雇用行動、従業員の福利厚生、会社としての多様性は、いわゆる大退職時代のいま、エージェンシーやマーケティング企業も注視している。広告業界から、いや米実業界全体から才能が流出していくなか、企業勢は2021年、仕事の将来図について再考を余儀なくされた。
多くのエージェンシーが人材を引き付け、維持するべく、企業方針の必須要件のひとつに有給育児休暇を加えた。また、ダイバーシティの実践を証明するため、有色人種をより多く採用し、DE&I部門に配属したところもあった。
仕事の未来図が明確になるなか、クリエイティブエージェンシーであるR/GAのグローバルCMOで、社会活動家のアシシュ・パラシャール氏は、エージェンシーが人材を確保し、維持したいのであれば、従業員が自分らしさを発揮できるようにしなければならないと述べた。「これは数字的な目標ではない。我々には個人として、それがどのようなものであれ著しく権利を奪われている人々を擁護するために、各々の特権を行使する責任がある」。
Advertisement
パラシャール氏は元受刑者であり、企業およびクリエイティブコミュニケーションからR/GAのグローバルCMOに至る15年のキャリアは、そうした過去があるにもかかわらず、自分にチャンスをくれた雇用者たちのおかげだと語る。いわゆる恩送りとして、パラシャール氏はR/GAでインクルーシブな雇用とアクティビズムに積極的に取り組んでいる。
現在、R/GAは全米各州で過去を白紙に戻す、クリーンスレート(Clean Slate)の姿勢を実践するキャンペーンに取り組んでいる。DIGIDAYはこのたびパラシャール氏に取材し、広告業界におけるアクティビズム、セカンドチャンス(やり直しの機会)を与える雇用、そしてその両活動と仕事の未来との繋がりについて語ってもらった。
なお、わかりやすさを考慮し、発言には少々編集を加えてある。
◆ ◆ ◆
――あなたは、ご自身の過去をきっかけにアクティビズムや政治に関わるようになった。つまり、CMOに至る一般的な道を通ってきていないが、その経験が現在の活動に及ぼす影響とは?
私は当時、副大統領だったバイデン陣営の選挙活動を終え、ピュブリシス(Publicis)でのフルタイムの仕事に戻ったところだった。この業界にはまだ1年と少々しかいなかった。政治畑の選挙運動絡みの仕事しかしたことがなくて、ジャーナリズムに係わるのは初めてだった。そんな私にR/GAの幹部のひとりが連絡をくれて、CMOの席に空きがあると言って、CEOに紹介してくれた。私はこの業界について、またこの業界にとどまるべきかどうか悩んでいた。でも彼らはきちんと実行してくれて、それで私も仲間に加わることにした。人々のことをちゃんと気にかけてくれる場所が私には必要だった。少なくとも、私が入社するときに、そう言ってくる会社を必要としていた。
――それがあなたの運営方針に与える影響とは?
私はいわばプロのストーリーテラーだ。活動家であり、一般的なCMOではない。私はまったくもってマーケターではない。ただ、その活動家としての部分を、政治コミュニケーション的思考をマーケティング活動に活かして欲しいと言われている。私はマーケティングを報道的なものにした。ジャーナリストたちを雇用した。テック業界からコミュニケーションに精通する人々も、つまり政治的環境と同じ場所での動き方を心得ている人々も雇い入れた。弊社では、社内コミュニケーションをより人間的なものにしている。
――元受刑者として、あなたはこれまで社会活動に従事し、特にアクティビズムに熱心に取り組んできた。その背景と現在の仕事との結びつきは?
政治と宗教は職場にふさわしくないというのは、一昔前の世代の話だ。私はあなたが黒人や有色人種だろうと問題視しない。そのどちらも昔から常に職場に存在していたからだ。全員の夢が叶えられる環境を整えること、それがこの会社において私がするべき仕事のひとつだと考えている。私には罪を犯し、収監された過去がある。そんな私が幸いにもキャリアを築けたのは、誰かが私に機会をくれたからにほかならない。人生をより良いものにするためのそうした積極的な姿勢こそが、私が仕事を行なううえでの基盤であるし、それは私の行動主義に基づいている。
人々がこの世界でどのように扱われているのか、を私は特に重要視している。収監を経験した人々は往々にして冷遇されているからだ。そもそも彼らを罰するために作られたシステムのせいで、彼らがどんなでひどい経験をして育ってきたとしても、誰ひとり、そのような不当な扱いを受けずに済むようにすること。私の「活動」のコアはそこにある。
――クリーンスレート・アクト(Clean Slate Act)と「セカンドチャンス」採用について聞かせて欲しい。
我々の職場は開かれた雇用を信条としている。誰もが潜在力を有しているという事実を、我々のチームははっきりと認識している。多くの人々の人生は、彼らの手には及ばない物事によって大きく左右されている。つまり、組織的人種差別や警察によるハラスメント、そのほかの諸々によってだ。採用の判断はあくまでも、その応募者が何をもたらせられるのかを基準にするべきだ。これまで何をしてきたか、どんな賞を手にしてきたか、といったことだけで決めるべきではない。
――R/GAにおける仕事の、あなた個人にとっての重要性とは?
同僚である我々には必ずしも理解できない問題を抱えている人もいる。だからこそ、彼らがそれをくぐり抜けるための支援を組織が与えるようにすることが極めて重要だ。私は逮捕され、起訴され、有罪を言い渡された。しかしいま、私はこの職に就き、このオフィスでこうしてあなたと話をしている。私の人生は人々が支えてくれたおかげで一変し、恒久的な罰に苦しめられずに済んだ。多くの人々を失ったからこそ、パンデミックから学んだことは、我々は誰でも一からやり直せる、ということだ。
Kimeko McCoy(翻訳:SI Japan、編集:黒田千聖)