マス広告において、クリエイティブの効果測定を正確に行うにはどうしたらよいのか。適切な予算のアロケーションを実現するためには、避けて通れない課題だ。
「ビズリーチ!」のCMで知られる、人材サービスを展開する株式会社ビズリーチでは、会員獲得と認知拡大を目的としてマス広告を展開している。同社のビズリーチ事業部マスマーケティング室室長を務める楠瀬大介氏は、「マスとデジタルで有機的なマーケティングを実現するためにも、広告の効果測定に基づく適切な予算配分が必須だ」とし、こう続ける。「デジタルでは数字で広告効果を把握できる。だが、マスを利用した場合、現実的にはなかなかそれが難しい」。
この課題を解決したのが、ヤフーが提供するソリューション、「Yahoo! JAPAN 予測ファネル(以下、予測ファネル)」だ。同社MS統括本部第二営業本部の本部長を務める三村真氏は、「予測ファネルによってクリエイティブの定量的な効果検証はもちろん、今まで見えなかった見込み顧客の反応が見えてくる」と語る。
では予測ファネルは具体的にどのようなことが実現できるのか。今回は、2021年10月8日に開催された「Yahoo! JAPAN MARKETING CONFERENCE 2021」において、楠瀬、三村両氏が登壇したセッション、「-No Data, No Future.2- ビズリーチが実践したデータ活用術~データマーケティング × クリエイティブ~」の内容から、予測ファネルのインパクトを読み解いていく。
コンバージョンへの「近さ」がわかる予測ファネル
予測ファネルとは、ヤフーが保有する膨大なユーザーデータを活用したデータマーケティングソリューションのひとつだ。過去にコンバージョンしたユーザー群の行動を参考に分析し、広告主の商品やサービスに対するユーザー群のコンバージョンの近さを、未来予測も踏まえてスコア化。スコア別に階層化したオーディエンスを把握できる。
もっともコンバージョンに近いと思われるオーディエンスのスコアを「0.9」として設定し、0.1刻みに、もっともコンバージョンから遠いと思われる「0」までスコア別に階層化したファネルとなっている。マス広告におけるクリエイティブの検証をするには、この予測ファネルをどう活用すればよいのだろうか。三村氏はふたつのポイントを挙げる。
予測ファネルでは階層化したファネルでコンバージョンの近さを把握できる。
1点目は、クリエイティブの効果測定だ。たとえば、スコアに応じてオーディエンスを「上位ファネル(コンバージョンに遠い)」「中位ファネル(中間層)」「下位ファネル(コンバージョンに近い)」という階層にわけ、全員に3種類の広告を配信する。配信された広告に対してオーディエンスが何らかのアクションを起こすと、そのオーディエンスのスコアは変動する。ここでどのような変化が生じたのかを検証すれば、スコア階層ごとに、どのクリエイティブが効果的だったのかがわかると三村氏は語る。
「たとえば、パターンAからCまでの3クリエイティブのうち、Aに接触した上位ファネルのユーザー群にはほぼ変動がない一方、下位ファネルではスコアの上昇が見られたとしたら、Aについては、よりスコアの数値が高い下位ファネル層に向けて配信するのが効率的であることがわかる」。
三村氏は予測スコアにもとづき、クリエイティブの定量的な測定が可能だと語る。
そして、2点目が「顧客層の可視化」だ。予測ファネルでは、スコアごとにサービスや商品の見込み顧客層の属性や、それぞれ、どの程度のボリュームがあるのかを把握できる。スコアが上昇したユーザー群の特徴も把握できるので、そのユーザー群に最適なクリエイティブでの広告配信も可能となる。
予測ファネルを活用するふたつのパターン
まずヤフーとビズリーチが取り組んだのは、予測ファネルを活用したクリエイティブの効果測定だった。ビズリーチ専用の予測ファネルを作成し、複数の広告クリエイティブを配信。各階層におけるユーザー群のスコア変動によって広告の効果を測定した。
配信された広告クリエイティブは、これまでにテレビでも展開されていた3種類。それぞれ以下のような目的で制作されており、上から上位ファネル、中位ファネル、下位ファネルをターゲットに想定したクリエイティブだったという。
