法的に矛盾だらけの部活動指導 – PRESIDENT Online

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公立学校の教員の勤務時間外の業務についての裁判の判決が、さいたま地裁で出た。教育研究家の妹尾昌俊さんは「授業準備は1コマ5分しか認められず、業者テストの採点は認めるが小テストの採点は認めないなど一般には理解しがたい内容となっている。このような制度のままでは、教員志望者をさらに減らしてしまいかねない」という――。

授業準備は1コマ5分までが労働

教員が勤務時間外や休憩時間に行った業務は「労働」として認められるか。こう書くと、おそらく大勢の方は「私的なことならまだしも、仕事、業務として行ったならば労働だ、当たり前の話でしょ」と考えるだろう。しかし、驚くべきことに公立学校の教員の場合は違うのである。「自主的、自発的行為」として労働時間とはみなされていないのである。

手を挙げながら学童群の背面図※写真はイメージです – 写真=iStock.com/recep-bg

埼玉県の小学校の現役教員(田中まさおさん、仮名)がこの点を含めて訴えていた裁判の判決が去る2021年10月1日に出た。さいたま地方裁判所は、現在の法律は「教育現場の実情に適合していないのではないか」と付言したものの、原告の教員の訴えを退けたのだ。

この判決はTwitter等で物議を醸すことになった。時間外労働として認めた授業準備は「1コマ5分」というものだったし、時間外の保護者対応やプリントの採点、児童の作文の添削などは、労働時間として認定しなかったためだ。

主な労働時間と認めたもの、認めなかったもの

「給特法」で、公立学校の教員は残業代が支給されない

それはなぜなのか。公立学校の教員は特別な法律によって、残業代を支給しないことになっている。「給特法」と略称されることが多いが、正式には「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」という長い法律がそれだ。その分、給与月額の4%が別途支給されているが、これは「定額働かせ放題だ」と多くの識者や当事者である教員たちから批判されてきた。

今回の裁判で主に争点となったのは2点ある。

ひとつは、小学校で常態化する時間外勤務に、時間外勤務手当が支給されるかどうかだ。

校長は、原則として時間外勤務を命じることができない制度となっており、その例外は特別な場合に限られている(給特法と関連する政令による)。たとえば、生徒の実習、修学旅行などの学校行事、職員会議、災害や生徒指導でやむを得ない場合などで、なおかつ、臨時または緊急のやむを得ない必要があるときに限られている。そのため「超勤4項目」と呼ばれている。

だが、現実としての時間外勤務は、小学校でも、中学校や高校、特別支援学校などでも、先生の仕事には、緊急でやむをえない場合(超勤4項目)以外の残業も多いのが現実だ。

原告が勤務時間後にした膨大な教育活動

本訴訟では、勤務時間の開始前である早朝の登校指導や、児童のマラソン練習、また、勤務時間終了後の夕方・夜間の授業準備やテストの採点、事務作業、さらには、勤務時間中の休憩時間を潰して授業準備や児童の見守りなどを行ったことには、時間外勤務手当が支払われるべきだ、というのが原告の主張であった。

次の写真のとおり、裁判では、原告が勤務時間後にもたくさんの教育的活動や事務作業に従事したことを示す資料が添付されている。

出所)裁判資料より一部抜粋。勤務時間外にも多くの仕事に従事していることが主張された。出所=裁判資料より一部抜粋。勤務時間外にも多くの仕事に従事していることが主張された。

それに対して、さいたま地裁の判決では、「教員の業務は、教員の自主的で自律的な判断に基づく業務と校長の指揮命令に基づく業務とが日常的に渾然一体となって行われているため、これを正確に峻別することは困難」であると指摘。そのうえで、「教員の勤務時間外の職務を包括的に評価した結果として」4%の調整額が支給されているので、時間外勤務手当の支給は認められない、とした(カッコ書きは判決文から引用)。

労基法では1日8時間労働なのになぜ

もうひとつの争点は、「1日8時間を超えて労働させてはならない」という労働基準法(労基法)の規制(第32条)に関連してであった。

さいたま地方裁判所は、公立学校教員にも労基法の適用は認めた。その上で、校長の職務命令に基づく業務時間が「日常的に長時間にわたり、時間外勤務をしなければ事務処理ができない状況が常態化しているなど」教員の労働が無定量になることを防止しようとした給特法の趣旨を没却させるような事情が認められる場合について、校長は「違反状態を解消するために、業務量の調整や業務の割振り、勤務時間の調整等などの措置を執るべき注意義務がある」とした。

そのうえで、こうした措置を取らずに法定労働時間を超えて教員を労働させ続けた場合には、国家賠償法上違法になるとした。

ただし、本件では給特法の趣旨を没却するほどの事情には当たらないとして、賠償責任はないと判断し、原告の訴えを退けた。

勤務時間外の業務は「労働」か、自発的なボランティアか?

以上の2つの争点と関わるが、この裁判を参照しつつも、もう少し全般的に改めて考えたいことがある。教員の仕事は、どこからどこまでが「労働」なのか、ということだ。

他の先進国と比べても、日本の教員の業務量は多いし、多岐にわたる(OECDのTALIS調査などを参照)。勤務時間内では終わらないことは多く、どうしても勤務時間外にはみ出すことも多いわけだが、これは労基法上の「労働」に当たらないのだろうか。

最高裁判例を紐解くと、京都市立の小学校と中学校の教諭が訴えた事案(京都市事件)がある。この件では、研究発表校になったことなどから発生した授業準備や新規採用者への支援・指導、テストの採点、部活動指導等の過重な時間外勤務が、校長の安全配慮義務違反に当たるかどうかが問題視された。最高裁の見解を以下に要約する(最三小判平23.7.12)。

校長は「個別の事柄について具体的な指示をしたこともなかった」のであり、「明示的に時間外勤務を命じてはいないことは明らかで」、「また、黙示的に時間外勤務を命じたと認めることはでき」ない。「強制によらずに各自が職務の性質や状況に応じて自主的に上記事務等に従事していたもの」と考えられる。

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