イギリスの体重の単位「ストーン」に迫る

デイリーポータルZ

イギリスでは、体重を「ストーン」という単位で量るらしい。

体重を石で表すというのは原始的な感じもするけれど、なんだかチャーミングだ。

日本人にとっては馴染みがないストーンのことを、もっと知りたい。そして自分の体で体験してみようじゃないか。

ストーンと言う単位

アメリカやイギリスでは、メートルやグラムではなく、ヤードやポンドなどという単位が使われていることは、よく知られている。

これは「ヤード・ポンド法」と呼ばれる単位系なのだが、私のようにメートル法で育ってきた日本人にとってはなんとも分かりづらく、イギリスに長年住んでいる人もなかなか慣れないそうだ。

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私の住むドイツも日本と同じくメートル法なので、ヤードやポンドとは無縁な生活を送っていたのだが、つい数年前、今まで聞いたことのなかった単位の存在を知った。

「ストーン」という単位だ。

ストーンは大きい石、それとも小さい石?

それは、イギリス人の同僚のマットとお昼を食べていた時だった。

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体重が石半分増えた?何のことだかさっぱり分からない。

詳しく聞いてみると、イギリスでは体重を量る際、「ストーン」という単位を使っているのだそう。

1ストーンは14ポンドで、キログラムに換算すると約6.35キログラムだそう。

響きがあまりにも石器時代的なので冗談かと思ったのだが、マットは自分の体重はストーンでしか分からないと言う。

でも、考えてみたら自分の体重を石で表すって、めちゃくちゃチャーミングではないか。

ストーンって、なんだかかわいいな。ストーンのことを、もっとよく知りたくなってきた。

イギリスの日常の所々に現れる「ストーン」

イギリスで日常的に使われている単位なのであれば、現地の体重計もストーン表記なのだろうか。

イギリスに住む友人に確認してもらおうと思っていたのだが、イギリスの体重計に関する情報は、すでにデイリーポータルZにあった。

2009年に犬のジョンさんが「風雲!コネタ城」に投稿してくれたストーン単位の体重計の写真。

さすがデイリーポータル。20年分のコンテンツは侮れない。

他にも、ストーンはメディアでも普通に使われていることが分かった。こちらのイギリスの公共放送局BBCの記事でも、見出しにストーンの文字がある。

コロナ禍のロックダウン中、イギリスの大人の10人に4人が平均してハーフストーン(約3kg)太ったと言う記事。ストーンを知らない人のために丁寧にキロ換算もしてくれている。

もしやと思い、大ヒット映画にもなったイギリスの小説「ブリジット・ジョーンズの日記」を確認してみると、体重がストーンで書かれていた。

ストーンは小文字で「st」と訳されている。st に続く数字はポンドだそう(ポンド記号の「lb」は省略されている)。
試しにブリジット・ジョーンズの体重をキロに換算してみるが、結構面倒くさい。

ちなみに、小説のアメリカ版では、ストーンを使わないアメリカ人向けにストーンがポンドに変換されており、日本語版ではキログラムにちゃんと書き換えられているようだ。

メートル法とヤード・ポンド法が共存するイギリス

イギリス人とストーンの関係をよりよく理解するために、ストーンを知るきっかけとなったイギリス人の友人、マットに話を聞いた。

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ストーンの単位って、学校で教えてもらうの? 

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学校ではメートル法の勉強をした覚えはあるんだけど、ストーンに関しては学校で学んだ記憶がないんだよね。家庭で自然に身についたような気がする。

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学校でメートル法を勉強したと言うことは、もしかしてイギリス人はメートル法とヤード・ポンド法のバイリンガル、ってこと?

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メートルとかリットルとかは何となくは分かるけど、僕がこれぐらい、ってはっきり想像できるのはヤード・ポンド法かな。自分の体重もキロでは分からないし……

客観的に考えると明らかにメートル法の方が計算しやすいんだけどね。だって1ポンドは16オンスとか、1フィートは12インチとか、分かりにくすぎるよ。

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ドイツではメートル法が使われているけど、こっちに住んでいて困ったことはある?

