停滞するウェアラブルとホーム、話題のあの布–Appleニュース一気読みホリデーガイド2022

CNET Japan

 Appleニュース一気読みホリデーガイドとして、各製品・サービスカテゴリをまとめていく。1回目のiPhone 13シリーズ、第2回目のiPad、第3回目のMacに続く第4回はウェアラブルとHome and Accessoriesだ。

Apple Watchの停滞感の中身とは?

 2021年9月に発売されたApple Watch Series 7は、画面サイズ拡大と、側面に回り込むディスプレイの採用というデザイン変更があったが、あまり大きな話題になることなく、淡々と販売数を重ねている印象だ。

 急速充電機能の搭載は睡眠計測の強い味方になるし、大きな文字盤はむしろ小型の41mmモデルをより幅広い人向けのモデルとして再定義してくれる。ただし、Apple Watchの使い方が大きく変わるような革新があったわけではなく、特にヘルスケア分野でApple Watchが必須な機能や、サービスとの組み合わせを目論んでいるのではないか、と予測している。

Apple Watch Series 7
Apple Watch Series 7

 新しい生活習慣の中で、短い外出時間の確実なフィットネス計測や、血中酸素などの心肺機能のチェックなど、そもそもApple Watchが取り組んでいた機能が必要とされるようになった。こうした新しい習慣のための道具となれるかどうかが、注目すべきポイントだ。

 2021年をふりかえってみると、Apple Watchは世界的にユーザーを伸ばした1年だった。通年で2桁成長を維持し、特に2021年第3四半期(4〜6月)は前年同期比36%増。第4四半期(7〜9月)の中国市場では、85%の購入者が新規ユーザーとなり、新たに手首にApple製品を身につける人を増やしてきた。

 ただしTim Cook CEOはApple Watchの成長についてもどかしさを感じている側面もあった。第2四半期決算の電話会議では「Apple Watchは普及の序盤で、成熟市場に至るまでは長い道のり」としており、Cook氏が思い描く状態にまで到達していないようだ。

 Apple Watchは2015年に発売された製品で、Appleにとってはウェアラブルデバイスという新しいカテゴリへの参入だった。百年単位で脈々と続く腕時計市場は、デジタル化、ソーラーパネルの搭載などの変革もあったが、基本的には時計や日付、ストップウォッチ機能を備え、機械式時計の時代から自動巻きのように身につけていれば動き続ける機能性も長らく愛されている。

そうした市場に新規参入したApple Watchは、世界で最もブランド力の高いiPhoneとの連携と、フィットネス、ウェルネスと入った機能の提案、財布代わりに使えるApple Pay、そして(あまり上手くいっていないが)アプリによって機能を増やせる点を新たな要素として、腕時計にディスラプト(破壊的変革)をもたらした。結果、売上高でトップだったロレックスを抜き去り、Apple Watch単体で世界最大の売上高を誇る腕時計になった。

 ここまでのストーリーを見ると、Apple Watchのはじめの5年間は非常に成功しているように見える。しかし2021年に売上が拡大しているところを見ると、まだ成長余地がありそう、つまりまだ届いていない人が世界にたくさんいるということだ。

 Appleが目指していることは、iPhoneユーザー全員の腕にApple Watchが巻かれ、定期的に買い換えるようになるとすると、年間2億本レベルの出荷台数が必要となる。2020年3390万本とみられる年間売上数の6倍に成長させるゴールがあるのかもしれない。そのために何ができるのか?という視点で、戦略を組み立てているのではないだろうか。

Apple TVはジワジワ重要度が高まる?

