民主主義は大部分の国ではつい最近のことに過ぎないというのがよく分かる世界地図

GIGAZINE
2022年02月26日 19時00分
メモ



民主国家に生まれ、生きる人々にとって、権威主義ははるか昔のことのように思えるかもしれないと指摘するのは、ハイデルベルク大学で政治学や経済学を研究するバスティアン・エレー氏。「多くの場合民主主義は権威主義より若いものである」として、政治体制の歴史について解説しています。

In most countries, democracy is a recent achievement. Dictatorship is far from a distant memory – Our World in Data
https://ourworldindata.org/democracies-age

The ‘Regimes of the World’ data: how do researchers identify which countries are democracies? – Our World in Data
https://ourworldindata.org/regimes-of-the-world-data

エレー氏いわく、どの国が民主主義であるかを確定させるのには多くの課題が伴うとのこと。民主主義の定義や、実際の政治体制がその定義にいかに寄せられているかについては多数の意見があり、あらゆる評価がある程度主観的であるとエレー氏は指摘。

このことを踏まえ、今回エレー氏は毎年何千人もの専門家が回答する大規模な調査「V-Dem」、およびV-Demを基に設計された「(PDFファイル)RoW分類法」を用い、その中で民主主義と定義されている「選挙民主主義」と「自由民主主義」という2つの区分をピックアップして解説しています。RoW分類法において選挙民主主義は「市民は意味のある、自由で公正な、複数政党制の選挙に参加する権利を持っていること」と定義され、自由民主主義は選挙民主主義の要素に加え「市民は個人とマイノリティの権利を持ち、法の下で平等であり、行政の行動は立法府と裁判所によって制約されていること」と定義されています。

また、RoW分類法においては「市民は複数政​​党制の選挙を通じて政府の最高経営責任者または立法府のいずれかを選択する権利を持っていない」と定義される「閉鎖的権威主義」および「市民は複数政​​党制の選挙を通じて最高行政官と立法府を選択する権利を持っているが、結社の自由や表現の自由など、選挙を意味のある、自由で公正なものにする自由が欠けている」と定義される「選挙権威主義」という区分も存在しますが、これらは民主主義としては定義されません。

RoW分類法に基づいて色分けされた世界地図が以下。赤色が閉鎖的権威主義、オレンジ色が選挙権威主義、水色が選挙民主主義、青色が自由民主主義を示しています。また、下部のスライダーを動かすと基準となる年を変更できます。日本やアメリカ、イギリスなどは自由民主主義、中国やソマリア、サウジアラビアなどは閉鎖的権威主義と区分されています。

また、RoW分類法に基づいて色分けされた、選挙民主主義がどの時代から続いていたのかを示す世界地図が以下です。1789年から2020年までのデータが示されており、色ごとに「選挙民主主義が何年続いているのか」が分かるようになっています。例えば、2020年において91年~172年間選挙民主主義であると区分される国家にはアメリカやイギリスが該当します。

選挙民主主義国家がどれだけ続いているのかを表すグラフが以下。2020年時点で、91年以上続いている国はたった10カ国、61年~90年間続いている国も13カ国だけであることが分かります。このことから、エレー氏は「大抵の国で民主主義は1世代分も経過しておらず、多くの国、多くの国民が権威主義を経験していたことが分かります。特に高齢者は人生の大部分で民主主義を経験していません」と述べました。

また、自由民主主義に絞って表示した世界地図が以下のもの。2020年時点で91年以上自由民主主義が続いている国は、イギリスやスイス、オーストラリアなど、非常に限られた数しか該当しません。

これをグラフにしたのが以下で、そもそも2020年時点で自由民主主義と区分される国家はわずか32カ国しか存在しないことも分かります。

RoW分類法は選挙の自由に加え表現・結社の自由も考慮されましたが、選挙の自由のみに絞った「BMR分類法」も存在します。これに基づき示された、2020年における選挙民主主義国家を色分けした地図が以下。おおむねRoW分類法と同様の結果が示されていますが、RoW分類法では2019年以降は選挙権威主義であると区分されるインドが選挙民主主義と区分されるなど、わずかに違いがあります。

また、BMR分類法に基づく選挙民主主義国家の数を表したグラフが以下です。RoW分類法では、民主主義であると区分されたのは対象となった179カ国のうち92カ国でしたが、BMR分類法で民主主義と区分されたのは対象となった193カ国のうち118カ国です。

RoW分類法では選挙および表現・結社の自由に焦点を当てており、社会的および経済的資源が均等に分配されるような平等主義など、ほかの社会システムは考慮していないとのこと。また、4つのいずれかに分けるために各国の政治制度の微妙な違いなども考慮されていないことがエレー氏により明記されています。

このことを踏まえ、エレー氏は「これらの欠点にもかかわらず、民主的な政治的利権がどれほど広く保持されているのかについて多くを教えてくれます。選挙民主主義および自由民主主義という政治的権利はどの国でも比較的最近確立されたもの。若者が民主主義国家に生まれたと感じていても、その感覚は少数派である場合があります。権威主義が遠い昔のことのように感じても、高齢者はまだそのことを覚えている可能性があるのです」と述べました。

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