物価上昇の向かうところ

アゴラ 言論プラットフォーム

アメリカで今月、雇用統計より注目されたのが12日に発表になった消費者物価指数。物価上昇は一体どれぐらいなのか、戦々恐々としたのは株式市場でも同じで、先週後半ぐらいからそわそわし始め、発表前日である月曜日は総悲観でした。発表された物価は前年同月比8.5%上昇。事前予想が8.4%であったことを考えればほぼ当たりとみるのか、事前予想をも上回ったととるのかでは印象が大きく違います。

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価格変動の激しい食品とエネルギーを除いたコアは前年比6.5%上昇でこちらは予想を下回っていますが、スルーしています。予想を下回った最大の要因は中古自動車市場が値崩れをし、3.8%ダウンで2か月連続の下落となったためです。統計的には中古自動車価格は今後、正常化に向かい、下落を重ねるとみています。

では8.5%上昇を受けてFRBと市場はどう受け止めるのでしょうか? 個人的にはFRBはやや恣意的になっているように見えます。高いインフレ率は国民の反発を買いやすく、政治的には最悪の状況です。フランスの大統領選でマクロン氏が失速したのが一般消費物価の上昇であり、ルペン氏が大衆の味方をしたのはバイデン氏も当然、見ているでしょう。秋の中間選挙に向け、アメリカも必死にインフレの火を消さなければ民主党の芽は完全になくなります。

ブレイナードFRB副議長がハト派から急にタカ派に転じたのも「暗黙の政治的忖度」があったためではないか、と感じます。つまり、FRBとしてはインフレ退治に積極的であるという「姿勢」を見せることが大事で秋に向けて0.50%の利上げを2回以上する「パフォーマンス」は大いにあり得るとみています。

ただ、以前から私が指摘するように21年4月からインフレ兆候が顕著に出たこともあり、来月の消費者物価指数はこれほど上がらず、ざっくり6%台で収まるのではないかとみています。

一方、投資家の方は戦々恐々です。バンクオブアメリカが行ったファンドマネージャー292人への調査では今後、景気悪化、スタグフレーションになると見込む人が2008年以来最大となっていることが判明しています。(以上ブルームバーグより)つまり、株式市場には厳しい状態が来るという訳です。ただ、私はまだら模様の天候で一時的要因が強いとみています。つまり、下がっても直ぐに持ち直す期待感はまだあります。

さて、この物価高。落ち着いて考えると原油と資源高、食糧高がキーコンポーネントですが、原油や天然ガスの価格上昇はバイデン氏が自分で作り上げたものです。つまり、ロシア産原油やガスの締め上げです。制裁を発するのは簡単ですが、世界生産余力はそんなにないのです。ある意味、物価や世界経済という観点からは無謀で「ウクライナのために痛み分けを」という声がどこまで通じるのか、懐疑的になりそうです。

次に海運が暗雲となっています。理由はロシアと中国のトラブルで荷捌きが出来ないためです。ただ、中国についてはいずれ最悪期を抜け出すとみています。これは中国のコロナ「無菌状態」政策が変わりそうな気配だからです。一定数の感染はその拡大リスクのコントロールをすることで経済とのバランスをとる方針になりそうであり、そうなれば物流が戻ります。そりゃそうです。習近平氏も大事な3期目の決定がかかっています。ちなみに感染が酷かった韓国も急速に収まっており、文大統領が退任する頃には正常化になるかもしれません。

但し、中国経済の正常化は原油価格は上昇しやすいバイアスがかかります。バイデン氏がインドのモティ首相にロシアの原油を買うな、と言ったのも当然、原油価格上昇要因になります。

ただ悪い話ばかりでもありません。例えば自動車業界においてはEVの普及を大きく後押しする可能性はあり、産業の地殻変動が起きるとみています。どの業界も人材不足が顕著になっていますが、ロボット化、自動化の波は更に進むでしょう。飲食店ではフルサービス店と簡易サービス、セルフサービスの三極になるのはほぼ確実です。簡易サービスの場合、サーバーはテーブルに接客に来ず、客がQRコードでメニューを読み取り、スマホで注文をし、お運びと片付けだけはスタッフが行い、支払いも自分のスマホで行う形が普及するとみています。そうなればチップの額も下げられるかもしれません。

世の中が厳しい状態になれば人々はそれを乗り越えるための知恵を出します。そしてそれが新たな常識になるのはコロナ禍のオンラインミーティングや在宅勤務という大変革の経験でもお分かりのとおりです。2020年代は以前から大きな変化が来ると申し上げていました。安定するまでまだまだ時間がかかりそうですし、3年後、5年後の世の中の常識すら読めない荒波にもまれているというのが私たちの今日であるともいえそうです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年4月13日の記事より転載させていただきました。

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