90年代日本が生んだ伝説的ハードボイルドアクションSFアニメ『カウボーイビバップ』。本作が23年の時を経て、ハリウッドで実写化されたことはご存じの方も多いだろう。
2021年11月19日、Netflixで配信開始されたわけだが、23年来のファンである私(中澤)としてはどうしても気になる点があった。キャラの理解が浅いのである。と、ひと言で片付けたら語弊がいっぱいあるので詳細は以前の記事でご確認いただくとして……
この記事に外国人からのコメントが殺到している。え、炎上?
・英語版の記事にコメント殺到
私が炎上かと思ったのは、コメント数を見た時だ。そのコメントはロケットニュース24の英語版soranewsのFacebookページに寄せられているわけだが、普段の投稿に対するコメントが0件から多くて10件程度なのに対し、この記事には2021年11月25日現在、83件のコメントがついているのである。
しかも、ザッと見たところ、Netflix版を褒めているコメントが多いように見受けられた。個人的なイメージだが、カウボーイビバップは海外の方が影響力が大きいアニメのように感じる。原作を知っていれば、なおさらビシャスやジュリアは気になると思うんだけどなあ。
「アメリカっぽくしたので面白くなかった。」
「キャラクターのミステリアスな要素を削除してその代わりに感情くさいバックストーリーを入れ替えた。ハリウッドアクション映画によくあるパターンだけどビバップは元々どちらかというと犯罪ドラマの方に近い。」
「でも原作アニメは元々アメリカ文化からたくさんのインスピレーションを受けているだろう?」
「原作アニメと比べないで見ると面白い作品。スパイク・ジェット・フェイの性格が多少アメリカっぽくなっているけどそれでもいい感じの三人組だ...でもビシャスとジュリアの変えたところは一番嫌だった。」
「監督の演出の足り方と音楽の使い方はよくない。まるで同人動画のクオリティー。」
「けっこう気に入ったよ。原作がリリースされた頃私は年齢的にちょっと上だったけどサウンドトラックが良かったので少し見た程度なので本格的なビバップファンほどアニメ版には愛着がない。」
「気に入った。原作は見ていないからかな?」
「確かに実写版を作ったスタッフは原作のキャラクターの理解は浅いけど頑張ったってことが伝わってアメリカスーパーヒーロー映画よりはマシ。」
「実写版ビバップを見るなら、原作の再生ではなくて原作からインスピレーションを受けている新しい作品だと考えた方がベスト。実写版は面白いけど決してアニメ版ではない。」
「分かりやすい作品になるためアニメ版の複雑や難しいところを単純にした。アニメ実写版の中で上出来の方です。」
「私は原作アニメを60秒も見ていなくてよかった。実写版はクソ面白い。SFと西部劇、時々ジャズ、そしてちょっと『フィフス・エレメント』のような感じ。」
「実写版は非の打ち所がない、本当に面白い。」
「西洋の観客に分かりやすくした。頑張っているお父さん、足を洗おうとする元暗殺者、タフでセクシーで悲しい過去を持つ女性。まぁそういうもんだからそこまで悪くない作品。」
「キャラクターはなんか違う感じだな。やっぱ作品を実写版にすると原作小説やアニメには敵わないね。」
「原作アニメファンの私はいらない。もう金儲けのため名作アニメにこんなひどいことしないで。」
「あえて。。。まあまあだった。でも基本的に実写版はアニメと同じ雰囲気を持つことを期待するのはだめだ。」
「私も何か『ちがうな』と思って、この記事(星児さんの)を読んでまさにその通り。」
「実写版はクソ面白くなかった。」
「あえてまあまあ。また見ようと思わない。」
「同じビバップの世界だけど新しいキャラクターと新しいストーリーを作ればよかったのに。」
「ビシャスが懇願するなんてありえない。」
「原作と比べる必要ないだろう? 実写版はまだ見終わっていないけどとりあえず今のところは面白い。」
「さすがNetflixはまた原作を台無しにする。あいかわらず。」
・海外の反応に思うこと
と、まさに物議を呼んでいるという感じであった。正確に読むと、海外のファンでも「これは違う」と感じている人も多いようである。賛同以上に、いちファンとしてビバップが浸透していることが嬉しい。
また、原作を見たことがない人の「面白かった」という意見もファンとしては興味深い。私はそこの判断できないし、何よりもカウボーイビバップの話ができる人が世に増えるだけで嬉しいのだ。
