東京メトロのゴミ箱撤去は妥当か – 赤木智弘

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東京メトロが駅構内のゴミ箱撤去を発表

東京メトロが駅構内のゴミ箱をすべて撤去すると発表した。撤去の理由は「駅構内のセキュリティ強化」であるとしている。(*1)

発表によると、一部の駅や、飲料の自販機のすぐ横にある缶やペットボトルのゴミ箱は非対象らしいが、いわゆる一般ゴミを捨てることができるゴミ箱は撤去されるようだ。1月16日の営業終了後に撤去され、17日の早朝からからはゴミ箱が無くなるというから、この記事が出る頃にはすでに撤去されているはずだ。

撤去の理由は「セキュリティ強化」というが・・・

同社はセキュリティの強化と主張しているが、本当のところはゴミ回収や管理などの「コスト削減」が理由なのだろうとは推測する。

直近に起きた鉄道関連の事件を見ると、去年は8月に小田急線で、10月に京王線で殺傷事件が発生したが、いずれも電車の車内であり、ゴミ箱は関係なかった。セキュリティ強化といっても、効果は限定的に思えるし、今すぐ取り組むべき内容とも思えない。

そもそもゴミ箱を利用して爆発物を用いたテロを行うのなら、犯人は中身が見える透明のゴミ箱ではなく、中身が見えず、自分で取り出さなければ撤去される恐れもないコインロッカーを利用する方が簡単なはずだ。

しかしながら、テロ対策でサミットなどの期間にコインロッカーを使用中止にすることはあっても、コインロッカーを撤去する駅の話は聞かない。ゴミ箱はゴミの処分にコストがかかるばかりだが、コインロッカーは設置すれば儲けになるからだろう。

海外などでは爆発が水平方向に広がらずに上だけに抜けるように設計された、爆発の威力を抑制するゴミ箱も使われている。(*2) また逆に透明なゴミ袋だけを簡易的に設置している駅や、電車の中に自由に使えるゴミ袋を設置している例もある。(*3)

日本よりもテロが現実的な海外ですらゴミ箱を撤去するのではなく、さまざまな工夫でゴミ箱を維持しながらテロを起こさないようにしているのに、日本はなぜか「ゴミ箱の撤去」をセキュリティ対策になると考えているようだ。

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ゴミ箱撤去が、街中での消費活動を抑制した?

それにしても、街中からどんどんゴミ箱が減っていく。

ゴミ箱を減らす側は「セキュリティ対策」とか「環境美化」とか「リサイクル意識の醸成」など、さまざまな理由を挙げる。だが最も大きな理由は最初に挙げたとおりのコスト削減だろう。

最初に日本からゴミ箱が消え始めたのは1995年頃。そう、あの地下鉄サリン事件の後からだった。バブルの崩壊の影響が一般層にも現れ始めた頃に発生した衝撃的なテロ事件。当時もセキュリティ対策の一環として、ゴミ箱が一斉に撤去されたが、のちに順次再設置されたという経緯がある。

僕は街中のゴミ箱撤去はバブル崩壊からの不況に拍車をかけてしまったと考えている。ゴミ箱の撤去は、当初は街中にゴミを溢れさせたが、徐々に人々は街中でゴミを捨てなくなり始めた。確かに街は少しずつキレイになったが、一方でゴミ箱の撤去は街中での買い食いなどの日常的な消費を抑制した。

ゴミが発生するというのは経済活動が行われた証でもある。増えたゴミに対して社会がコストをかけて処理をすることで、経済が回るという側面もあったのだ。しかし、「ゴミを出すと捨てる場所がないから、最初からゴミになるモノを買わない」と人々が考え、ゴミの排出自体が抑圧されるようになれば、それは経済活動に対する抑圧となってしまう。

近くに住んでいる人なら「ゴミは家に持ち帰れば良い」でもいいのかもしれないが、遠出をしてきた観光客や、新型コロナが収まった後に復活するであろうインバウンド需要には対応できなくなってしまう。

僕も、包装の削減や新たな素材の開発、そして3Rと呼ばれるリデュース、リユース、リサイクルを用いたゴミ削減は、経済活動を促進する良い削減であると考えている。しかし、コスト削減のためのゴミ箱撤去というのは、ゴミ削減の中でも経済にとっては最悪の選択肢といっていいだろう。

公共サービスとしてのゴミ箱は経済指標のひとつ?

僕はゴミ箱の数も経済指標のひとつと考えていいと思っている。

政府がいくら「経済成長」と叫ぼうとも、企業はコスト削減に追われている。ゴミ箱という一見、コストばかりがかかるものを顧客に提供し続けることができるかできないかは、その企業にどれだけ余裕があるかで決まる。

地下鉄を含む鉄道各社は公共性の高い存在であり、公衆に対する利便性を提供することも企業として重要な役割であるはずだ。しかしそうした利便性を提供できなくなっているということは、やはり企業はずっと苦しんでいる。そうした事情がゴミ箱の撤去という裏側に見えるのである。

最近はゴミ箱をIoTで管理したり、ゴミ箱に広告をラッピングするような新しい動きも出てきている。(*4) 目先のコストを削減するばかりではなく、ゴミ箱を維持しながら、それをいかに利益に結びつけるかという工夫が、公共性の高い企業には求められているのである。

そうしなければ、景気は冷え込み続けるばかりだろう。

*1:東京メトロ、駅構内のゴミ箱撤去へ。いつから? 自販機横や女子トイレはどうなる?詳細を聞いた(BuzzFeed)https://www.buzzfeed.com/jp/sumirekotomita/tokyometro-gomibako
*2:海外では当たり前!?爆破テロ対策となりうる防爆ゴミ箱(RBB TODAY)https://www.rbbtoday.com/article/2016/11/11/146911.html
*3:駅ゴミ箱「テロ対策」はビニール袋で解決する(東洋経済オンライン)https://toyokeizai.net/articles/-/196445
*4:表参道に「IoTゴミ箱」を設置して1年、ゴミはどうなったのか:週末に「へえ」な話(ITmedia ビジネスオンライン)https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2109/25/news006.html

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