取説のイラストを14年描いているプロが、資料を見ずにイラストを描くとこうなる

デイリーポータルZ

右は見ないで描いた信号機の押しボタン。

私は取扱説明書のイラストを描くテクニカルイラストレーターをしています。
取扱説明書は命に関わるものなので、資料と実物をいっぱい見て触ってイラストを作成します。

しかしある日、魔がさして資料を見ないでイラストを描いてしまいました。
資料を見ないで描くと、どうなるか知ってもらおうと思います。

魔がさしたイラスト

こちらが資料を見ない・見て描いたイラストのサンプルです。
 

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伝わりはしますが、見ないで描いたウレタンのごまかし感がすごい。

これは、ベッドを解体したときに作成したウレタンスポンジのイラストです。

ベットの解体に精一杯で「こんなもんだろう」とウレタンスポンジを描きました。しかし、改めて実物を見たらだいぶ形が違い、自分の仕事の雑さに驚いて描き直しました。

仕事でも見ないで描いたものでもOKをもらえる場合があります。ウレタンスポンジがメインじゃなかったり、説明しない場合は細部まで描く必要がないのです。担当者にもよるんですけど…。

概要がわかったところで、いろいろ資料を見ないで描いてみます。どんどんやさぐれていく筆者にもご注目ください。

お題を募集する

資料を見ないでイラストを描こうと思いましたが、自分で描くものを決めるのは、無意識に描きやすいものを選んでしまいます。

DPZのライターからお題を募集しました。さすがいいセンスをしています。

信号の押しボタン

まずは、伊藤 健史さんのお題。信号機の押しボタンです。
資料を見ないで描いたものがこちら

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何も言うな。

なお、今回思ったよりイラスト作成に手こずったため、言い訳がましい文章になるのを先に謝っておきます。ごめんなさい。

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気がする…。で保つ心。

おかしい。毎日押しボタンを押して横断歩道を渡っているのに何も思い出せない。

次の日、押しボタンを見に行きました。

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・・・!?
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何も言うな(2回目)

フォルムは合っていますが、ディスプレイは1面ではなく2面だったり、ボタンはおもったより出っ張っていたりと全然違うものになっています。

「おっかしいな〜」と何度も独り言を言いながら描き直しました。

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資料を見て描いた押しボタン。くっきりと力強い。

戸惑いを隠せないですが、次に行きます。

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シーリングファンライト

次は鈴木さくらさんからのお題、シーリングファンライトです。うちにシーリングファンライトはないのでこちらは毎日確認できていません。資料無しで描いたものがこちら。

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お、シーリングファンライトではないでしょうか。

なぜこの形になったのか、言い訳を見ていきましょう。

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何か足りない。でもわからない。を繰り返した。

こちらは、見なくても描けるじゃん!やったー!と思っていました。ウキウキしながら写真をみます。

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あー。はいはいはい…(写真:ぱくたそさんより)
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合ってるけど、細かい部分が違う

90%くらい合っていると思います。しかし、羽に角度がついていなかったり、薄っぺらすぎる。製品によっては薄いものもあるのですが、薄すぎると感じました。

写真を見て、「空気をかき混ぜる役割があるのだから、羽に角度がつくのは当然だな…羽の角度か…ふうん。角度ね」と、腑に落ちました。
羽の枚数は3、4、5それ以上。など色々ありましたが今回は4枚で。

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羽に角度を足して描き直したのがこちら。(今回は仕様書や図面がないので羽根の角度や向きが確認できないので、こちらが限界)​​​​

「そんなに羽の角度を気にする?」と思うかもしれませんが、気にします。シーリングファンは、正回転と逆回転で空気の流れが違うからです。

資料を見ていれば機能を正確に把握でき、羽に角度をつけない。というミスは起きません。やだな。偉い人から怒られるやつじゃん。このミス。

資料を見ないで描くイラストのモヤモヤ感

サンプルも入れて3つイラストを見ていただきました。ここで、資料を見ないでイラストを描いた感想です。

資料を見ないので、作業時間が短くなりました。普段の仕事では、イラストに起こす対象物の写真を上下左右4枚、角度を変えて4枚ほど、あれば仕様書・図面を読み込んでイラストを作成するため、時間がかかるのです。

