外国人労働者の在留資格「特定技能」について、政府は長期就労や家族帯同を認める業種を広げる方針だという。これは2019年にできた「特定技能2号」の範囲を2分野から14分野に拡大し、実質的に永住資格を与えるものだ。
これを「移民の容認だ」というのは当たっているが、「日本文化が移民に破壊される」というのは杞憂である。この2年間で入国した特定技能の労働者は3.5万人(図の「特定活動」に含まれる)。すべての外国人労働者を合計しても172万人で、労働人口の2%余りしかいない。
これはEU諸国の外国人労働者が12~15%にのぼるのとは大きな違いで、増加率も2016年で頭打ちだ。昨年はコロナで入国が制限されたことも大きな原因だが、5年の期限つきで家族も呼べないという条件では、来てくれる労働者がいないのだ。それが今回の制限緩和の理由である。
「特定技能」は低賃金労働の輸入
このように移民の制限を緩和する理由は、深刻な人手不足である。生産年齢人口は、2035年までに1000万人減る。3K(きつい・汚い・危険)職種では慢性的に人手不足で、日本人だけでは業務が回らない――というのだが、この話はおかしくないだろうか。
3Kだろうと激務だろうと、賃金を上げれば人は雇える。たとえば建設作業員の時給を1万円にすれば、定員は100%埋まるだろう。人手不足になるのは、賃金が低すぎるからだ。
だから人手不足の解決策は簡単である。賃金を上げればいいのだ。それをしないで財界が移民を求めるのは、低賃金労働を輸入して、劣悪な労働条件と非効率的な企業を守るためだ。
業種別にみると、建設・医療・介護は人手不足が深刻だが、一般事務は慢性的に過剰雇用で、企業別にみると、人手不足は地方の中小企業に集中している。こういう雇用のミスマッチが大きいことが日本の労働市場の特徴だ。
この図の左軸と右軸を見るとわかるが、パートタイムの時給は上がっても、正社員のほぼ半分である。高給の正社員(特に事務系)を過剰雇用しているから賃金原資がなくなり、労働移動も少ないため人手不足になるのだ。
このゆがみは、コロナで拡大した。雇用調整助成金の申請は400万件を超え、支給額の累計は4兆円を超えて雇用保険会計は破綻に瀕している。これで失業は防げるが、社内失業は500万人ともいわれる。
特に生産性の低い地方の中小企業が人手不足に陥っているが、規制や補助金で守られているため、淘汰されない。こういうゆがみを放置したまま外国人労働者を増やすと、中小企業で低賃金労働者として雇われ、3K職場に配属されて低賃金労働が温存される。
それが「技能実習生」で起こったことだ。東南アジアから実習生を紹介する業者の話を聞いたことがあるが、日本の企業は彼らを3Kの現場に回し、差別がひどいので、実習生は帰国すると二度と日本に来ないという。
自由な移民は福祉国家と両立しない
社会保障も維持できなくなるおそれがある。若い外国人労働者が増えると、年金保険料の負担は緩和できるが、老後まで日本に住む労働者は少ない。彼らは自分のもらえない年金の保険料を負担するだろうか。
レベルの高い日本の医療保険は、悪用されるおそれが強い。本国の家族に対する医療給付が国会で問題になったが、今でも短期滞在で国民健康保険に加入し、高額医療を3割負担で受ける外国人留学生が問題になっている。
ミルトン・フリードマンは「自由な移民は福祉国家と両立しない」と述べた。移民を入れると社会保障にただ乗りする人が増えるからだ。国家が国民を保護し、国民がそのコストを負担する社会保障は、人生が国内で完結しないグローバル時代には適していない。
無原則に移民を増やすと、彼らが都市の一部に集まってスラム化し、言葉が通じなくなって社会が混乱し、社会に深刻な亀裂が生まれて後戻りできないというのがヨーロッパの経験である。
しかし日本ではよくも悪くも、ヨーロッパのような移民の大量受け入れはできず、人手不足は続くだろう。それを解決する鍵を握っているのは外国人労働者ではなく、正社員を過剰保護する労働市場の改革である。