また、「アニメと実写は別物」や「比べる意味がない」という意見はその通りだと思う。ただ、ビバップはキャラの深みが一番の魅力なので、ビシャスのような超メインキャラが見る影もなくなっていると「気になる」というだけだ。
代わりに、ホイットニー・ハガス・マツモトは原作とは別人だが最高だと思った。それにより展開されたストーリーも良かったし、むしろああいう脇キャラが広げるオリジナル展開でもっとレールを外れても良かったのではないかと思うくらいである。さて置き、上記の声に対して翻訳したケーシーさんは以下のように分析していた。
・擁護と批判の分かれ目
ケーシーさん「擁護している声と気に入らなかった声の、けっこう大きな分かれ目は原作が好きだったかどうかみたい。アニメ版に熱心であればあるほど “なんか違う”、そしてそこまで愛着がなければ “実写版なりの面白さある”。
英語圏ではビバップアニメ版は字幕版と吹き替え版両方あるけど、たぶん吹き替え版(ケーブルテレビで放送されたバージョン)のファンが多い。こうして実写版を見るとメインキャストはいつもの声と違って、アニメ版ファンはなおさら違和感を感じるかもしれない」
──とのこと。ちなみに、上記のコメントからも分かる通り、ケーシーさんもアニメ『カウボーイビバップ』のファンだが、実写版については見るつもりはないらしい。一体なぜなのか?
・ファンだけど見ない理由
ケーシーさん「そうだな。まとめていうとビバップはたくさんの個性的なクリエーターの力を合わせてそれぞれの要素を入れ込んだ唯一無二の作品だからだな。
まず渡辺監督だな。あんなバラエティー豊かなストーリーを作れる人なかなかいない。ハードボイルドなアクション、切ないミステリー、面白いバカバカしいギャグ、無邪気な喜び。それぞれのシーンを全部上手く描いている。無理やりな感じがなくて、「人生に色々な感情があって、その感情は全部リアルだよ」と伝わってくる。
声優も素晴らしい。特に山寺と林原は上で話したそれぞれの感情を全部上手く演じる。
あまり話されないけど川元利浩のキャラクターデザインもピッタリだな。繰り返し言うようになるが、足や腕が長いのに目に軟らかい線があるので殺し合うような暴力シーン、ストイックなシーンや、セクシーな大人っぽいシーン、ドジで阿保らしいシーン、全部にマッチできる。
そして少しディープな話だけど、98年放送だからちょうどアニメ制作は手書きからデジタルへの過渡期。手書き技術が進んでかっこいいSF世界を作れるけど、今どきの全デジタル画像ほどきれいじゃなくて、手書きなりの温かさと潤いを感じる。要するに「人間らしいSF」、まさにビバップとピッタリ。
考えてみれば、俺はタバコの煙が本当に苦手なので喫煙シーンが多いところが好きじゃないけど、それ以外ビバップの好きじゃないところはあまりないかも。
俺にとってそのたくさんのクリエーターがピッタリなタイミングで集まったからこそのビバップなので、違うタイミングで違うクリエーターが作る実写版はあまり惹かれない。原作を見た時に「アニメじゃなくて実写版だったら面白いのに」や「別の監督がいればいいな」など思ったことがなかった。確かに実写版は菅野よう子が音楽担当したけど、それ以外の原作クリエーターがだれもいなければサウンドトラックを聞けばいいんじゃないって感じ。
まぁ、それでもあまりキツいことを言うつもりはない。実写版の予告を見ると単なる普通のSFドラマとして見れば面白いかもと思って「実写版は原作と違う物なので比べちゃだめ!」って考え方は一理ある。しかし同じ名前、同じキャラクター、原作のストーリーと重なるところも多ければ、比べずにはいられない。「実写版ビバップは絶対見ない!」とか固く決めていないけど特に見ようと思わない」
──とのこと。思っていた20倍くらいの分量が返ってきたわけだが、その答えもまた愛にあふれたものであった。何より、ビバップについてみんながこれだけ語っているというのがめちゃくちゃ嬉しい。出身が田舎なこともあってか、23年前は『カウボーイビバップ』の話ができる人は私の周りには1人もいなかったからな。
愛してたと嘆くにはあまりにも時は過ぎてしまった。でも、片方の目で過去を見るなら、もう一方の目で現在(いま)を見るのがカウボーイビバップの作法だろう。ってなわけで、Netflix版については重荷を捨てて見るのが一番正解なのかもしれない。
執筆:中澤星児
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