PR業界では、クライアントのPR会社に対する期待に変化が見られるようになり、両者の関係にひずみが生じている。業界の方向転換のなかには、長い時間をかけて社会とテクノロジーの変化に伴い生まれてきたものもあると専門家は指摘した。しかし、2020年のデジタルブームが、業務のスケジュールやクライアントとPR会社間のコミュニケーションの問題を悪化させているという。
PRエージェンシーのファウンダーによると、ペースが速い現在の世の中で、時間をかけたブランド構築の価値を顧客に売り込むのはますます難しくなっている。このコロナ禍のデジタルブームで、ブランド各社はマーケティング戦略の一環として、SNSなどを利用した情報の拡散を考えており、PR会社に対してメディアへの掲載にとどまらず、SNS戦略など提供するサービスの拡大を求めているという。
狙いはバイラルになること
「もはやメディア掲載では、『PRはやるだけの価値がある』とは見なされない」。そうメールで回答したのは、アトランタのPR会社、ユーマネジメント・ストラテジック・コミュニケーションズ・アンド・パブリックリレーションズ・エージェンシー(Umanagement Strategic Communications and Public Relations Agency)のCEOミラン・モブレー氏である。「実際、真っ先に予算から削られるのは我々だ」。
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2021年、ユーマネジメントはある顧客のキャンペーンで7500万デジタルインプレッションを叩き出しているが、その数字はキャンペーン後に急減している。「クライアントの狙いはTikTokでバズることだった」とモブレー氏は説明する。なおブランドに関する詳細情報は明らかにしていない。
「たとえメディアプラットフォームの評判が高くても、顧客が享受できるのは、取り上げられたと自慢することくらいで、バズることもなければ、想定していた人気を獲得することもないだろう」とモブレー氏は話す。
以前はアーンドメディアを利用してきたブランド各社はこの2年間、バズってブランド認知度を高めようとTikTokを中心に展開している。特に小企業は、米DIGIDAYの記事で取り上げているように、導入の敷居が低く費用対効果の高いオプションとしてTikTokを活用している。つまり、今後ブランドはブランド認知の構築手段として、PR会社を使いアーンドメディアでメディアクリップを発表するよりも、バズることを重視するようになるのではないだろうか。
<a href="http://先述の記事には、PRエージェンシーファウンダーから同じような話が紹介されている。そのPR会社はTechCrunch(テッククランチ)にあるブランドを取り上げてもらうことができたが、それだけでブランドを満足させられず、1カ月後にはクライアントとエージェンシーの契約が終了したという。
TikTokには成功物語が数えきれないほどあるが、「バズる」ことはまったく保証されていない。そのため、PR会社側が戦略のひとつとしてTikTokを推奨したり、「TikTokならお客様が求めている結果を出せる」と保証したりすることは難しい。
「より安くより多く」
コロナ禍以前から、顧客はすでに「より安くより多く」の姿勢に傾き始めていたという。そう話すのはディジェナーロ・コミュニケーションズ(DiGennaro Communications)を創業したCEOのサマンサ・ディジェナーロ氏だ。しかし、このコロナ禍で「それが顕著になった」と同氏。ブランドがアーンドメディアへの支出を抑えれば、当然PR会社の実入りは少なくなり、どうしても顧客を手放したくないエージェンシーは、顧客をつなぎとめられるのであればそれでもいいと考えるようにもなると話す。
「公正な市場が少しばかり陰りをみせているのはそのせいだと私は思う」とディジェナーロ氏は話す。「だから、クライアントが『より安くより多く』を求めても何とかなっているのだ」。
ディジェナーロ氏が20年前にニューヨークでこのエージェンシーを創業したとき、契約の平均期間は2年から3年だったが、現在の契約期間は平均で3カ月から6カ月。そこからわかるのは、顧客が以前ほどブランドのナラティブ構築に時間を費やそうとはしていないということだと同氏は話す。
コミュニケーションの重要性
冒頭で紹介した記事によると、マーケティング戦略を手早く修正しようとエージェンシーを頻繁に乗り換えるブランドを「ジャンパー」と呼ぶ専門家もいるという。
とはいえ、エージェンシーとの関係を修復する責任はブランド側だけにあるわけではないとディジェナーロ氏は話す。「エージェンシーのリーダーとして、私たちには説明責任がある。単にクライアントのやり方はあんまりだと彼らを非難するだけでなく、『御社にサービスを提供させていただきたい』と私たちからクライアントに説明できなければならない」。
専門家によると、解決策の一環として、顧客とエージェンシーとのコミュニケーションを再開する動きがすでに見られている。
あるPRエージェンシーのファウンダーが米DIGIDAYのインタビューでこのように語っている。「あなたは私を専門家として雇った。いまの状況と、目標達成のための道筋を説明させてほしい。そう伝えることが必要なのだ」。
Kimeko McCoy(翻訳:SI Japan、編集:黒田千聖)