東京夏季五輪大会の時もそうだったが、北京冬季五輪大会開会式をオーストリア国営放送の中継放送で観た。冬季五輪には約3000人のアスリートたちが参加、16日間、109競技で争う。この期間中、日本人選手とオーストリア選手の活躍を中心にフォローしたいと思っている。
2時間弱の開会式の総演出は世界的に有名な映画監督の張芸謀(チャン・イーモウ)氏が指揮を振るった。氷と光が繰り広げる素晴らしい演出だった。ただ、開会式の最後、最終聖火走者の1人にウイグル人の女性ジニゲル・イラムジャン選手が登場したのは中国共産党政権が考えた演出だったのだろう。「見て下さい、ウイグル人は欧米メディアにいわれるように弾圧されていませよ」といったメッセージを世界に発信する狙いがあったことは誰の目にも明らかだ。
問題は、それで「少数民族ウィグル人への中国当局の同化政策はフェイクニュースだった」と考える人は少ないことだ。むしろ、最終聖火走者にウイグル人女性を登用させてまでウイグル人弾圧という情報を否定したいところをみると、ウイグル人への“ジェノサイド”はやはり本当だろう、と多くの人々は考えるのではないか。中国共産党指導者と大多数の人民との間には認識にズレがあるのだ。典型的なパーセプションギャップだ。
当方が住むオーストリアはノルウエーと共にウィンタースポーツのメッカだ。今回は106人の代表団が派遣された。残念なのは、女子スキージャンプで金メダル最有力候補者だったマリク・クラマー選手が北京に向かう直前、コロナ感染が判明して、五輪に参加できなくなったことだ。
W杯で6勝している彼女は北京五輪でも当然金メダルの有力候補者だった。コロナ感染で陽性となったことが分かると、彼女は泣いた。インスタグラムで「世界は不公平だ!」と思いをぶちまけて嘆いたという。クラマー選手のライバル、高梨沙羅選手は4日、「彼女のことを考えると苦しい」と同情していた。
オーストリア・チームには朗報が届いた。ノルディックスキー女子距離複合(15キロ)でテレサ・シュタドローバー選手(Teresa Stadlober)が5日、銅メダルを獲得した。オーストリアのメダル第1号だ。彼女の場合、4年前の平昌冬季五輪大会でゴール直前まで銀メダルコースを走っていたが、何を考えたのかコースを間違えて別のコースに入ってしまったためメダルのチャンスが吹っ飛んでしまった、という苦い体験がある。4年後、その無念を見事に払ったわけだ。そして6日、スキージャンプ男子ノーマルヒルでマヌエル・フェットナー選手が銀メダルを獲得した。
ところで、オーストリア代表紙プレッセ4日は、北京冬季五輪大会を「巨大なプロパガンダのショーだ」と書いていた。国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長は4日の開会式ではいつものように美辞麗句を並べ、「中国は今回、ウィンタースポーツの国となった」と称賛していた。中国に13億人のウィンタースポーツファンが生まれるというのだ。中国は昨年11月から400台の人工降雪機を動員し、13億リットルの水を利用して競技場に人工雪を敷いた。環境保護グループは、「冬季五輪を開催する為に自然が破壊された」と批判していた。口の悪い欧州メディアは北京冬季五輪を「フェイク・ウィンター大会」と呼んでいる。
主要な欧米諸国の首脳陣たちは北京冬季五輪大会の開幕式参加をボイコットした。ウイグル人やチベット人への激しい人権蹂躙に抗議する目的だ。それに対し、中国側は「スポーツを政治化している」と反論した。オーストリア国営放送のヨーゼフ・ドリンガー北京特派員は、「中国では全てが政治化されます。スポーツもそうです」と論評していた。スポーツを政治利用しているのは中国共産党政権だろう。フリードリヒ・ニーチェの本のタイトルに真似ていえば、北京冬季五輪は「政治的な、あまりにも政治的な」イベントだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年2月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。