 Apple TV 4Kも、2021年5月に第二世代が登場した。A12 Bionicチップ搭載し、Apple TVとしては初めてニューラルエンジンを備えた。また4K/60fps HDR映像出力の対応や、iPhoneでテレビ画面の色味を測定して出力側で最適化する機能の追加、新しいSiri Remoteを付属させるなどの商品力強化が図られた。

およそ3年半ぶりにアップデートされたApple TV 4K
およそ3年半ぶりにアップデートされたApple TV 4K

 これまでの環境と決定的に異なっている点は、ストリーミングの普及が進んでいる点と、Apple自身がApple TV+という映像配信サービスを持っていることだ。Apple TV+は2019年3月に発表され、11月にスタートしたが、自社のストリーミングサービスを要した初めてのセットトップボックスの刷新となった。

 Apple TV+が見られるスマートテレビはソニーやLG、Vizioなど一部に限られており、やはりApple TVがあると視聴しやすくなる。Apple TV+は、コンテンツの数は少ないが、非常に多くの予算をかけ、ファミリーで楽しめる作品や、単純なビジネスだけではなかなか作品化されにくいテーマを扱うなど、差別化を図っている。

 独自のストリーミングサービスが、現段階ではApple TV本体の売上をドライブするほど重要度や優先度が高いストリーミングサービスとも言えない。このあたりの関係性の整理は、少なくとも2021年の段階では片付かなかった、と考えている。

 米国などで始まっているフィットネスのサブスクリプションFitness+、ゲームのサブスクリプションApple Arcadeなど、リビングでテレビを駆使して楽しむサービスが増えており、これらはApple Oneのファミリープランですべてバンドルされてくる。Apple OneユーザーにはApple TVをプレゼントしてもよいのではないか、とすら思う。

 また特に今までiCloud追加容量と呼ばれていた「iCloud+」では、家に設置しているセキュリティカメラの動体認識・顔認識と映像記録に対応しており、非常に簡単にセットアップできる。その際、持ち出されるモバイルデバイスではなく、家にずっと設置されているApple TVがホストの役割を果たしてくれるため、重宝する。

 このように、コンテンツやスマートホームのサービスが充実することで、今後Apple TV自体の重要度がジワジワ高まっていくことが考えられる。スピード感については遅さも目立つが、着実な普及は続けていくことになりそうだ。

AirPodsは早急に問題解決を

 Appleの大人気となったワイヤレスオーディオカテゴリ。これもウェアラブルデバイスと位置づけて、2020年までにAirPods、AirPods Pro、AirPods Maxをラインアップしてきた。

 2021年10月にAirPods第3世代を発表し、イヤーピースの形状変更とコンパクト化、空間オーディオにおけるヘッドトラッキングのサポート、連続再生時間向上、MagSafe対応ワイヤレス充電ケースなど、機能向上を進めている。また、傘下のBeatsからも、2021年はBeats Studio Buds、Beats Fit Proが登場した。

AirPods(第2世代)より33%軸が短くなったAirPods第3世代
AirPods(第2世代)より33%軸が短くなったAirPods第3世代

 ただ、販売については浮き沈みがある。2021年第3四半期(7〜9月)は、AirPods新モデルの販売を控えた買い控えとみられる動きから、Appleの完全ワイヤレスヘッドフォンは前年同期比で33.7%の出荷減となった。またインドのboAtなどの新たなメーカーが低価格で参入しており、市場の競争は激化している(Counterpoint/Statista)。

 AirPodsも1つずつが息の長いモデルで、10月のAirPods第三世代は、2016年に登場したデザインを維持して2020年までの4年間販売してきた経緯があり、2019年登場のAirPods Proも間もなく3年が経過しようとしている。アップデートが間もなくだと噂される理由も、この3年という節目が近づいているからだ。

 特にAirPods ProとAirPods Maxについては、決定的な問題が生じている。Apple Musicのロスレスに対応していない点だ。Appleは2021年6月から、独自の音楽ストリーミングサービスで、ロスレス、ハイレゾロスレス、空間オーディオといった新しい配信フォーマットへの対応を追加料金なしで提供し始めた。

 このなかでAirPodsシリーズは、空間オーディオへの対応は果たしたが、ロスレスは現段階では楽しむことができない。Appleとしてはあくまでロスレスはオプションであり、音楽体験を変える空間オーディオが目玉だと強調している。しかしAirPodsシリーズがApple Musicのロスレス対応しない点は、あまり非合理的だ。

 今後のAirPods Pro、AirPods Maxで強化すべきハードルが設定されており、2022年にこのハードルを越える製品が登場することに期待したい。ちなみに、HomePodについては、2021年、HomePod miniの新色が登場しただけで、大型のHomePodは販売を終了している。後継モデルに期待したい。

