どぅまんぎるとマブイが落ちる(デジタルリマスター)

デイリーポータルZ

沖縄取材の前日の晩、枕元に置いて寝た荷物を見事に忘れてきた。最近そういううっかりミスが本当に多い、そういえば取材中にタクシーの中で5,000円落とした。

これはマブイが落ちているに違いないのだ。

2008年6月に掲載された記事を、AIにより画像を拡大して加筆修正のうえ再掲載しました。

「マブイ」とは

まず最初に「マブイ」とは何か。僕の地元では、「イカした」とか「かっこいい」という意味で「マブい」と使っていたものだが、沖縄での「マブイ」というのは一転、「魂」を意味する。「マブイ=たましい」なのだ。さらにこの「マブイ」、びっくりすると体から抜けて落ちてしまうのだ。マブイが落ちた状態とはすなわち魂が抜けているということなので、うっかりミスを連発すると言われている。

前述の通り、僕は普段からうっかりミスが多い。これは沖縄に住んでいた時にマブイを落としてしまったためではなかろうか。そんな心配をしていた矢先、「ちょっと見てきて」に「マブイを落としてきた島」という投稿を頂いた。これは僕のマブイを拾う手がかりになるかもしれないぞ。雨の降りしきる中、マブイ探しに浜比嘉島へと渡った。

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朝から大雨でした。

浜比嘉島は沖縄本島東部に位置する橋で渡ることのできる離島だ。主に漁業が中心の人口500人くらいの素朴な島。この島でマブイを落としてしまったという読者の方から投稿をいただいた。 

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浜比嘉島の図。
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みどころはほら穴。

そもそもマブイというのはどこで落ちるのか。沖縄の友人に質問してみた。そのときいただいた回答がこれだ

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ぜんぜんわかんねえ。

「マブイはどぅまんぎたら落ちます」

どぅ、どぅ、どぅまんぎる?彼いわくマブイはどぅまんぎると落ちるらしいのだが、そもそも「どぅまんぎる」がわからない。果たして浜比嘉島は「どぅまんぎ」ているのか。謎が謎を呼ぶ企画みたいになってきたが大丈夫だろうか。

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橋を渡ると浜比嘉島だ。

浜比嘉島は実は僕も一度行ったことがある。そのときは個人宅を取材目的で訪ねたのだが、企画の趣旨を説明している最中に「だめだ」と言われて帰されてしまった。沖縄の離島というのは観光客が押し寄せる那覇とかとは違い、守ってきた静かな生活を乱すかもしれないものに厳しいのだ。あのときは大好きな沖縄からはじかれたような気分になりひどく落ち込んだものだ。

そんな浜比嘉島で投稿主はいったいなぜマブイを落としたのか。やっぱり「どぅまんぎた」のか。取材を断られたあのときも僕は「どぅまんぎて」いたのか、だとしたら僕のマブイもこの島に落ちているのかもしれない。

そもそもよくわかっていない「どぅまんぎる」に頭のなかを支配されたまま、車は島の奥へ奥へと進んでいく。

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ほぼ一本道です。

頂いた投稿からするとマブイを落とした浜というのはこのあたりのはずだ。不安と期待が入り混じる。「マブイ」と「どぅまんぎる」の謎は解けるのだろうか。遠くで野犬が鳴いている声がする。

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投稿を頼りに海へと向かいます。

防波堤を越えると一気に視界が開けた。それと共に目の前にすごく大きな質量を感じる。岩が、岩がでかいのだ。それもただでかいだけでなく、重いのだ。実際に重いかどうかなんてもちろんわからないわけだが、なによりその存在自体が果てしなく質量感を放つ岩石。そんなのがそこここにごろごろと横たわっていた。

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岩だ!

もしも「どぅまんぎる」が「肝を抜かれる」みたいな意味だとしたら、ここにはたくさんの人のマブイが落ちていることだろう。たぶん今僕も落とした。

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でかい。
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とにかく岩がでかい。しかもどれも不安定。

マブイを探して岩場を歩くと、海岸の水際には線香が供えられ、神事が行われた形跡が残されていた。僕の感じた岩の存在感の中には、そういう「魂」で感じる重みみたいなものが混じっていたのかもしれない。地元の人たちはここに神の存在を感じ手を合わせているのだろう。あまり深入りせずに遠くから写真を撮らせてもらって帰ることにした。

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この世の果て的な光景ではあります。

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