露の核発言 日本は冷静な対応を – 岡田克也

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 プーチン大統領が「核抑止部隊に特別警戒を命令する」と発言したことが報じられ、それをきっかけに日本国内でも様々な議論がなされています。私は、プーチン発言は西側諸国の決定した厳しい制裁措置に対する対抗・威嚇発言で、ロシアに対するこれ以上の制裁をやめろという警告だと受け取りました。文脈から言って、ウクライナで核兵器を使うとの趣旨ではないことは明らかであると思います。もちろん今後更に追い込まれることになれば、精神の安定を欠いたプーチン大統領が何をするか、あらゆる可能性を排除することはできませんが、今回のプーチン発言については、もう少し冷静に対応すべきです。

 プーチン発言に関連して、ウクライナはソ連邦崩壊時に核兵器を手離したために、いま核の脅しを受けているとの発言がありますが、これは二重の意味で見当違いです。先に述べたように、プーチン発言はウクライナに脅しをかけているのではありませんし、そもそもソ連邦時代に、その一部であったウクライナに配備された核兵器は、ソ連邦(=モスクワ)のものであり、ウクライナが自分の意思で運用できるものではなかったはずです。ウクライナの核が混乱期に第三国に流出しないよう、ロシアに移管することを米国も合意したのであって、独立したウクライナが核兵器を運用することは、能力的にもあり得なかったはずです。

 核シェアリングについて、安倍元総理が言及し、今週のフジテレビが再度取り上げていました。維新の会も政府に議論を求める提言を行ったと伝えられています。核シェアリングは日本国内に核兵器を保有、又は安定的に持ち込むことが前提で、非核三原則に明らかに反するものです。議論することは認めるべきとの指摘もありますが、いま政治家にとって大切なことは、核の脅しを行っているプーチン大統領を厳しく批判することであって、プーチン発言に刺激され、同じ土俵で軽率に議論することではないと思います。

 私の外相時代の緊急時における核搭載艦の一時寄港に関する発言を、高市自民党政調会長が取り上げました。私の発言は「緊急事態が発生して、かつ核搭載艦の一時寄港を認めないと、日本の安全が守れないというような事態が発生したときは、そのときの政権が命運をかけて寄港を認めるか否かを決断し、その決断について国民に説明すべき」というものでした。

この問題の説明は、私の著書「外交をひらく」(岩波書店)の95頁以下に詳しく書いておきましたが、当時考え抜いた結果の結論であり、外相としての職責をかけた発言でした。今でもその考えは全く変わっていません。しかしこれも落ち着いた環境の下で、冷静に、かつ深い議論を行うべきであり、ウクライナ問題が一定の着地点に落ち着いた後で、国会で議論すべきことだと思っています。