日本マイクロソフト株式会社は6月9日、オンラインイベント「ハイブリッドワーク2022~リモートワークの先へ! 新しい働き方の多様性~」を開催。そのなかで、11年ぶりにリニューアルした東京・品川の同社本社の様子を公開した。
今回のオンラインイベントは、日本マイクロソフトが実践しているハイブリッドワークについて紹介するもので、2年間におけるハイブリッドワークへの取り組みと、課題の克服、今後の展望などを解説。制度や文化、技術、ソリューション、オフィス環境、従業員エクスペリエンスなど観点からの取り組みについても示してみせた。
ハイブリッドワークは「働く場所の選択」だけではない
品川本社のリニューアルは、同社が目指すハイブリッドワークの実現に向けた重要な取り組みの1つだといっていい。
日本マイクロソフト 執行役員 常務 クラウド&ソリューション事業本部長兼ワークスタイル変革推進担当役員の手島主税氏は、「働く場所を選択するのがハイブリッドワークではない。人の潜在能力を最大限に引き出す方法を実践し、人の感性を最大限に活用したコラボレーションを行い、それを通じて組織力を高め、働く人にとって、人生が豊かになることが目指す姿である」とする。
一般的にハイブリッドワークというと、在宅勤務とオフィスに出社した勤務のいずれかを選択し、生産性を高める働き方を指すが、日本マイクロソフトが示すハイブリッドワークは、そうした範囲には留まらない。
日本マイクロソフトでは、ハイブリッドワークを考えるときに、「場所」ではなく、「人間関係」に視点を置き、「オンライン」環境だけを高度化するのではなく、「場所」も高度化すること、会社側は、「利便性」や「安全性」、「透明性」を持たせてこの仕組みを運用し、社員の主体性を押さえつけないこと、そして、社員は、「自律性」や「主体性」だけでなく、「自己管理」を徹底できる環境を作ることが大切だという。
「とくに重要になってくるのが社員の主体性である。働き方の多様性だけでなく、主体性を持って、ハイブリッドワークに取り組む必要がある」と指摘する。
マイクロソフトが、世界31カ国、3万1000人を対象にした「2022 Work Trend Index」調査によると、柔軟なリモートワークの選択肢が欲しいという従業員は73%であるが、逆にパンデミック後に対面での作業や共同作業を増やしたいという従業員も67%に達しているという。
また、オフィスで過ごす時間が長い人のうち、58%は、より集中して仕事をするために出社すると回答し、その一方で、オフィスで過ごす時間が少ない人は、同じく58%が、より集中して仕事をするためにリモートワークをするという結果になっている。どちらも58%の人が、集中するためにオフィスを選び、またリモートワークを選んでいるのだ。
このように働き方が多様化し、社員によって働き方への期待はさまざまであり、もはやひとつの働き方では収まらないのが実態だ。
その一方で、「いつ、何のためにオフィスに出社するかを決めることが、最大の課題である」と回答したハイブリッドワーカーの割合は38%であるのに対して、「いつ、何のためにオフィスに出社するかのルールを設定している」とした会社の割合は28%に留まっている。また、ハイブリッド会議においてオフィスの会議室から参加しているメンバーと同等の扱いを得られていないと回答したリモートワーカーの割合は43%に達しているという。
主体性を持って働き方を選択できない状況や、リモートとリアルを融合した働き方での課題も浮き彫りになっている。
社内調査で組織のエンゲージメント低下が明らかに
日本マイクロソフト社内の調査でも、興味深い結果が出ている。
コロナ禍において、日本マイクロソフトは100%リモートワークが行える環境に移行したが、コロナ前に入社した社員に対して、コロナ以降に入社した社員は、人間関係で33%減、業務量は34%減、会議参加数が11%減、上司との面談機会も17%減になっているというのだ。また、リモートワークは通勤時間が無くなり、業務の効率性が高いものの、日々の生活と仕事の垣根がなくなるといった課題が生まれているとの指摘もある。
手島執行役員常務は、「リモートワークは、組織のエンゲージメントを低下させた。日本マイクロソフトにとって、経営課題といえる」と、社内調査の結果を分析する。
だが、日本マイクロソフト社員に「今後、どの様に働きたいか」と聞くと、「従来通り」と答えた社員はわずか2%に留まり、「完全リモート」が35%、「ハイブリッドワーク」が63%を占めたという。
「従来のスタイルに戻って働きたいという社員はほとんどいない。これまでのオフィスの姿ではなく、物理空間をハイブリッドワーク時代にあわせて高度化し、これまで以上にオンラインの活用を高度化することが大切である」とする。
約20年改革を続けてきた働き方も、コロナ禍で一変
日本マイクロソフトでは、これまでにも長年にわたって、働き方改革を行ってきた。
手島執行役員常務は、「日本マイクロソフトにおけるワークスタイルイノベーションの活動の歴史は約20年にわたる」とし、2009年から1609件の業務プロセスを変革してきたこと、ビジネスモデルをクラウド中心にシフトするためにさまざまな改革を推進してきたこと、ピラミッド構造の組織から、分散型、ネットワーク型、プロジェクト型と言われる組織に転換してきたことを示す。
また、2018年からは、「ワークスタイルイノベーション ネクスト」として、いつでも、どこでも、コラボレーションおよびコミュニケーションができる環境を構築したり、2019年夏には、週休3日が話題となった「ワークライフチョイス チャレンジ 2019 夏」を実施。社員一人ひとりが、仕事や生活の事情や状況に応じた多様で柔軟な働き方を選択できる環境の実現を目指した。
だが、実際には、多くの社員がオフィス空間を活用し続けてきたのが実態だった。
「それが、コロナ禍で一変し、業務フローの全てをリモートで行うようになった。これが、想像以上の新たな体験と気づきにつながった。物理空間に依存しない働き方を選択した社員は、新たに資格を取得したり、家族との時間を増やしたり、移住して新たなライフスタイルを模索したりしている。日本マイクロソフトは、ワークライフバランスではなく、ワークライフチョイスを実践し、それがハイブリッドワークにつながっている」とする。
こうした経験をもとに、品川本社における物理空間の進化と、オンラインによる働き方の進化に取り組んだという。