ふるさと納税が人気だ。2008年度に約5万件だった受入件数が、2020年度には約3489万件に上っている。手軽さや返礼品を選ぶ楽しさに注目が集まる一方、税理士の田中卓也さんは「まだまだ制度や仕組みを誤解している人がいる。それがトラブルにつながることもある」という――。
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ふるさと納税の受入件数は12年で約700倍
全国の自治体に寄附を送れる「ふるさと納税」。利用すると節税につながるだけでなく、その自治体の返礼品がもらえるため、人気を集めています。ふるさと納税が導入されたのは2008年のことですが、総務省から発表されている資料によると当初は件数にして約5万件、納税受入額は約81億円だったものが、2020年度には件数にして約3489万件、納税受入額は約6724億円を超えるまでに拡大していることでもその注目度の高さが伺えます。
出所=総務省資料 令和3年度 「ふるさと納税に関する現況調査結果」
しかし一方では、このふるさと納税、まだまだ制度や仕組みなどに誤解があり、「確定申告をしたらワンストップ分が対象外になった」あるいは「住宅ローン減税が予定の金額で受けられなくなった」という声を聞くのも事実です。どうすればトラブルを防げるのか。3つの誤解を解きながら整理していきましょう。
「ふるさと納税=好きなところに住民税を払う制度」ではない
1.住民税の納付先は変わらない?
ふるさと納税にまつわる誤解で最初に挙げられるのが「ふるさと納税では、住民税の納付先を自由に選択できる」というものです。
住民税の課税権は1月1日の住所地の市区町村にあります。たとえば、2021年にA県B市からC県D市に転居したとします。この場合、2022年1月1日はC県D市に居住しているのですから、1月1日に居住しているC県D市から2021年の所得の状況に基づいて住民税課税がなされるというわけです。
このように、ふるさと納税は本人の住所地以外の住民税の納付先を自由に選べる制度ではないのです。
所得税と住民税の「節税」につながる
一方、ふるさと納税を行うと住民税の節税につながるというのは事実です。確定申告を通じて、ふるさと納税の節税を行う場合、所得税は所得控除の仕組みを通じて、住民税は税額控除の仕組みを通じて節税につながります。ワンストップ特例の場合ですと、所得税の所得控除の仕組みを活用しない分、減税対象額が全額住民税から差し引かれることになります。
基本的な仕組みは以下のとおりです。たとえば、確定申告を介して節税を行う場合、
(1)所得税からの控除額
(ふるさと納税額-2000円※自己負担額)×所得税率・・・所得税からの減額
(2)住民税からの控除額(基本分)
(ふるさと納税額-2000円)×10%・・・住民税からの減額
(3)住民税からの控除額(特例分)
(ふるさと納税額-2000円)×(100%-10%(基本分)-所得税率)・・・住民税からの減額
となります。
たとえば、「課税所得が195万円超330万円以下、所得税率10%」の人が5万円のふるさと納税を行ったとすると、控除額は次のようになります。
<ふるさと納税による控除額>
(1)(50000円-2000円)×10%=4800円・・・所得税からの減額
(2)(50000円-2000円)×10%=4800円・・・住民税からの減額
(3)(50000円-2000円)×(100%-10%-10%)=38400円・・・住民税からの減額
↓
(1)+(2)+(3)=48000円
ということで、5万円から2000円を差し引いた4万8000円が、所得税の所得控除の仕組みを通じて、あるいは住民税の税額控除の仕組みを通じて節税につながるのです。
ワンストップ特例を介した場合、所得税からの4800円の減額がなくなる一方、住民税の節税が4800円増えるので節税額48000円というのは変更ありません。
「ふるさと納税以外の所得控除>所得」の場合、節税にならない
2.ふるさと納税分=節税額にはならない?
ふるさと納税にまつわる誤解で2番目にあげられるのが「ふるさと納税分が節税額につながらない」ということです。上記算式にあるとおり、5万円寄附したとしても自己負担額の2000円が算式上差し引かれてしまいますので、2000円以下のふるさと納税は全く節税には寄与しません。
また、所得税はふるさと納税を含めて配偶者控除や扶養控除など15種類もある所得控除の仕組みを通じて節税につながるので、ふるさと納税以外の所得控除で所得を上回る場合には、ふるさと納税で差し引ける所得がないため節税にはならないのです。たとえば、実際に所得税率が課される所得を課税所得というのですが、ふるさと納税を除いた所得控除で所得より所得控除が上回っていれば課税所得は0円となり、ふるさと納税が節税に寄与しないことがわかるでしょう。