- A. 特に転職を考えていない層へのアプローチ
- B. 転職に関心を持っている層に向けた、ビズリーチの認知獲得
- C. 具体的に転職を検討している層に、ビズリーチの「スカウト」機能を訴求
配信後の検証では、Aのクリエイティブについては上位ファネルのユーザー群のスコアが上昇し、Bについては中位が、そしてCについては下位ファネルのスコアが上昇したという。つまり、従来実施してきたビズリーチのクリエイティブは、意図通りに機能していたことが裏付けられた形となる。
楠瀬氏も、「クリエイティブを制作する際に立てた仮説が、予測ファネルを活用することで数値として検証できた。これは非常に価値があることだ」と高く評価する。
定性的な仮説に定量的な立証を
しかし、この効果測定によって新たな悩みも生まれた、と楠瀬氏は語る。「Cのクリエイティブは、直接的にコンバージョンとして数値が出るので効果がわかりやすい。一方で、Aのクリエイティブはサイトへのセッション数こそ増えるものの、コンバージョンが増加することはない。このような場合、Aの効果をどのように評価したらよいのか、判断が難しい」。
そこでヤフーが提案したのが、予測ファネルの2番目の活用ポイントとなる「顧客層の可視化」だ。三村氏は次のように説明する。「セッションはあるがコンバージョンしないのであれば、その顧客層を具体的に知っておく必要がある。クリエイティブ制作の際の仮説構築においても、それは有効になるはずだ」。
さらにヤフーは、各ユーザー群のデータに基づいて階層ごとにペルソナを設定。その結果、コンバージョンから遠いとされたAのペルソナは「趣味や興味の幅が広い活動的なビジネスマン」であることが確認された。つまり、現在の仕事に特に不満はなく、それよりも生活を楽しむことを重視しているということであり、Bの「ライフステージに変化がある」 、Cの「転職活動を行っている」というペルソナと比較すると、Aではコンバージョンが伸びなかった理由も理解できる。
楠瀬氏はこう語る。「このペルソナも、我々が立てた仮説に近かった。ただ、その仮説は定性データに過ぎない。それが、ヤフーのデータに紐付き数値として立証できたという点が重要なポイントであり、今後の取り組みに活かしていきたい部分だ」。
定性データを定量的に裏付ける上でも予測ファネルの役割が大きかったと楠瀬氏は話す。
予測ファネル活用で顧客を育成する
予測ファネルの活用は、広告の効果測定にとどまらない。三村氏は「上位スコア層、つまり下位ファネルが増えれば、売上やリードは拡大する。そのためには上位ファネルや中位ファネルの育成が不可欠だ」とし、続ける。「予測ファネルを活用すれば、オーディエンスの態度変容を正確な数値で検証できる。その結果、顧客育成に向けてのPDCAを回しやすくなるはずだ」。
楠瀬氏も、顧客を育成するという視点の重要性に同意する。「現状の反省点として、上位ファネルに対し、コンバージョンにつなげるための広告を当てすぎている場合があると考えている。今回の検証結果を見て、上位ファネルには上位ファネルに合わせた広告を展開し、スコアの変化を確認しながら育成していく必要があると感じた」。
マーケティング施策において、デジタルとマスは、それぞれの強みを活かしながらこれからも共存していく。そこでより大きなパフォーマンスをあげるためにも、適切なコスト配分を実現する、効果検証が可能なスキームの構築は必須だ。
最後に、三村氏はこう締めくくった。「予測ファネルを活用しながら、オーディエンスを高スコアへ育成するために、どのようなKPIを設定し、どのような施策を打つべきか。ぜひこれからもビズリーチと取り組みを進めていきたい」。
マーケティングアプローチの文脈にありながら、デジタルとマスはしばしば分断されてきたが、その状況は変わりつつある。ビズリーチはヤフーが有する膨大なデータアセットを活用し、デジタルとマスの効果を最大化する挑戦を続けていく。
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Written by DIGIDAY Brand STUDIO(滝口雅志)