世界初 NFT デーがパリで開催:ファッションブランドにおけるNFT分野参入のカギとは?

DIGIDAY

バイナンス(Binance)主催のパリ・ブロックチェーンウィーク(Blockchain Week Paris)の初日となる4月12日に行われたNFTデーは、NFTのエコシステム全体が集まる欧州初のイベントであり、技術系ソフトウェア開発者だけでなく、ファッションブランドも参加した。昨年は、グッチ(Gucci)のようなラグジュアリーファッションブランドから、ブーフー(Boohoo)のようなファストファッションブランドまでがNFTコレクションをローンチしており、ブランドはますますこの業界とその方向性に関心を寄せている。さまざまなNFTプロジェクトの成功率がそれぞれ異なるのは、ブランドがこの分野での足がかりを見つけながら、非常に重大な特徴ーーすなわち、コミュニティ形成、長期計画、報酬の保持ーーの重要性を学んでいる最中だからだ。

ケリング(Kering)、ロレアル(L’Oréal)、サザビーズ(Sotheby’s)の代表者がNFTデーに出席し、ファッションとビューティのこれまでで最大のNFTプロジェクトの内幕に注目した講演が多数行われた。たとえば、ファッションに焦点を絞った最初の大きなパネルでは、グッチ、バレンシアガ(Balenciaga)、バルマン(Balmain)の過去の探求をもとに、ラグジュアリーブランドとNFTの次の時代について重点が置かれていた。

ディスカッションのテーマは、ブランドが初めてNFT分野に参入する際に重視すべき点から、既存のプロジェクトを拡張することにいたるまで、多岐にわたっていた。以下では、この日にパネリストが言及した重要事項をいくつか紹介する。

コミュニティ形成がカギ

NFTとコミュニティ形成に関する会話から導き出された最大の結論は、単純なことだが、バリュー・プロポジション(顧客に提供する価値)を明確にするということだ。ブランドがNFTの領域に加えることができるユニークな点は何か。ブランドのバリュー・プロポジションは、時間の経過とともに変化し、成長していくにつれて、人々が購入したくなるような興味深いプロジェクトを創出することができる。一方でNFTのバリュー・プロポジションは、機能と実用性が中心となる。

ケリングのチーフクライエント&デジタルオフィサーであるグレゴリー・ブッテ氏は、ケリングが行っているすべてのNFTプロジェクトで、チームはコミュニティの感覚を作り出そうとしている、と述べている。また、同社のファッションハウスが語りたいストーリーや製品に対して顧客に抱かせたい感情でNFTを増強しようとしている。デジタルレンダリングやデジタルガーメントを制作すること自体には時間がかからなくとも、コミュニティの構築は、時間をかけて独自のバリュー・プロポジションに力を入れることでしか実現できない。

「コミュニティという点で、とくにNFTやデジタルアートワークの領域において第一に機能しているとわかっているのは、クリエイティビティだ。ラグジュアリーメゾンのバリュー・プロポジションのひとつはクリエイティビティーーつまり驚くべき革新的な製品を作り出すことである。その観点から、ラグジュアリー業界とWeb3やNFTの領域は強く結びついている」とブッテ氏は述べている。

NFTが単なるデジタルアート作品やデジタルガーメントではないとなれば、コミュニティメンバーが参加してNFTを購入する可能性は高くなる。NFTの購入に機能をもたせたり、付加的な体験を追加することで、ブランドは目立つことができるし、購入者がコミュニティに留まる長期的なインセンティブを生み出すことが可能となる。購入者が求めているのは、コミュニティにフォーカスしたプロジェクトだ。入念に考えられキュレーションされ、価値を提供してくれる上に、購入したトークンをもつ者だけがブランド限定のイベントやアイテムにアクセスできるといった、基本的に自分たちをクラブのメンバーにしてくれるようなプロジェクトなのだ。「デジタルアート作品だけでなく、アクセスや実用性を提供することが(興味を引くには)非常にうまくいくとわかった」とブッテ氏は指摘した。

たとえば、アダム・ボム・スクワッド(Adam Bomb Squad)プロジェクトでは、そのアートワークを使用したグッズからコミュニティメンバーにロイヤリティが支給され、D&Gによる大規模プロジェクトでは、購入者にユニークなクチュリエ体験が与えられている。

相互運用性や独占的な要素にも価値がある

ケリングにしてみれば、Discordを通じてコミュニティに最新情報を提供し、NFTロードマップの定期的なアップデートを詳しく伝えることで、そこにいる人々とつながることができる。NFTの世界でVIPアクセスリストとしての役目を果たすホワイトリストといった機能はその好例であり、アーリーアダプターに特定の日付や時間枠でミントへのアクセスを保証している。これはグッチなどのケリング傘下のブランドで成功しており、ホワイトリストが数時間で埋まっている。

