人間は長期間の宇宙旅行で「冬眠」することはできないかもしれない、その理由とは?

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人類を火星や金星に送りこむ場合、乗組員の健康維持や食料問題、心理状態の管理などの問題を解決しなければなりません。SFの世界ではこの問題を解決するために、乗組員は「長期間の宇宙旅行を人工冬眠状態で過ごす」ということがよくあります。ミレニアム統合生物学研究所のロベルト・F・ネスポロ氏やチリ・カトリック大学のフランシスコ・ボジノビッチ氏は、冬眠する動物の体重とエネルギー消費量の関係を明らかにする研究を発表しました。

Why bears hibernate? Redefining the scaling energetics of hibernation | Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences
https://doi.org/10.1098/rspb.2022.0456

Here’s Why Hibernation in Space May Not Be Possible For Humans After All
https://www.sciencealert.com/a-common-sci-fi-solution-for-long-distance-space-travel-could-be-pointless-for-humans

2001年宇宙の旅」や「エイリアン」などのSF映画には、人工冬眠状態になって何十年あるいは何百年もの宇宙旅行を過ごすシーンが登場します。

by Meg I or R

冬眠というと、クマが巣穴にこもって長い冬を過ごす姿を思い浮かべる人も多いはず。確かにクマは寒さの厳しい数カ月間を冬眠で過ごしますが、リスやコウモリのような小型の動物が行う冬眠とは異なります。

ネスポロ氏らがさまざまな冬眠する種のエネルギー消費量について調査したところ、冬眠中の動物の1日のエネルギー消費量は動物ごとにかなりバランスが取れた状態に調整されていたとのこと。例えば体重25gのオオコウモリや体重800gほどのリスなどの小型哺乳類の場合、体重1gあたりのエネルギー消費量はほぼ同じだったそうです。小型哺乳類の場合は冬眠中に覚醒をはさみ、ためこんだ餌を食べたりため込んだ脂肪を消費したりします。

一方で、クマのような大きな動物が冬眠する場合、体温が下がり、代謝が低下し、心拍数や呼吸が遅くなり、常に脂肪を消費します。このため、無駄な狩猟や採食をする必要がなくなり、エネルギー消費量を98%も減少させるとのこと。それでも冬眠状態でもあらかじめ蓄えたエネルギーを消費し続けるので、冬眠が終わる頃には体重の4分の1が失われることもあるそうです。

クマのように大きな哺乳類の場合、体重1gあたりのエネルギー消費量は小型哺乳類よりも大きくなり、冬眠中の総エネルギー消費量は安静時のエネルギー消費量とほとんど変わらないそうです。つまり、大きな哺乳類は小さな哺乳類と比べて冬眠中のエネルギー消費効率は悪いというわけです。

クマと同じ計算を人間に適用すると、「体を冷却して心拍数や呼吸数を減らして人工的に代謝を落とす」という人工冬眠状態を、宇宙船内でリスクと手間をかけて再現するよりは、おとなしく睡眠薬を飲んで寝るだけで十分ということになるとのこと。


人間の場合、たとえ1日に消費するエネルギーを数百キロジュールに抑えられても、1年間の宇宙旅行を冬眠状態で過ごすとなると、1年で体重がおよそ2kg減少することとなります。太陽系の他惑星など、比較的近距離の宇宙旅行なら問題ありませんが、もし何十年もかけて宇宙旅行を行おうとした場合、数百kgも脂肪をつけるか、合間合間に冬眠から目覚めて脂肪たっぷりなラード入りミルクシェイクを何杯も飲むしかありません。

いずれにせよ、人工冬眠状態で長距離の宇宙旅行をしのぐのはあまり現実的ではないということが、ネスポロ氏らの研究から論じられます。科学系ニュースサイトのLive Scienceは「退屈をしのぎ、船内のアイスクリームを食べ尽くさないようにするには、SFドラマでも見てから鎮静剤を大量に飲んで、火星まで居眠りするのがいいのかもしれません。人類に冬眠を強いるのは、その手間に見合うだけの価値がないのです」と述べています。

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