この1年で、メタバースは「今日のバズワード」から「今年のバズワード」に成長した。IT企業やゲーム開発会社、ブランド各社もこぞってこの未来のバーチャルワールドに名乗りを上げている。
しかしながらバーチャルの世界でのアクティベーションを考えているブランドは、たとえメタバース熱が(少なくともマーケティング部門で)このままヒートアップしても、潜在顧客がひるむようなサービスを提供しないように注意すべきである。ゲーミングやSNS、ブロックチェーン技術をはじめ、いくつもの分野が、メタバースビルダーになるべく競争を繰り広げているが、当の消費者は最新の専門用語やテクノロジーの進歩に遅れないよう苦労している状態だ。ブランドがメタバースの争奪戦にかまけて消費者を蔑ろにするような本末転倒な事態になれば、メタバースが本格化する前にオーディエンスが消耗しかねない。
一般的な消費者がどのようにしてメタバースを利用し始めているのかについて理解を深めるために、米DIGIDAYでは、メタバースにおける消費者の感情と行動に関する5つのデータ報告と調査から重要なポイントを抽出した。
Advertisement
ほとんどの人は依然として、メタバースが何なのかを知らない
市場調査企業イプソス(Ipsos)が実施した2022年1月の調査では、米国人の38%がメタバースをよ「く知っている」あるいは「ある程度知っている」と回答している。
しかしながら、この数字は消費者の年齢と、子どもの有無によって大きく変わる。子どものいる世帯の回答者のうち50%以上がメタバースをよく知っていると回答したが、55歳以上の回答者で「メタバース」という言葉を知っていると回答したのはわずか20%だった。
上図は「メタバースを知っている」と回答した人に、具体的にその内容を説明してもらった結果だが、顕著な違いが生じた。SNSだと考える人もいれば、仮想世界だと考える人もいる。ブランド各社は今後もメタバースのプラットフォームを利用していくのであれば、消費者がメタバースについてすでに理解していると考えず、消費者に1から教えていくつもりでアクティベーションしたほうが賢明だろう。
ほとんどのブランドもメタバースについて知らない
消費者がメタバースについてまだよくわかっていない場合、ブランドによってはバーチャルの世界に足を踏み入れるのは気をつけたほうがよいかもしれない。
メディアポスト(MediaPost)の報道によると、ソーシャルアナリティクス企業リッスンファースト(ListenFirst)が実施した2021年12月の調査では、ブランドのマーケティングおよびアナリティクス担当役員のうち、「メタバースを理解している」「メタバースが自社ブランドにどのような影響を与えることになるのかを理解している」と回答したのはわずか18%にすぎないことが明らかになった。とはいえ、回答者の49.5%がメタバースを「ある程度」理解していると回答しているので、メタバースのアクティベーションが主流を占めるようになれば、この数字も上昇する可能性がある。
いずれにせよ、このデータからわかるのは、VR(仮想現実)を利用した「AT&Tステーション(AT&T Station)」のような派手なアクティベーションが行なわれているにもかかわらず、すべてのブランドがあとに続く準備ができているわけではないということだ。メタバースのプラットフォームはまだそれほどテストされておらず、今後メタバースが本格的に利用されたら、実際にどのようになるのか明確な未来像が見えていないことを考えると、それもいたしかたない。
消費者はメタバースの支出に前向きである
メタバースに精通している消費者は一部にすぎないが、仮想空間を快適に利用している人はこれからのバーチャルコマースに魅力を感じている。体験型eコマースプラットフォームのオブセス(Obsess)が実施した2021年1月の調査によると、消費者の4分の1は3Dの仮想店舗でオンラインショッピングを経験したことがある。
さらに世代別に分析すると、バーチャルコマースの活動がもっとも活発なのはミレニアル世代であり、ミレニアル世代の回答者のうち77%が仮想店舗で買い物をしたことがあると回答している。
注目すべきは、バーチャルコマース関連の言葉がまだメタバースのコンセプトに追いついていない点だ。メタバースの定義として最も適切なのは、3Dの仮想環境におけるコマースなのだが、回答者のうち、メタバースで買い物ができるようになりたいと回答したのはわずか38%だった。
メタバースの最初の住民はゲーマー
調査会社フォレスター(Forrester)は、2021年11月の「消費者エネルギー指標&小売動向調査(Consumer Energy Index and Retail Pulse Survey)」のデータを利用し、米国と英国のオンライン成人消費者を4つのセグメント、「デジタル没入型」「デジタルセレブ型」「デジタル平民型」「デジタル隔離型」に分けた。
最初の2つのグループはオンライン成人消費者全体の47%を占め、フォレスターが最近発表した報告書「State of the Metaverse」(メタバースの現状)によると、メタバースの没入型体験やマルチプレイヤー型オンラインゲームに最も慣れている。また、デジタルの世界に没入していると回答したのは22%で、このグループが黎明期からメタバースに適応可能なタイプだ。
さらにその49%(回答者全体の11%)がVRヘッドセットを頻繁に利用している。このデータは、メタバースを想定してVRに特化したメタのビジョンが、今後の消費習慣と合致する可能性を示唆している。
ゲーマーは仮想空間には慣れているが、依然としてWeb3.0テクノロジーには慎重
Web3.0分野やゲーミング分野の企業はメタバースビルダーになろうと張りあい、ゲーム開発会社のなかには、Web3.0とゲーミングを組み合わせて、遊んで稼ぐゲーム(要はブロックチェーン技術やNFT技術が組み合わさったゲームだ)を作ろうとしているところもある。
しかし、ゲームにNFTが入り込んでいると違和感を覚えるゲーマーは多い。オンラインコミュニティプラットフォームのファンドムスポット(FandomSpot)が実施した3月の調査では、69%がそう回答している。NFTを毛嫌いする69%のうち、NFTが何なのかをしっかりと理解していると答えたのはわずか12%だ。つまり、こうしたテクノロジーの知識が広がるにつれて、気が変わる可能性もある。
とはいえこのところ、ユービーアイソフト(Ubisoft)など大手ゲーム開発会社がNFTに関心を示すたびに、多くのゲーマーが激しい嫌悪感を示している現実を決して否定することはできない。NFTを巡り、ゲーミングの世界が険悪な雰囲気になっていることを考えると、仮想空間への参入を検討しているブランドは、Web3.0の可能性を模索するよりもメタバースならではのゲーミングに乗り出せば、世間の悪評を避けられるかもしれない。
[原文:In Graphic Detail: How do consumers really feel about the metaverse?]
Alexander Lee(翻訳:SI Japan、編集:黒田千聖)