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一番困ったのは、ドイツで身分証明のカードを作ってもらった時かな。

カードの裏に身長が記入されるんだけど、自己申告型だからカード発行時にその場で身長を聞かれるんだよね。

そのことを知らなくて、自分の身長はフィートとインチでしか知らなかったから、緊張して計算し間違えちゃって。だから身分証明書の身長が、本当の身長より4センチ低いんだ…… 

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4センチって結構な差だね!次回行った時に直してくださいって言うのも勇気がいりそう。

1990年代のNASAの火星探知機がメートル法とヤード・ポンド法を間違えたために故障した、って言う話があるぐらいだから、このぐらいの間違いは日常茶飯事なんだろうね。

赤ちゃんはストーンで量らない

もう一人、ロンドンに住むイギリス人のハナにも話を聞いてみた。

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ハナは日常的にストーンって使ってる?

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期待を裏切るようで申し訳ないんだけど、私はキログラム派なんだよね。

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なんと!

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私がメートル法の国に長く住んでたからかもしれないけど、私の周りの若い世代の人はキログラム派が多いよ。私にとってストーンは一昔前の言葉って言う印象があるかな。

あ、でも競馬とかラグビーの選手の体重は今でもストーンで量ってると思うよ。 

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へー!それにしても、イギリスって本当にメートル法とヤード・ポンド法のハイブリッドなんだね……

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そうだね。例えば、私が乗ってる車は時速がキロで表示されるんだけど、道路標識はマイルだしね。

 私の場合は身長はフィートとインチで測るけど、体重はキロで量るし、結構ごっちゃだね。人にもよると思うし。

あと不思議だったのは、病院で私の体重を量るときはキロだったのに、なぜか新生児の娘の体重はポンドで量られてたこと。

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同じ人間なのに!でも赤ちゃんの重さは「ハーフストーン」とは言わないんだね。

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多分それはないと思う!

なるほど、イギリス国内でも誰もがストーンを使っている訳ではないらしい。

これでイギリスでのストーンの立ち位置はなんとなく分かったが、ストーンがどのくらい大きい石なのかは実際に見て、持ってみないと分からない。

よし、1ストーン相当の石を探しに行こう!

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1ストーンの石を探す

石が沢山あるところといえば、川辺だろう。運よく、ベルリン市内にはいくつかの川が流れており、サイクリングルートにもなっている。

川辺をサイクリングしながら、手当たり次第に石を量っていけば、そのうち1ストーン(6.35キロ)相当の石が見つかるのでは。そうと決まれば、バッグに体重計を詰めて出発だ!

走り始めて間も無く、道端にいい感じの石があった。

歩道の境目に使われている石が外れていた。これをちょっくらお借りします。
こんな感じで量っていくぞ!
太陽の光で見えにくいが、7.7キロと書いてある。

重すぎるけど、1個目にしてはいい線行ってるのではないか。

こんな感じで探していけば、ちょうどいい石がきっとすぐに見つかるはずだ。

石が全然ない

そんな能天気なことを考えながら、ベルリン北部に流れるパンケ川のサイクリングルートの出発点に着いた。

ベルリン市内を流れるパンケ川。都会のど真ん中なのに森の中にいるよう。

パンケ川は細くて小さな川なのだが、30キロ程続く自転車道路をずっと辿っていくとお隣のブランデンブルク州まで行けてしまうのだ。

街中では川沿いが公園になっていたりして、市民の憩いの場になっている。

ここを進んでいけば、そのうち石が沢山落ちている河原があったりするのでは。

と思っていたが、その期待はあっけなく裏切られた。

都心では川辺が舗装されているのは予想内だったが、
中心部から離れても
離れても
離れても
一向に石が見つかりそうな場所が現れない。

たまに石がある場所があっても、小さすぎたり大きすぎたり、またはアクセスできない状態だった。

小さすぎる上に、反対岸にはいけない状態。
こちらはデカすぎる。
こっちの石は鉄網のようなもので囲われていて取れない。

石は街中に落ちてるもの

これ以上進んでもらちが明かなさそうなので、一旦サイクリングルートを外れて家に帰ることにした。

帰りに「Stein-Welt (ストーン・ワールド)」と書かれたトラックを見かけた。私をストーン・ワールドに連れて行ってくれ。

しょんぼり住宅街沿いの道を走っていると、あれ!そのへんに石が落ちてるじゃないか!

落ちてる、落ちてる!