AirTagと巧妙なFind My Network

 Appleは2021年にもう一つ、新しいカテゴリに参入した。AirTagという碁石のようなデバイスを用いた探しものネットワークだ。この分野ではTileがこれまで地道な普及を進めてきた領域だった。

 AirTagはボタン電池で6カ月持続し、中にはBluetoothとU1チップ(UWB)NFCモジュール、そして開口部がないスピーカーが備わっている。カバンの中に入れたり、キーホルダーに付けたりして、持ち物に取り付ける。そしてiPhoneとペアリングすると自分の持ち物として名前を付けることができ、近くにあるかどうかを判別できるようになる。

「AirTag」
「AirTag」

 AirTagはiPhoneとUWBで通信し、5m以内であれば、方向と距離を正確に表示してくれる。Tileはなくしたものの音を鳴らして場所を知らせてくれるだけだったので、ちゃんと見つけるところまでフォローしてくれる点は、今までになかった進化のポイントだ。

 加えて、Find My Networkの活用が武器になる。手元から離れた場合、他の人のiPhone、iPad、Macと通信して今どこにあるかを知ることができる仕組みで、GPSでの位置情報取得ややセルラー通信ができないAirTagが、周囲のAppleデバイスを頼りに、その在処を持ち主に位置を知らせる、非常に健気な一面がある。

 既存の15億台にも及ぶApple製品を資産として位置情報ネットワークを構築する点は、Appleならではの施策だった。しかも、OSのアップデートを通じて自動的に動作するように顕在化させた点も上手かった。

 ただしこの機能は非常に大きな論争を呼んでいる。AirTagを他人のカバンに忍ばせれば、その人を簡単に追跡できる可能性が高まるからで、ストーカーや車の盗難などの実例も出てきた。

 もしカバンにAirTagを入れられた人がiPhoneユーザーなら、他人のAirTagが近くにあることを察知できる。しかし世の85%を占めるAndroidユーザーの場合は察知のしようがないのだ。

 そこでAppleは「Tracker Detect」というAndroidアプリをGoogle Playで配信し始めた。AirTagなどのFind My Network対応製品を見つけられるアプリだ。ただしiPhoneのように自動検出はされないため、対策として不十分。Appleに限らず、この問題にどう対処するのか、引き続き注目だ。

ポリッシングクロスが売れた理由

 Appleは「ポリッシングクロス」を1980円で発売した。Appleロゴが型押しされ、マイクロファイバーの生地が両面が表になるよう縫い合わせてある19cm四方の布だ。

 2021年10月19日に発売されると世界中から注文が入り、発売から程なくして納品は2022年にずれ込むことになった。2022年1月初旬の段階でも納期は約1カ月を要している。

「ポリッシングクロス」
「ポリッシングクロス」

 もともとポリッシングクロスは、iMacやPro Display XDRのNano-textureガラスオプションに付属しており、AppleによるとNano-textureガラスは、付属のポリッシングクロス以外は使わないよう案内してきた。紛失した場合などは交換用を発注するよう書かれている

 このクロスが売り切れた珍事について、Appleが一番首を傾げているかもしれない。そもそも、このポリッシングクロスの存在は、Nano-textureガラスオプションを選んだプロユーザーしかいなかったはずで、特にこの布に注目が集まっていたわけではなかったからだ。

 Appleロゴ入りの公式グッズは、Appleの旧本社であるApple Infinite Loopと新社屋であるApple Park Visitor Centerに併設されているApple Storeでしか扱っていない。波佐見焼のカップなど、意外なグッズも販売されているが、現地でしか購入できず、その存在を知る人も少ない。そうした中、オンラインストアで購入できるグッズというレア感もあったのかもしれない。

 一方、ブランド力の評価に活用した可能性もある。どうでも良さそうなロゴ入りの布に人々がどれだけ食いつくのか?という調査と捉えれば、ロゴ入りの布が欲しいというブランドロイヤリティの発露から面白い結果が得られるからだ。もちろんこうしたグッズ販売を乱発するか?といわれたら答えはノーだろう。

 第5回は、「Apple宿題リスト」2022年の展望と注目ポイント(前編)についてお伝えしたい。

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