ヴァージル・アブロー 氏の功績:ラグジュアリーファッション界の形を変え、デジタル、NFTの世界にも新たな影響

DIGIDAY

取材:Danny Parisi, Jill Manoff and Zofia Zwieglinska

11月28日の日曜日の午後遅く、Glossyのファッションレポーターたちがヴァージル・アブロー氏の突然の訃報について業界関係者と連絡を取っていたとき、ツイッター(Twitter)に@VirgilAblohNFTというアカウントが新たに誕生し、Glossyをフォローした。アブロー氏が業界に与えた影響についての関係者の見解や期待を鑑みれば、このニュースに対するファッション界の反応という意味ではぴったりの出来事だ。

「(アブロー氏は)カルチャーを巧みに吸収した。そしていまやカルチャーが彼のクリエイションを巧みに吸収しようとしている」と語るのは、ラグジュアリーブランドストラテジストで『The Business of Aspiration』の著者でもあるアナ・アンドジェリック氏だ。その結果はいずれNFTやリセール市場などのメディアで目にすることになるだろうと、彼女は予測する。

LVMHのソーシャルチャネルで発表された声明によると、ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)のメンズウェアのアーティスティック・ディレクターであり、ストリートウェア・ブランドのオフ-ホワイト(Off-White)の創業者でCEOのアブロー氏は、長年にわたるがんとの闘病生活の末、11月28日日曜日にこの世を去った。これを受けて、ソーシャルプラットフォーム上にはファッション関係者やファンからのショックや悲しみの声を伝える投稿や追悼の意を表す投稿があふれた。デザイナーやブランドの可能性の領域を広げるなど、アブロー氏がファッションに与えた多大な影響について多くの人々が言及している。

ラグジュアリーファッションを変えたコラボレーション

アブロー氏の仕事の真髄はコラボレーションにあった。アンドジェリック氏によれば、ファッション業界への彼のいちばんの貢献はコラボレーションの活用であり、彼はコラボレーションをストリートウェアの代名詞ではない「新たな文化の形」と位置づけていた。「ラグジュアリーブランドが重要な存在であり続けるにはコラボレーションが必要だということを彼は証明した。それがラグジュアリーファッション業界の形を変えたのだ」。

アイデアのリミックスや合成に対するアブロー氏の愛情は、ファッション、音楽、アート、建築など広範囲におよぶ彼の仕事のすべてに表れていた。「彼の経歴や多様な興味、絶え間ない労力」の結果、アブロー氏はまさに本物といえるコラボレーションによって、芸術的な世界と商業的な世界をつなぐことができたとアンドジェリック氏は述べている。彼女はオフ-ホワイトが行った数々のコラボレーションや、デザイナーが文化のキュレーターとしての役割を果たすことの必要性についても触れている。

この10年間で、アブロー氏はオフ-ホワイトを通じて、ラグジュアリーやマスマーケットなど大企業から小さなブランドにいたるまで、ファッション界の内外を問わずさまざまなコラボレーションを行ってきた。その代表的な企業にチャンピオン(Champion)、キス(Kith)、モンクレール(Moncler)、ナイキ(Nike)、サングラスハット(Sunglass Hut)、イケア(IKEA)などがある。その結果として誕生した製品は、2017年にヘロン・プレストン(Heron Preston)とのコラボで制作したバッグのように、諧謔的でいかにも彼らしい主張のあるデザインが多かった。ヘロン・プレストンのバッグには「”COLLABORATION”」という単語が大きく書かれていたが、Helvetica Neue Bold(ヘルベチカ・ノイエ・ボールド)のフォントを使い、単語を引用符で囲むスタイルは、アブロー氏のシグネチャーだ。

