1. 働く人が豊かになれない日本
前回は、家計の金融資産、純金融資産について、先進国での比較をしてみました。日本は先進国(OECD36か国)の中で、比較的金融資産を多く持つ国です。
特に「現金・預金」の水準は圧倒的なのですが、その内訳を見ると現在の高齢層が現役世代の時に積上げた部分が多く、大きく嵩上げされた状態といえそうです。一方で、現役世代は先進国で唯一給与所得が停滞していて、金融資産もあまり増えていません。
現役世代の給与が減少している事については、本ブログでも何度か触れてきました。
今回は、日本の労働者の給与所得に改めてフォーカスしてみましょう。「民間給与実態統計調査」に、男女別、年齢階層別のデータがありましたので、詳しく眺めていきたいと思います。
まずは、男女合計の推移から見てみましょう。
図1は、年齢階層別の平均給与の推移グラフです。
元のデータは5歳ごとのデータですが、煩雑なので私の方で10歳ごとの数値に再計算しています。1年間勤めた労働者(1年勤続者)のデータとなります。
本ブログでも労働者の平均給与については、何度か取り上げてきましたが、年齢階層別の推移については初めてとなります。
まず、全年齢合計の平均給与(黒)は、バブル崩壊までは右肩上がりに成長していて、バブル崩壊後成長が緩やかになり、1997年をピークにしていったん減少し、リーマンショックで急激に落ち込んだ後、徐々に回復傾向となっています。
ここまでは、これまでも取り上げてきたとおりですね。GDPや1人あたりGDPの推移とも連動しています。そして、コロナ禍の影響とみられる2019年、2020年の減少が確認されます。
平均値では、20年以上前の1997年のピーク値すら超えられていません。
年齢階層別にみると、どの世代も概ね全年齢合計の平均値と連動した推移となっています。一方的に増えたり、減ったりする年代が特にない状況ですね。
ただし、リーマンショック後の推移では、50代に比べて40代が横ばい傾向であることが特徴的です。
平均給与 男女合計
1997年→2020年 単位:万円
合 計: 467.3 → 433.1 (-34.2)
20代: 336.4 → 323.2 (-13.3)
30代: 473.9 → 419.7 (-54.2)
40代: 529.7 → 485.5 (-44.2)
50代: 557.9 → 516.1 (-41.8)
もちろん、1997年当時よりも社会保険料が上がっていますので、可処分所得で見ると上記の数値よりもさらに減っているはずですね。
可処分所得については、今後別の機会に取り上げていきます。
図2はそれぞれの年齢階層について、1997年の水準を基準(1.0)とした場合の成長率を現したグラフです。
どの年齢階層でも1997年から減少し、2009年を底にして増加基調である事がわかります。
特に20代は2009年以降の回復傾向が強いようです。
ただし、どの年齢階層でも1997年より減少しています。1997年の水準に対して、直近の2020年では平均で7%、30代では12%も減少している状況です。
2. 悲しき日本の男性労働者たち
続いて、男女別でもデータを確認していきましょう。
図1は男女合計のデータでした。「女性労働者の増加によって平均給与が減少している」といった意見もあるようですが、実際に男性だけのデータとしてはどうでしょうか?
図3が男性労働者の年齢階層別平均給与の推移です。
男女合計よりも数値は大きくなりますが、傾向はあまり変わりませんね。
1997年をピークにして、いったん減少し、2009年を底にして上昇傾向、直近は減少といった具合です。ただし、リーマンショック後の推移が40代だけ横ばいなのが特徴的です。いわゆるロスジェネといわれる世代ですが、50代の回復傾向と比べると大きく差があることがわかります。
平均給与 男性
1997年→2020年 単位:万円
合 計: 577.0 → 532.2 (-44.9)
20代: 374.8 → 352.0 (-22.8)
30代: 550.6 → 489.8 (-60.8)
40代: 672.5 → 598.0 (-74.5)
50代: 720.6 → 661.8 (-58.9)
1997年の水準と比べると、各年齢層で大きく平均給与が下がっています。特に40代では74.5万円も下がっているのは驚きですね。
30代、50代も60万円ほど減少しています。
先ほどの男女合計値よりも減少幅が大きいようです。
男性労働者の平均給与がこれほど減少しているのは意外だったのではないでしょうか?
図4が各年齢階層については、1997年を基準(1.0)とした成長率です。
どの年齢層も同期して推移している様子がわかりますね。
リーマンショック後の回復期も40代以外は一致して上昇傾向となっています。40代だけが横ばい傾向である事も確認できます。
3. 奇妙な女性労働者の給与水準
それでは、女性の労働者の平均給与はどうでしょうか?
図5が女性の年齢階層別平均給与です。
縦軸を男性のグラフのスケールと合わせている関係もありますが、年齢階層別での差がほとんどないのが特徴的です。
男性のグラフ(図3)は年齢階層が上がるごとに、平均給与も上昇しています。一方、女性のグラフはほとんど給与が変わりません。そして男性と比べると、全体的にかなり低い水準です。
年齢が上がるほど、賃金が上昇するフルタイム労働者が減り、賃金がほとんど変わらないパートタイム労働者が増えるなどの要因があるかもしれません。
このあたりについては、今後もう少し深堀りしてみたいと思います。
平均給与 女性
1997年→2020年 単位:万円
合 計: 278.9 → 292.6 (+13.7)
20代: 286.2 → 287.8 (+ 1.6)
30代: 299.2 → 310.1 (+10.9)
40代: 279.7 → 319.0 (+39.2)
50代: 278.7 → 314.9 (+36.3)
女性の場合は、少しずつ平均給与の上昇が見られ、1997年の水準と比べると、特に40代、50代で増加幅が大きいようです。
図6が女性の年齢階層別に1997年の水準を基準(1.0)とした時の成長率のグラフです。
男性と異なり、リーマンショックでの大きな落ち込みはなく、リーマンショック後の上昇傾向によって、プラス成長となっています。
4. 転落していく日本人の給与水準
今回は日本の労働者について、男女別、年齢階層別の平均給与についてフォーカスしてみました。
男性労働者は年齢関係なく平均給与が下がっているという事実と、女性は若干平均給与は上がっているながらも男性と比べると極めて低い水準である事が改めて確認できました。
そもそも、先進国で平均給与所得がマイナス成長しているのは日本だけです。
図7は2000年を基準(1.0)とした平均所得の推移ですが、マイナス成長しているのは日本だけで、他国は軒並みプラス成長です。
その結果、1990年代に先進国で3番目の高水準だったのが、直近では下位グループにまで転落してしまっています。
図8が平均所得(名目)のドル換算値を大きい国順に並べたグラフです。
日本は4万ドル強で36か国中20番目の水準で、既に先進国で下位グループに属します。OECDの平均値も下回ります。
現在は20位という順位ですが、このまま平均所得の停滞が続けば、今後更に順位を下げていく事は想像に難くないですね。
働く人の賃金が上がっていく社会への変化が必要だと思います。
皆さんはどのように考えますか?
編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2022年5月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。