おにぎり一個はだいたい150kcal~200kcal。サンドイッチは種類によってカロリーにかなり差があり、菓子パンは目を疑うほど高カロリー。
コンビニなどでカロリー表示が広まるうち、何となく覚えてしまった。何しろ私も血眼のダイエッターである。
摂取する食品のカロリー情報はよく知ってるけど、消費するカロリーの方はそういえば気にしてなかった。例えば、寝てるときってどれぐらいカロリー使ってるんだろう?
本気で測ってもらってきました! 国立健康・栄養研究所に一泊して!
※2005年8月に掲載された記事を、AIにより画像を拡大して加筆修正のうえ再掲載しました。研究内容や記載されてる取材内容は当時のものです。
研究所の「部屋」に一泊する
「測ってもらってきました!」と叫んで始まった今回だが、実際は、健康・栄養研究所で行われる測定実験に参加させてもらったのだった。
こちらでは人間が日常生活においてどれほどのエネルギーを使用しているか調査をしているそうで、その被験者募集に応募したのだ。
なんでも「ヒューマンカロリメーター」という設備で測定するのだという。「ヒューマンカロリメーター」は別名「24時間代謝測定室」。測定室、である。
そう、部屋なのだ。
今回の測定内容は、その部屋に一泊して睡眠時に消費したエネルギーの量を測定するというもの。
研究に参加! ヒューマンカロリメーターなる未知の部屋! そして、その部屋に一泊! このワクワク感だけで測定参加日の3日前から気分は前のめりだった。
楽しみだ。楽しみすぎる。
現場でさらに期待倍増
やって来たのは厚生労働省 戸山研究庁舎所。目指す研究室は、この舎所に入っている。なお、来てみて知ったのだが、舎所には国立感染症研究所も同居していた。
厚生労働省である。国立である。感染症研究所である。どすん、どすん、どすんと畳みかける異世界感。いいのか、私がこんなとこ入らせてもらっちゃっても。
寝る部屋ってのは?
静かに、しかし確実に上がりゆくテンションを感じながら研究室にやってきた。見回すとパソコンやら何か分からない機械やら体重計、身長計などが目に付く。今日泊まるその「ヒューマンカロリメーター」というのはどれのことなんだろう?
奥に密閉できるような厳重な扉があるが、まさかこれのことなのだろうか。見ると……確かにドアの上に「human calorie meter」の文字が。こ、こなのか。扉を開けてみると、かくして本当にそこに部屋はあった。おおお。
部屋に泊まる、その前に
ヒューマンカロリメーター内部のちょっと独自の個室っぷりに驚かされたが、すぐにここへ入室するわけではない。
まずは、今回の測定をもとに研究をしてられる田中茂穂先生に測定の概要をお聞きした。
こちらでは肥満や生活習慣病の予防や治療をするにあたって、エネルギー消費量を知ることは非常に重要と考えこの研究をしているのだそう。ダイエット目的で情報が知りたくて気軽に参加した私もそう聞いて気がひきしまる。
そもそも、エネルギーの消費量を確かめるのは非常に非常にそりゃもう難しいのだそうだ。確かに普通に考えても、どの程度体がエネルギーを消費しているのか、それをどうやって数字にして表せばいいのか検討もつかない。
測定のしくみとは
例の部屋、ヒューマンカロリメーターはそんな難しい日常のエネルギー消費量をかなり高精度で測定できるそうだ。
室内の酸素濃度、二酸化炭素濃度を正確に測れるようになっており、室内の人間がどれだけ酸素を消費し、二酸化炭素を産生しているかでエネルギーの消費量をはじきだす。
だいたい酸素1リットルの消費で約5キロカロリーが消費されているそうだ。しかも、その際の二酸化炭素の産生量とのバランスで、なんと、そのカロリー源が脂肪なのか、糖なのか、たんぱく質なのかまで分かるらしい。
よく「脂肪を燃やす」なんていうが、つまり、どんな運動、またタイミングで脂肪が燃えるかもこの装置を使えば分かるわけである。すごい!
いつになく固めの文が続いておりますが、それだけ古賀がマジで感動しているということを感じていただければ幸いです。
さらに入室前の準備測定が続く
既往症のアンケートや身体測定が終了すると、今度はマスクを付けて座った状態と立った状態での息を採取する。周りの空気の酸素濃度、二酸化炭素濃度と、はいた息のそれを比べるわけだ。
これでまずは安静時のエネルギー消費を確実にチェックする。絶対に空気が漏れないようにチェックしてマスクを装着。「クホークホー」という音がする。思わぬところでダースベイダー気分に。
それが終わると、いよいよ例の個室に入室です!