作業時間は減ったけど、細部がわからないので変にごまかしたり、適当に描いたり、もやもやして気持ち悪いです。

「早く正解を見せてくれ!」という気持ちから短くなる作業時間。

過去に描いたものでも、細部は覚えていないものです。今後、資料は絶対見る。手間を省略しない。と誓いました。

誓ったところで次は食べ物・動物のお題が届いたので見ていきましょう。

餃子

こちらもシーリングファンに続いて鈴木さくらさんのお題です。
食べ物は、イベントで無料配布するチラシによく描きます。食べ物は共通の話題になりやすいから。

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チラシに描いたイラストの例、カステラの食べ方。ここから会話が広がるので、食べ物は強い。

餃子?ヨユーじゃん。と思って資料をみないで描いた餃子がこちら。

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まぁまぁの餃子感。

ヨユーをぶちかまして描いた餃子ですが、1時間半くらい時間がかかっています。それは、なぜでしょうか。言い訳をお聞きください。

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焼き目が上手く描けませんでした。

餃子の全体の形はわかるものの、焼き目の再現がすごく難しかったです。頭の中で焼き目が見えるんです。でも、それをIllustratorでどうやって再現するかわかりませんでした。

普段は機械や雑貨を描いているので、焼き目を表現することはありません。たまに描くのは、煙が出たときは。などのQ&Aのイラストでしょうか。

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こういうやつ。焦げは、ガウス(ぼかし)効果で表現しているよ。

資料を見ながら描けば「ここはこの効果を使えばいいな」と、技術的なことも見えるのですが、資料無しだとそれも見えません。歯痒くてイライラしてきました。デフォルメされた餃子を描いたのは、「これなら描けるけど?」という精一杯の強がりです。

それでは資料を見てみましょう。

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王将の餃子
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資料無しの餃子、ミカヅキモに見えてきた。​​​​

資料無しの餃子がプランクトンに見えてしまったので、資料を見て描いた餃子を早急にご覧ください。

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食べ物はカラーのほうがわかりやすい。

焼きの表現に力を入れたのですが、焦げの表現は初めて描くので難しく、研究が必要です。

でも、カラーにしたところでやっぱりなんらかの生物に見えてしまいますね。餃子って難しい…。だからみんなデフォルメするのか!

最後は動物です。

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ナマケモノ

最後はつりばんど岡村さんのお題、ナマケモノです。私は取扱説明書のイラスト(主に機械や雑貨)を描く仕事なので、動物は専門外でございます。

資料無しのナマケモノはこちら。

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何も言わないで欲しい(3回目)「ナマケモノ」と書くのはズルではないか。

漫画・アニメ寄りのナマケモノです。
以下、説明です。

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最後に八つ当たりしてしまってごめんなさい。(一応、Illustratorで清書してあります)

そうです。テクニカルイラストレーターは、イラストレーターとついていますが、みんながみんなイラストが上手いわけではありません。

私が特に得意なのは、機械や雑貨の展開図です。機械や雑貨を見たら、『これをどうやって展開・配置させようかな!』と想像し、ワクワクしてしまいます。動物は展開できないですからね……。描けなくて当然(開き直り)

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全然できないIKEA建設予定地をジオラマにするから引用

少し話がそれましたが、私は初見で上手く描けるセンス型ではなく、何度も見て描いてどうにか形にする努力型です。今回も何度かナマケモノを描いたのですが、資料がないので何度描いてもアレが限界でした。

それでは、本物のナマケモノをご覧いただきましょう。(パンダっぽい目のナマケモノもいたのですが、資料が集まらずパンダ目ではないナマケモノになります)

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かわいいね?!(写真ACさんより)

ナマケモノってこんなにかわいいのか?!と思いながら描いたのがこちらです。

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心折れました。

この可愛さは表現できない。と心折れて、下書きで終了してしまいました。(仕事のイラストではこのあとillustratorで清書していきます)

ナマケモノファンのみなさん、ごめんなさい。

資料を見るのはずるくない

定期的に話題にのぼる、「資料を見て描くのはずるいのでは?」議論。私はずるくないと思います。物の形状がわからないと、機能の説明もできないし、細かい部分をごまかして描いて絵がぼやけてしまうからです。

何より、描いている自分がイライラしたり、ここはこれであってるの?と弱気になったり精神的に良くないこともわかりました。

だけど、見ても描けない場合もあります(ナマケモノ)。そういうときは、プロに頼んじゃおう!

 

 

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