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アンディ・ジャシー氏が就任してまだ1年足らずだが、同氏が率いるAmazonがどのようなものかが見えてきた。
一目見ただけではほとんど変わっていないように見えるが、小さな変化がいくつかあり、それによって戦略と会社の将来展望が多少調整された。ジェフ・ベゾズ氏は長年にわたり、顧客第一主義の実践の第一人者と見なされ、多くの場合はほとんどのビジネスニーズよりも顧客を優先させてきた。実際にAmazonは10年にわたり、サービスを磨くとともに、商品をオンラインで探しやすくし、可能な限り迅速に配達が行えるようにするウェブサイトを作り上げるという名目で、利益を上げていなかった。そして利益を上げるようになったあとでも、高価な投資を続け、財務は好転と悪化を繰り返し続けた。
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もちろん、これらはすべて過去の話だ。ジェフ・ベゾズ氏を顧客盲信として描写するのはお約束にすぎない。しかし、アンディ・ジャシー氏についてはどうだろうか。新しいCEOである同氏は、昨年7月から実権を握っているため、その疑問に対する答えがそろそろ出はじめるだろう。Amazonの複数のブランドを運営するある起業家は、Amazonが新しいプログラムにおいて、「従来ほど顧客中心でなくなった」ことに気づいたと、最近筆者に語った。筆者はそれを聞いて、ほかのAmazon情報通に、同じことを感じているかどうかと質問した。筆者が話を聞いた多くの人々によると、この変化は微妙なものだが、Amazonはあらゆる購入からより多くの利益を上げることを求めており、そのためにいくつかの新しい戦略を採用している可能性がある。
広告収益の重視
検索結果を調べると、この点について多少の推測を行える。Amazonの検索は何年にもわたって次第にあいまいになり、どれが有料でどれがオーガニックなものかを見わけることが困難になってきた。昨秋のデータによると、同社の検索結果の先頭にはスポンサー付きの商品が6個も表示されるようになった。従来なら、これは3個が普通だった。
マーケットプレイスパルス(Marketplace Pulse)もこのトレンドに気づいており、オーガニックな検索結果がスポンサー付きの広告に埋もれはじめていると指摘している。コンサルタントである同社は3月、「買い物客がAmazonで検索を行ったとき最初に表示される20の商品のうち、オーガニックな結果は4つにすぎない」と投稿に記している。「ページの先頭には、もっとも売上を推進する、オーガニックな結果を表示する領域がほとんど残っていない。検索結果の最初のページより後ろの商品が購入されることはほとんどない。最初のページでさえも、大部分の買い物客は末尾までスクロールしない」。
CFOを務めるブライアン・オルサブスキー氏は、Amazonの最新の決算発表で次のように述べている。「広告収益は前年比で25%増加しており、収益の増加率と比べても有望な将来予測値だ。当社は、広告チームの業績に加え、広告が、購入を検討している顧客層にリーチする手段として、出品者やベンダー、そのほかの利用者によって高く評価されていることについて非常に満足し、喜んでいる」。
出品者も、広告がますます重視されていることに気づいている。Amazonで数百万ドルのビジネスを行っている、ある家庭用品ブランドのeコマース責任者によると、過去1年間に見られた大きな変化は、同プラットフォームで広告を開始するよう仕向ける圧力が増大したことだ。同ブランドはこれまで、オーガニックな表示結果により十分な売上が得られたことから、広告を行わないことを選択してきた。しかし同社は有料でのプレゼンスを増やすことを求める圧力の増大を感じるようになった。オーガニックな方法では売上が思わしくなかった商品の売上を増やすことと、Amazonの検索エコシステムが最近になって変更されたことが理由だ。
同社のブランドは何年にもわたり、Amazonに大きな出資を行わず、代わりに売上を促進する主な要因としてオーガニックな表示結果に頼ってきた。しかし、このマネージャーは、より大規模なCPG業者と競合している自社の洗浄商品のビジネスを成長させるため、昨年後半に代理店を雇い、売上増加のために広告が役立つかどうかを試すことを決定した。
同社は広告をはじめたことによって売上が倍増したが、同氏はこれが、オーガニックな成長に同社がもう頼れなくなったことを意味しているのではないかと心配している。「これにいつか終わりが来るのだろうかと疑問を持つようになった」。
