や尿漏れに悩む人々向けに、このようなカテゴリーが存在するということについて、いわゆるトップオブファネルの認知を促進すること」。
今年になって、あらゆる規模のD2Cブランドが実店舗小売の拡大をさらに優先することをめざしている状況で、グロシエやシンクスの新しいCEOが直面しているような決断に取り組まなければならないCEOは増えていくだろう。しかしそれは、すべての企業で必ずしもCEOの交代が必要になるという意味ではない。
「創設者やCEOが必要なスキルを獲得できる可能性もあるし、最初から必要な経験を持ち合わせている可能性もある」とマッカーシー氏は述べている。
[原文:DTC Briefing: Brands like Glossier and Thinx are bringing on new leadership amid retail expansion]
Anna Hensel(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)