予期せず妊娠した女性が病院にのみ身元を明かして出産する「内密出産」が2022年1月20日の衆院本会議で論戦のテーマになった。内密出産は、「こうのとりのゆりかご」(いわゆる「赤ちゃんポスト」)で知られる慈恵病院(熊本市)が19年に受け入れを表明。22年1月4日に国内初とみられる事例が公表された。
内密出産は、女性が孤立出産して母子の命がリスクにさらされることを防ぐ利点がある。子どもは一定の年齢に達した後に、希望すれば出自を知ることができる仕組みだ。ただ、法的なハードルもある。出生届は病院が提出することを想定しているが、医師が母親の名前を知りながら、匿名や仮名で提出すると刑法(公正証書原本不実記載罪)に抵触する可能性が指摘されているためだ。
国民民主党の玉木雄一郎代表は「仮に違法性の疑義があるなら、違法とならない条件を通達するか、法改正すべきではないのか」と問題提起したのに対し、岸田文雄首相は「刑法上の犯罪に当たるかどうかについては、捜査機関により収集された証拠に基づき個別に判断されるべき事柄」だと答弁。現時点では必ずしも議論はかみ合わなかった。
法整備求める熊本市長は「議員立法も含め、検討していただけるように要請」
慈恵病院は21年10月、10代女性が内密出産を希望していることを公表。熊本市に対応方針を問い合わせていたが、市は
「法令に抵触する可能性を否定することは困難」
だと返答していた。この女性は出産後に身元を明かして出生届を出す考えに転じたため、内密出産にはならなかった。病院は22年1月、別の10代女性が21年12月に出産し、すでに退院したことを公表。法的な位置づけがあいまいな状態での初の事例となる可能性がある。病院は1月13日には熊本地方法務局に対して、母親の氏名を空欄にして提出することが違法になるかを問う質問状を提出。2月中の回答を求めている。
法的リスクを指摘した熊本市は、法整備を求める立場だ。大西一史市長は21年12月20日の記者会見で、
「現場には日々切迫した状況にある妊婦さんがいらっしゃるという現実を踏まえると悠長にはしていられない」
と指摘している。厚労省に法整備を求めてきたが事態が進展しないため、
「議員立法も含め、検討していただけるように要請をしていくということになろうかと思う」
とも述べた。