「アクセルから足を離し、手を緩めることが怖い」と同氏は語る。
Amazonにおけるジャシー氏のプレゼンス
ほかの出品者は、有料広告以外の検索結果について、別の変化に気づいており、それもまた、戦略の再調整を示唆している。各ブランドと協力し、欧州Amazonでのプレゼンス向上を支援しているステフ・バン・ボーゲル氏によれば、Amazonはユニットエコノミクス(事業の経済性)に優れている商品を高く評価しているように見えるという。
同氏がAmazonで販売している30万を超える商品の分析によれば、現状で高い検索順位を得るには「利益率の高い商品であることが必要だ」。同氏はこれが、Amazonでの小売業者の運用が優れていること、すなわちAmazonが商品を顧客に届けるためのコストが低く、利ざやの大きい商品であることを意味していると語っている。「自社の運用が相手の運用に合わせて十分に調整されていなければ、サプライヤへの注目度が低下する」と、同氏は追加のメッセージに記している。過去のAmazonは多くの場合、より多種多様な選択肢にトラフィックを分散させるため、各種の商品を紹介していた。「しかし現在では、Amazonが利益を得られるような商品に客を集めるよう検索アルゴリズムが作られている」と同氏は述べている。
ボーゲル氏からすると、これはAmazonがブランドや小売業者と協力する方針の変化を示している。最初は、単純にすべてのブランドをAmazonで販売するのが目的だった。その次に、各ブランドの商品ポートフォリオすべてを販売することが目的となった。現在Amazonは、より収益性の高いアイテムや、広告からより多くの料金を受け取ることにより、あらゆる購入からより多くの利益を得るためにまい進している。
これらの多くは、ジャシー氏がAmazonでのプレゼンスを拡大してきたことと軌を一にしている。ジャシー氏は、2021年度第4四半期に180億ドル(約2兆2900億円)を超える売上をAmazonにもたらし、同社の総売上高の16%を占める巨大なクラウドコンピューティングサービス、AWS(アマゾンウェブサービス)ブレインとして活躍した。そこから生まれたのは、企業を惹きつけるようなインフラストラクチャプラットフォームを構築するという発想で、次の手順は独占プラットフォームになることだった。ガートナー(Gartner)は2020年、AWSはクラウドコンピューティング市場の41%を占めると推定した。現在では、そのAWSのプレイブックをほかの、小売以外のAmazonビジネス、具体的には広告に適用し、利ざやの大きいほかの収益エンジンを推進できることに期待するのが中心となっているようだ。
出品者との関係構築
しかし、すべての出品者が、これらの変更が顧客に負の影響を与えると見なしているわけではない。Amazonなどの販売チャネルについてパナソニック(Panasonic)やコンバース(Converse)などのブランドと協力しているeコマースアクセラレーターであるパターン(Pattern)の創設者でCEOを務めるデイブ・ライト氏は、Amazonが出品者との関係構築を進めていることに着目した。
パターンのビジネスは急速に成長しており、過去1年間にAmazonから受けた提案はさらに増えたと同氏は述べている。「現在、当社はいくつかの内部チームと、極めて高レベルな対話を毎週行っている」と、同氏は述べる。
同氏は次のように述べている。「同社は、出品者との対話を大幅に増やした。私は数多くのフォーラムに参加しているが、彼らはより親切になったように見える」。
もちろん、Amazonが出品者と友好的になったとしても、同社で多少の戦略的な変化が進行中であるという推測が否定されるわけではない。ボーゲル氏が述べるように、より多くの出品者を有料プログラムに紐づけすることが現在は重視されている。
ボーゲル氏は次のように述べている。「当社は、Amazonがスポンサー付きのキャンペーンへの出資に引き続き注力していくことを認識している。これはあらゆる側から推進されつつある」。
[原文:Amazon Briefing: One year into Andy Jassy’s tenure, sellers see subtle strategic shifts]
Cale Guthrie Weissman(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)