また、アブロー氏はエイサップ・ロッキー氏や村上隆氏といった個人ともコラボレーションしている。2011年にカニエ・ウエスト氏とジェイ・Z氏が発表したアルバム『Watch the Throne』のアートディレクターとして、アブロー氏は2010年代を象徴するコラボレーションの先駆者となった。ウエスト氏とアブロー氏は2000年代の初頭にシカゴで出会い、ともに仕事をした後、フェンディ(Fendi)でも一緒にインターンをしていた。

ストリートファッションの世界をラグジュアリーと結びつける

だが、アブロー氏がこれまでに制作したもっとも大きな影響を及ぼしたコラボレーションは、おそらく2017年のナイキとのザ・テン(The Ten)だろう。初回はナイキのクラシックなスニーカーのシルエットを分解し、アブロー氏が再考した10種類のスタイルで構成されていた。オンラインメディア『ハイスノバイエティ(Highsnobiety)』によれば、これは2018年と2019年にデビューした後続のスタイルとあわせて、これまでに発売されたスニーカーでもっとも注目を集めたという。ストリートウエアの出版物『スニーカーフリーカー(Sneaker Freaker)』は「10年に一度のコラボレーション」と呼んだ。

そして個々のブランドとのコラボレーションの域を超え、アブロー氏は現代のファッションの特徴となるラグジュアリーとストリートファッションの世界の融合にも貢献している。2018年にアブロー氏がルイ・ヴィトンのメンズ・アーティスティック・ディレクターに就任したことは、このふたつの世界の初のクロスオーバーではなかったものの、大きな話題となった。これはバレンシアガ(Balenciaga)がトリプルS(Triple S)というスニーカーを発表したことや、シュプリーム(Supreme)がLVMHから訴えられたと報じられた20年後にLVMH参加のルイ・ヴィトンに協力したのと同じ流れを体現している。ごく最近、フランスのラグジュアリーブランドのディオール(Dior)が、2019年春のコレクションから、ストリートアーティストのカウズ(KAWS)と組んだのもこの流れだ。

アブロー氏はデザイナーやアーティストに夢と希望を与えた

ラグジュアリーファッション業界がストリートウエアやヒップホップのサブカルチャー、つまり黒人のデザイナーやアーティスト、アイコンの貢献によって形成された分野に多くのインスピレーションを求めるようになっても、ほとんどの企業の舞台裏を支配するのは白人中心のままだった。アブロー氏は、ヨーロッパのラグジュアリーメゾンの責任者となった数少ない黒人クリエイティブのひとりであり、その立場を利用してコラボレーションの精神でほかの人々の立場をも向上させている。彼が初めて手がけたルイ・ヴィトンのショーでは、黒人アーティストのキッド・クーディ氏、デヴ・ハインズ氏、プレイボーイ・カーティ氏、エイサップ・ナスト氏がランウェイを歩いた。またアブロー氏は故郷のシカゴに、地元の若者を対象としたメンターシッププログラムを提供するナイキラボ・シカゴ・リクリエーションセンターを設計している。

アブロー氏が愛したコラボレーションと異文化の融合は、いまやファッションの世界では当たり前のこととなっている。アブロー氏はファッションの様相を変化させたのと同じように、クリエイティブ・ディレクターにできることのパラメーターを再定義することにも貢献した。キム・ジョーンズ氏やジェフ・ステイプル氏のように、アブロー氏は自分がフォーカスするブランドのためにデザインすることと、企業や業界、アートなど多岐にわたってコラボすることとの間を行き来していた。その多彩でたゆまぬエネルギーは、デザイン、音楽、建築、アート、ビジネスなど、じつに幅広い数々のプロジェクトに注がれ、新進気鋭のデザイナーやアーティストに多大な影響を与えた。

「ヴァージル・アブロー氏は私たちに夢を見る方法を教えてくれた」と、日曜日にステイプル氏はインスタグラムに投稿している。

インスタグラム上にある新進デザイナー向けプラットフォーム、アップ・ネクスト・デザイナー(Up Next Designer)の創設者アルバート・アヤル氏も「(アブロー氏は)着実に限界を押し上げることで、デザイナーに希望を与えた」とGlossyに語っている。

