ライフハッカー[日本版]2022年1月12日掲載の記事より転載
テスラの最高経営責任者(CEO)イーロン・マスク氏は2021年11月末、従業員に宛てたメールで、2021年第4四半期の輸送費と配送費を削減するべく、納車急送費や残業代、臨時契約社員の採用などによってコストがかさむ事態を避けるよう指示を出しました。
また、四半期末に向けて従業員に死に物狂いで働いてほしいとは思っておらず、たとえ今四半期に納車が増えたとしても、翌四半期にはその数が急減することになるだけだと述べています。
四半期末に例のごとく駆け込みで納車を急ぎ、直後の四半期で納車数が急減することのないよう、仕事を急がずに安定した生産体制を整えてほしいというのが、マスク氏の従業員に対する指示だったわけです。
イーロン・マスク流「高パフォーマンスを実現させる秘訣」
高いパフォーマンスを実現させることにかけては名手であるマスク氏の天才的な手腕が、ここでも発揮されています。
マスク氏は、安定して管理しやすい生産工程を確立するようにと、従業員に求めているだけではありません。
仕事のスピードを落として業務を減らすよう声をかけ、従業員のプレッシャーを見事に取り除くことまでやってのけているのです。
ご覧の通り、マスク氏はどういうわけか、超人さながら難なく週120時間も働いてCEOの役目を果たす一方で、経営管理に対しては異なる姿勢で臨んでいます。
従業員の労働時間を増やせば、それに比例して職場の生産性も向上するわけではなく、むしろそれは逆効果であることを、マスク氏は理解しているのです。
マスク氏が実際にやろうとしているのは、テスラという職場の環境を適切に整え、生産性を向上させることです。そのために、従業員には気づかれない形で、心理的なブレインハックを活用しています。これは、誰もが使える手法です。
より多くのタスクをこなすシンプルなルール
生産性をうまくハックし、その向上を阻んでいる問題点を克服できる、驚くほど簡単な方法が1つあります。
ミニ瞑想をしたり、モットーを唱えたり、従来のようなインセンティブを提供したりする必要はありません。
より多くの仕事をやり遂げるコツとは、単純に仕事を減らすか、従業員への要求を減らすと決断することです。
そう、もっと多くの仕事をやり遂げたければ、仕事を減らすと決断すればいいだけなのです。そうすれば、何もかもを片付けようと必死になった場合より、実質的により多くの仕事を完了することになります。
これを「85%ルール」と言います。仕事の85%に専念したほうがもっと捗り、多くの場合は100%以上のアウトプットが達成されるというものです。
他人や自分自身への要求を減らせば、期待値が下がります。それに伴って、生産性の足を引っ張るプレッシャーも軽くなるでしょう。
それよりも重要な点として、仕事がやりやすいという認識が生まれます。「やりやすいな」と確信できれば、もっとラクに仕事をこなせるようになります。
この傾向は、仕事からスポーツまで、多くのことに当てはまります。たとえば、コーチがトップランナーに「軽く走れ」と指示を出したところ、大半の選手が全力で走ることを期待されたレースを上回る結果を出したことが、研究で明らかになっているのです。
プレッシャーは必ずしも大きな力を引き出すわけではない
プレッシャーがかかるとより大きな力を発揮する人はたくさんいます。けれども、プレッシャーをかけることが必ずしも、効率良く着実に仕事をこなしていくうえで一番役立つ手段というわけではありません。
確かに、時間的なプレッシャーを感じると驚くような実力を発揮する人はいるものです。けれども、締め切りや時間制限はさておき、プレッシャーは一般的に生産力を消耗させてしまうものであり、長期的な生産戦略としては効果的ではありません。
四半期末や年度末が迫ってくると、ついつい生産数や売上高にこだわってしまいがちです。しかし、あまりにも追い込みが強いと、やがてチームは燃え尽き、生産手段は疲弊し、次の四半期に入るころには数字がガタ落ちすることになります。
マスク氏が85%ルールを取り入れるという天才的な采配を振るうことで、テスラの生産性は実質的に向上しています。
そればかりか、テスラで働く労働者の幸福度もアップすることになるでしょう。オックスフォード大学の研究チームによると、従業員の幸福度が上れば上がるほど、生産性も上向くのだそうです。
これは結局のところ、長期的な成功戦略なのです。マスク氏は未来を常にしっかりと見据えて、幾度となく驚くようなことをやってのけています。業務を減らすよう従業員に指示を出すことにも、5万ドル(およそ550万円)の極小ハウスに住むこともまたそうです。
マスク氏は何事も、細部にまで徹底して注意を払ったうえで行動しています。その細部こそがテスラの未来なのです。
生産性を最大限まで引き上げられずに苦労するようなことがあったら、一呼吸おいて冷静になり、仕事の量を減らしてみましょう。エネルギーが少なければ、アウトプットが減り、プレッシャーも軽くなります。
そうすれば、あなたもチームも生産性が向上し、幸福度が上がっていくはずです。それに伴って、ビジネスもきっと上向いていくでしょう。
Source: CNBC, runners connect, UNIVERSITY OF OXFORD
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