普段だったら見向きもしなかっただろうが、今日の私は石探知機だ。急いで自転車を降りて石を集める。

早速量ってみよう。

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最初に見つけたのは片手で持てるぐらいの石ばかりだったので、軽いだろうと思っていたが
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案の定みんな1キロ前後だった。

でも石を拾うなら街中が一番!ということが分かったので、横目で道端をチェックしながら、石を見つけては量りまくった。

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大通りのすぐ脇とか
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公園とか
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草むらとか
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そこらへんに
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いい感じの石が落ちている。

が、1ストーン相当の石はなかなか見つからない。

なぜか6キロ台の石だけ見つからない悔しさ。

ただ石をとことん量りまくったおかげで、石を見るだけでおおよその重さが分かるという特殊な能力だけはついた。

でも、目当てのストーンは見つからない。もう、こうなったら確実に石がある場所に行くしかない。

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ホームセンターはストーン・ワールド

もう石探しの旅は疲れた。もうちょっと楽をしてストーンの重さを実感できる場所はないものか。

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そうひらめいた土曜日の朝、眠そうな夫を無理やり引き連れて、ある場所へ向かった。

ホームセンターだ。

街の少し外れにあるホームセンター。ここならいい石があるはずだ。
店の前にも石が沢山転がっている。これは期待できそうだ(?)。

そして期待通り、巨大ホームセンターの入り口付近には、石が大量に積んであった。ヒャッホー!

店の前にずらっと並ぶレンガやタイルの山。石だらけだ!

そしてさらに石材コーナーへ向かうと、

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来たぜ!ストーン・ワールド!

石パラダイスである。今まで石を買おうと思ったことなんかないのに、すごいテンションが上がる。

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石だらけで嬉しすぎる。どさくさに紛れて関係ない石まで買ってしまいそうだ。

いやいや、私はストーン石を探しに来たんだ。集中せねば。

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さあ、石の重さを当てる能力を発揮する時が来た。

と思ったが、実はここでは石の重さを当てる必要が全くないのだ。

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それは、全ての石の重さを値札に書いてくれているから。

ちょっとズルをしている気分だが、ずっと当てずっぽうで石を探して来た身としてはすごくありがたい。 ありがとう、ホームセンター。

しかも、こんなに沢山石がある場所でも、6キロ台の石は3種類ほどしかなかった。ストーン相当の重さの石は結構希少なようだ。

値札には6.21キロって書いているけど、一つ一つの重さは微妙に違うはず。いくつか比べてからこれに決めた。

重さの表記に頼りすぎるのもなんだか悔しいので、ちょっと賭けに出て、あえて重さが書いていない石も買ってみた。

うん。さっきのより若干重いけど、いい線行ってるんじゃないか。
買った石はセール品だった。石の相場はよく分からないが、得した気分になる。

合計2つの石を手に入れた。さあ、家に帰って量ってみよう。

当たり前だけど、石って重いな。

ストーンは結構でかいし、重い

手に入れたストーン候補たちを、早速量ってみることにした。

奥のが6.21キロと書かれていた石で、手前のがお買い得品だった石。

まずは、割引していた方の石を量ってみる。

石の大きさは29cm x 10cm x 10cmぐらい。大体食パンサイズだ。
重さは6.6キロ!うーん、ちょっと惜しい!

やはりちょっと大きすぎたか。次に、もう一つの石を量ってみる。

こちらは24cm x 10cm x 10cmほど。さっきのより少し短い。
6.4キロ!!

1ストーンが6.35キロなので、ほぼほぼストーンサイズである。やった!ビンゴ!大当たり!大満足である。 

そして今更だが、うちの体重計にはストーン表示のオプションがあることに気づいたのだ。ストーンに切り替えて石を量ってみると、

1st 0.2 lb と出た!約6.44キロである。

さて、念願のストーンは、持ってみるとどんな感じなのだろう。

片手では持てない、ずっしりした重さ。

すごく重いわけではないけど、両手でないと持ちにくい。足に落としたら確実に足の指が折れるだろう。

確かに、この石の半分体重が増えたらガックリ来るだろう。逆に、この石一個分痩せることが大変な事であることもよく分かった。

とにかく、無事ストーン石が見つかってとても嬉しい。今度家にお客さんが来たら持たせてあげたいと思う。

ストーン、分かったような。分からないような。

単位は言語

地域による単位の違いは、言語の違いとよく似ている気がする。

日本人は「30マイル」と言われてもいまいち分からないが、逆にイギリス人は「4畳半」と言われても理解できないだろう。すごく不思議な感覚だ。

今回ストーン1個分の重さは実感できたけど、7ストーン、9ストーンとか言われてもまだどうもピンと来ない。単語を一つ学んだけど、それをまだ文章にできないような感じかもしれない。

体重計をストーンにセットして練習してみれば、そのうちストーンとキロのバイリンガルになれるかもしれない。試してみようかな。

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そういえばデンマークの田舎の道端でもいい石売ってたな、と思い出した。

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