室内での12時間10分、はじまる
すべての準備が整い、いよいよヒューマンカロリメーター内部へ。酸素と二酸化炭素の濃度を測定するため、内部は厳重に密閉(空気は毎分60リットルが自動で入れ替えられる)される。タッパーのように開閉されるドアが別世界への入り口っぽい。わくわく。
在室は18:50から翌日の8:00。その間の「日常生活」をここで行う。
今回の調査は睡眠時の代謝量の測定をメインにしているため室内の滞在時間は12時間10分だったが、以前は37時間(!)滞在しての測定も行っていたそうだ。
日常生活と同じように生活するため、朝と夕方は室内のランニングマシンやエアロバイクで運動してもらい(通勤や通学を想定)、夜には室内を清掃する時間もつくって測定したそう。
私の場合は何か行動をするたびに行動記録をつける以外、在室中は基本的に自由だった。ごろ寝して持ってきた本を読んだり、(完全に寝るのは決められた就寝時間までNG)備え付けのテレビを観たりできる。
カーテンを開けると外の研究室にすぐつながっているわけだが、不思議とリラックスできた。
晩ご飯も出ます
「日常生活」を行うということは、そう。ご飯が出るんです。
個室には、内部の空気が漏れないように物品のやりとりができる取り出し口が備え付けてあり、食事の出し入れはそこから行った。
2重構造で、2重になっている小窓の間に食事が置けるようになている。まず、外側から食事を入れて、隣の窓から「どうぞ」の合図をうけ、こちらの扉を開けて取り出す。
食べ終わった食器を返却するとき逆の手順。これで最低限しか空気が漏れないという仕組みだ。
プラスチックの容器がいかにも“実験参加中”という感じのこのご飯。味付けは美味しいんだけど、とにかく薄味。薄味好きの私としては美味しくちょうだいしました。
本来だとこれぐらいの味の薄さが理想なのだそうで、普段の自分の食事のしょっぱさを思ってやや恐ろしい気持ちに。
おやすみなさい
基本的に室内では自由、と書いたが就寝時間と起床時間は決まっている。就寝は外部からの合図で照明を消して「眠れなくても眠る努力を」(測定実験参加のしおり参照)しなければならない。
私はといえば、何を疲れているのか知らないが、電気を消したとたんにパタンと寝られた。
夢も覚えていないほどぐっすり眠って翌日。先生からの内線電話で起床。妙なほどの健康優良児ぶりが恥ずかしいが、目覚めよくすぐ起きられた。室内でもどうかというほどリラックスしてるし、自分が思っている以上にどこでも生き延びていけるタイプなんじゃないか。妙な自信の芽生えとともに、先生の指示通りカーテンを開け、トイレをすませた。
あともう一息で終わりです
起きた後は、最後に「基礎代謝量」を調べるためにベッドに横になった状態で1時間すごす。
基礎代謝とは、人間が何もしない状態で使用しているエネルギーのこと。起床後の食事の影響のない状態で測ることで正確な数値が割り出せるのだそうだ。
最近は「基礎代謝の高いからだ」=「太りにくいからだ」として、脂肪を燃やすダイエット以上に基礎代謝を上げるダイエットが注目されており、私もその手の雑誌の記事なんかを熱心に読んでいるわけだが、その話題の基礎代謝がこれで分かるのだ。
ちなみに筋力をつけることで基礎代謝が上がるということが一般的にいわれているが、田中先生によると、筋肉量の差による消費エネルギーの増減は微量にとどまるという研究結果もあったりしてダイエット効果については「まだまだ研究の余地がある」部分なのだそう。へー! へー! へー!
そして退室
12時間10分の滞在時間はこれで終了。例の重い個室の扉をぱかーっと開けると、「おお、出たー!」という感動が。私は12時間だったけど、以前37時間の滞在実験を受けた人たちはその感動もひとしおだったんじゃないかと思う。
いや、何しろ貴重な体験をさせていただきました! 気になる結果は後日お知らせくださるということで、現在朝8:30。今日はこのまま会社に向かいます。
結果、出ました
しばらくたって、田中先生が検査の結果をメールで知らせてくださった。そこには基礎代謝量と睡眠時代謝量の検査結果が! 果たして私は寝てる間にどれだけカロリーを使っているのか 。
基礎代謝量 覚醒時において食事の影響をなくした、ほぼ最小のエネルギー。 起床後15分後~1時間後に寝ころがった例の検査結果ですな 。 |
1,133kcal/日 |
睡眠時代謝量 睡眠時間8時間の平均。食事の影響を若干含む。(食事の影響をうけると多少代謝は上がる) |
1,047kcal/日 |
睡眠時代謝量 睡眠時間中における、連続する3時間の最小値。生きていくのに必要なエネルギーにほぼ等しいはずだそう。 |
983kcal/日 |
ほほう……。と、ひげをなでてみるが、この結果はどうなんだろう。普通なんでしょうか?
先生によると、「日本人の食事摂取基準(2005年版)」に載っている20歳代女性の基礎代謝基準値よりは低い結果になっているものの、そもそもこの標準値が高すぎると再検討中であり、ほぼ標準的と考えられる、とのこと。
標準と聞いて、ホッとした一方、睡眠時(3時間)の方は性別や体型からみると約1,092kcal/日ぐらいあるのが普通で、私の結果はかなり低いらしい。つ、つまり寝ている間においては私は人よりカロリー消費してないってことのようだ。なーぬー。
まとめ
ちょっとショックを隠しきれない結果をうけつつも、貴重な体験をさせていただきました。あのなんともいえない個室の感じ。単純に「変わった場所にお泊まり」って楽しい。
なお、こちらでは身体活動量をきちんと測る方法(加速度計によって動作の種類や強さを評価する方法など)や 食生活の内容が変化した時、例えば食事構成(糖質、脂質、たんぱく質など)が変わった時に生ずるエネルギー代謝の変動などについても研究を進めつつあるそう。いわゆる低インシュリンダイエットよりも科学的で効果的なダイエット食が見つかったりする日も近いのだろうか。ダイエットうんぬん以前に未来の栄養食に興味津々です。
取材のご協力ありがとうございました
独立行政法人 国立健康・栄養研究所
https://www.nibiohn.go.jp/eiken/