この数年、東大生がコンサルティング業界に進むケースが増えている。東京大学でキャリア設計の授業を行ったこともあるコンコードエグゼクティブグループCEOの渡辺秀和さんは「最近の優秀な学生のキャリア観に合致しているからだ。それに対応できない会社では、優秀な若手が次々に退職してしまう」という――。
写真=Daderot/CC-Zero/Wikimedia Commons
この数年で東大生のコンサル業界への人気が急上昇
かつて東大生の卒業後の進路といえば、官僚やメガバンク、総合商社などをはじめとする大企業への就職が主流でした。しかし、ここ7、8年でその進路に変化が起きています。近年、東大生が最も注目を寄せる業界――それはコンサルティング業界です。
東京大学新聞が毎年発表している「就職人数順ランキング(学部生)」によると、2013年のTop20にあるコンサルティングファームはマッキンゼー1社のみでした。
これが、2021年になると、Top20にデロイトトーマツやアクセンチュアなど6社がランクインし、コンサルティングファームの台頭が感じられる結果となっています。
もちろんランキングの結果は経済環境や企業の経営状況によって変化します。しかし、特定の企業だけがランクインしているのではなく、同一業界で複数社が上位にランクインしていることは見過ごせない変化です。
東大生が就職先を選ぶ3つの観点
2017年に私が東京大学で行った「キャリア・マーケットデザイン」の授業では、出席する約300人の学生に毎授業でアンケートを実施し、最終課題として自身のキャリアビジョンとその戦略に関するレポートを課しました。
これらの数多くのやり取りから、昨今の東大生はキャリア選択の際に3つの観点を重視していることが浮き彫りになりました。
①社会的インパクトとやりがいのある仕事
東京大学は、もともと国家公務員志望の学生が多いということに象徴されるように、公的な社会貢献意欲が強い学生が多数います。そのため、自分が関心を持つ領域で、社会的意義のある仕事を望む傾向があります。
このような考えを持っているため、当然自身が取り組むことになる仕事内容を重視して就職先や転職先を選定することになります。
さらに、「配属リスク」という考え方が学生たちの間に広がっています。もちろん日本を代表するような大企業であれば、社会的意義の大きな事業も行っており、その点については大変魅力的と言えるでしょう。
しかし、入社した後、実際に関心を持つ事業に関わることができるか否かは不透明です。そのため、学生からすると、何の仕事をするかわからない総合職採用はリスクが高いと認識され、敬遠される対象になっているのです。
②成長スピードが速く、スキルが身につく仕事
学生たちは以前にも増して成長できるキャリアを求めています。
しかし、所属した環境によって成長のスピードに雲泥の差が出てしまうことも事実としてあります。いまだに一般的な大企業では、20代は下積み期間として「まずは現場業務から経験して」などと企業理解のための職務に長期間あたることも少なくないでしょう。
終身雇用の時代が終わりを迎え、彼らは「これからは自身でキャリアを切り開く時代」だと認識しています。
会社に頼ることができなくなり、いつでも転職できるだけのスキル・専門性がつく仕事内容かどうかは、就職先選定において非常に重要なポイントとなっています。
③実力主義の評価体制がある職場
年功序列型の制度は、評価を積み重ねることで将来の報酬を上げる終身雇用を前提とした人事制度です。報酬が先送りになっているため、現代のように転職する可能性が高い時代においては、正当な対価を受け取ることが難しくなります。
だからこそ優秀な若手人材は、年齢に関係なく、結果や実力に見合った報酬やポジションを「今」欲しいと考え、実力主義の評価制度を強く望んでいます。
また、誰もが知っている大企業、財閥の冠がついた企業などのステータスが低下してきています。代わりに若手人材の間では、身も蓋もない話ですが「年収の高い企業」がステータスとなりつつあるのです。
就活を通して企業へ不安感を抱く学生がいることにも注意が必要です。
新卒採用の際、東大生○人、京大生○人などと、有名大学別の目標数を設定した採用を実施しているケースが見受けられます。確かに大学名は選考における判断基準のひとつとして有用でしょう。しかし、大学名が採用の手段ではなく、目的になっているとすれば問題です。
私の授業に出席していた学生たちからは「個々の志向や実力をあまり見ず、東大生だから採用されているのでは」という企業の採用姿勢に対する心配の声が聞かれました。