NFTの領域では、いまだに比較的限られているが、コミュニティにとって価値のあるもうひとつの機能は、NFTをプラットフォーム間で相互利用できるようにすることだ。これはたとえば、ユーザーがNFTをザ・サンドボックス(The Sandbox)で使うことも、Roblox(ロブロックス)のようなゲームで使用してプレイすることもできるということを意味する。相互運用性があれば、購入者が使用したりディスプレイしたりするためにより多くのNFTを買う可能性が高くなり、複数のプラットフォームにまたがるコミュニティが強化される。

また、コミュニティには独占的な要素も加わる。現在ベルリンには、会員制NFTがなければ入場できないリアルなアートギャラリーが存在する。LVMHの元チーフデジタルオフィサーで現在は暗号ハードウェア企業レッジャー(Ledger)でチーフエクスペリエンスオフィサーを務めるイアン・ロジャース氏は「NFTは文字通り、それぞれの空間の間を移動できるようにするためのパスになっている」と述べている。

プロジェクトに必要なのは長期的なビジョン

グッチとバレンシアガを所有するケリングは、デジタル・イノベーションに特化したチームを社内に設けており、この分野を自由に探求できている。そのリスクテイクは、ラグジュアリーの「様子見」派のブランド(ラグジュアリーブランドは一般的にeコマースなどのイノベーションを採用するのが遅い)のあいだでは標準的ではないが、その初期のプロジェクトは、この分野で新たにローンチしたり、現在のプロジェクトを拡張したりすることを求めているブランドに対してひとつのモデルとなっている。たとえば、グッチの複数のNFTドロップはすべてつながっている。コレクターアイテムの企業スーパープラスチック(Superplastic)とともに1月にリリースしたスーパーグッチ(Super Gucci)のコラボレーションなど、過去に同社のNFTを購入したことがあるメンバーはホワイトリストに登録される。これは、ファッションの分野ではまだ新しく、ほとんどのNFTプロジェクトは別々のプロジェクトをリンクさせるほど大きな規模にはなっていない。

このように長期的なNFTのロードマップを持つことで、ケリングはDiscordを通じてコミュニティを巻き込みながら、次のアイデアを開発することができる。

フリップではなく、NFTの保有に報酬を与える

「ボビー・ハンドレッズ氏がアダム・ボム・スクワッドで行っていることが、NFTをフリップ(転売)ではなく保有することに報酬を与えるという、もっともよい例だ。彼は本当にブランドを築こうとしていて、フリッパー(転売する人たち)にはあまり好意的ではない。実際、彼は安く買って高く売りたいという多くの人たちに失望しているし、その代わり(売らない)メンバーのために価値を創造しようとしている」とロジャース氏は話す。

NFTのプロジェクトがさらにローンチされていくにつれて、このフリッピングは、忠実なコミュニティメンバーとそうでないメンバーを分ける方法になってきている。新たなユーティリティが登場し、クリエイターが長期保有者に報酬を与えるようになると、長期保有をしている人たちは、NFTを現金獲得以上のものと考えて保有を実践する。ロジャース氏もアダム・ボム・スクワッドのNFTを保有するひとりだ。「今、私のアダム・ボム・スクワッドにオファーが来ている。毎日毎日、そうしたオファーが来るが、決して受け入れない。そうするつもりがないのは、私にとってあれは長期的なコミュニティだからだ」。

通常、この価値の創造は、物理的な体験の提供からNFTユーティリティの追加まで、コミュニティが評価する機能を追加することから生まれる。ハンドレッズ(The Hundreds)は、2021年8月にいち早くNFTをリリースしたブランドのひとつだ。典型的なラグジュアリーブランドでもなければファッション企業でもないが、印刷雑誌をもつストリートウェアブランドとして、その強みはナイキ(Nike)の愛好家やシュプリーム(Supreme)のファンと同様に、ブランドを信じている既存のコミュニティに依存している。その初期メンバーは低いNFT価格で現金化することができたし、アーリーアダプターは自分たちを真のコミュニティと考えていて、後にこのプロジェクトに対する関心がピークに達した際には、Shopifyなどの企業も購入している。ShopifyはTwitterのプロフィール写真の更新にNFTを使用し、同社のプラットフォームでのNFTの売買を許可している。

[原文:The first global NFT Day in Paris presented big ideas for fashion brands]

ZOFIA ZWIEGLINSKA(翻訳:Maya Kishida、編集:黒田千聖)

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