デジタルの世界で文化の新たな領域を取り入れる

その先見性はデジタル世界に対する彼のアプローチにも通じている。

子供の頃に任天堂のゲームで遊んでいたことから、自身のレーベルであるオフ-ホワイトでオンラインのカルト的なファンを開拓したことにいたるまで、アブロー氏はデジタル空間にコミュニティを築くことの価値をわかっていた。たとえば2021年春のオフ-ホワイト・コレクションは、イマジナリーTV(Imaginary TV)と呼ばれる没入型のデジタル体験を通じて紹介されている。視聴者はテレビのチャンネルを切り替えるように、コレクションのコンセプトが置かれたバーチャルな風景の間を行き来することができる。この体験は、最終的にはオフ-ホワイトのメタバースの初期の描写であるともいえる。アブロー氏はフューチャリズムの価値を理解しており、それは単に征服すべき輝かしい領域ではなく、黒人の声や革新的なクリエイターを発展させるための豊かな機会だと考えていた。

何よりも、アブロー氏が創造したイマジナリーTVのデジタルランドスケープが意図していたのは、ファッションのファンと業界のリーダーたちの間を阻む壁や境界線を壊すことだった。コレクションのプレスリリースでアブロー氏は、ショーの目的は「業界関係者、消費者、ファンがどのようにして互いに交流できるか、そして包括性を促進して可能性を広げることで、クリエイティビティに対する普遍的なアプローチをとらえることである」と述べている。

アブロー氏は、ルイ・ヴィトンでは自身のプラットフォームを通じてVRやARのデザイナーを支援し、このレガシーブランド初のARフィルターのデザインのためにナイジェル・マタンボ氏のような新進クリエイターを起用している。彼の仕事は、ファッションにメタバースのような文化の新たな領域を取り入れる可能性を追求することだったのと同様に、文化そのものを見つめる新たな手法を創造することでもあった。

そしてアブロー氏がファッションに与えた影響は、今後何年にもわたって生き続けるだろう。彼は業界に新たな戦略を提供したが、それは必ずしも目新しいものではなく、むしろ彼が手がけたプロジェクトの規模や領域によって確固たるものとなった戦略であった。アンドジェリック氏が指摘しているように、LVMHのティファニー(Tiffany &Co.)やリモワ(Rimowa)などのブランドは、いまでは同様の「ミームやリフへの言及」というアプローチで製品やマーケティングを展開するようになっている。

NFTにおけるアブロー氏の影響

NFTの世界にもヴァージル・アブロー効果が起きている。日曜日の夕方までに、@VirgilAblohNFTは「ヴァージル・アブローを偲んで」NFTマーケットプレイスのオープンシー(OpenSea)にオーナーが新たに提供した10点のNFTのリンクを投稿した。そのなかには、ルイ・ヴィトンの初めてのランウェイショーの後にカニエ・ウェスト氏と抱き合うアブロー氏の姿や、パリでDJをしているアブロー氏の姿などがある。価格は約4300ドル(約49万円)から1万7400ドル(約198万円)だ。日曜日の夜には、オープンシーにほかのユーザーが所有するNFTコレクションが収容され、「ヴァージル・アブロー氏よ安らかに」「ヴァージル・アブロー氏を忘れない」というラベルが貼られた。

アンドジェリック氏いわく「すべてのオフ-ホワイトのルック、すべてのルイ・ヴィトンとのコラボレーション、そしてすべてのオフ-ホワイトとのコラボレーション」が、NFTの形で所有できるようになる日も近いとのこと。さらに、オフ-ホワイトのアイテムの価格が急上昇することも予想されるとアンドジェリック氏は言う。「セカンダリーマーケットでの価格の上昇はとてつもなく大きなものとなるだろう」。

[原文:Virgil Abloh ‘changed the shape of the luxury fashion industry’]

GLOSSY FASHION TEAM(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)

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