ドイツでも「孔子学院」閉鎖の動き

アゴラ 言論プラットフォーム

独週刊誌シュピーゲルによると、ドイツのアニヤ・カルリチェク教育研究相(Anja Karliczek)は国内の大学17カ所で設置されている「孔子学院」を閉鎖する方向で検討しているという。直接のきっかけは、デュースブルク・エッセン大学とハノーファー大学に設置された「孔子学院」で予定されていたドイツ人作家らの著書『習近平伝』の2回のリモート読書会に対し、駐独中国大使館関係者が著書の内容を不服として抗議したことだ。海外中国メディア「大紀元」(独語版、11月1日付)によれば、同相は各大学に対して「孔子学院」との協力関係の見直しを要請し、連邦憲法擁護庁や連邦情報局と緻密に連携するよう助言した書簡を送っている。

ウィーン大学キャンパス内にある「孔子学院」(2013年9月21日、撮影)

「孔子学院」は、中国共産党の対外宣伝組織とされる中国語教育機関だ。2004年に設立された「孔子学院」は中国政府教育部(文部科学省)の下部組織・国家漢語国際推進指導小組弁公室(漢弁)が管轄し、海外の大学や教育機関と提携して、中国語や中国文化の普及、中国との友好関係醸成を目的としているといわれているが、実際は中国共産党政権の情報機関の役割を果たしてきた。「孔子学院」は昨年6月の時点で世界154カ国と地域に支部を持ち、トータル5448の「孔子学院」(大学やカレッジ向け)と1193の「孔子課堂」(初中高等教育向け)を有している。

「孔子学院」閉鎖の動きは今始まったばかりではない。「孔子学院が中国共産党の宣伝機関」(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのクリストファー・ヒュース教授)と受け取られだし、トランプ米政権時代、「大学教授、知識人をオルグし、親中派にすることが狙い」として、2018年には米国で学生数が2番目に多いテキサス州のA&M大学内にあった「孔子学院」の閉鎖が決まるなど、米大学での孔子学院が次々と閉鎖されていった(「米大学で『孔子学院』閉鎖の動き」2018年4月13日参考)。

米国以外では、カナダ、フランス、ベルギー、スウェーデンでも孔子学院は次々と閉鎖された。ちなみに、仏上院は10月5日、「中国はフランスで開いている孔子学院を通じて仏の大学や学術界で組織的に政治的影響を行使している」と警告を発した報告書「大学における欧州以外からの国の影響」を発表している。同報告書は243頁に及ぶもので、アンドレ・ガットリン上院外交・貿易・軍事委員会副委員長が9月29日に上院に提出したものだ(「『孔子学院』は中国対外宣伝機関」2013年9月26日参考)。

「孔子学院」では、中国新疆ウイグル自治区での民族抹殺計画、法輪功信者への強制臓器摘出問題、宗教団体に対する迫害、人権蹂躙などについては学習教材から外されている。中国の現状を正しく紹介する教育機関ではなく、中国共産党政権の思想をプロパガンダする機関であることが一目瞭然だ。中国共産党政権は海外ハイレベル人材招致プログラム「千人計画」を推進中だが、「孔子学院」はその手先となって海外知識人をオルグしているわけだ。

「孔子学院」に繋がった親中派の大学教授や知識人は中国共産党政府の政策を学会やメディアに広げる。中国側は定期的に親中派教授たちを北京に招待して、接待する。英語で「パンダハガー」(Panda Hugger)と呼ばれる「媚中派」が誕生するわけだ。ちなみに、調査ジャーナリストで「武漢で現実に起きたこと」(「What Really Happened In Wuhan」)の著者、シャリー・マークソン女史は中国がオーストラリア国内で実施してきた「千人計画」の実態を詳細に調査している。

ドイツのシンクタンク、メルカートア中国問題研究所とベルリンのグローバル・パブリック政策研究所(GPPi)は2018年1月5日、「欧州でのロシアの影響はフェイクニュース止まりだが、中国の場合、急速に発展する国民経済を背景に欧州政治の意思決定機関に直接食い込んできた。中国は欧州の扉を叩くだけではなく、既に入り込み、EUの政策決定を操作してきた」と警告している。

ドイツの自由民主党(FDP)の教育問題専門家、イェンス・ブランデンブルク氏は、「ドイツの学校に対する孔子学院の影響を無視できない。無害な茶会や言語コースの背後には権威主義政権の冷たいプロパガンダが隠されている」と述べている。

中国共産党は7月1日、党創建100周年を祝うイベントを行ったが、習近平国家主席は記念演説の中で、「だれであれ中国を刺激する妄想をするならば、14億中国人民が血と肉で築き上げた鋼鉄の長城の前に頭が割れ血を流すだろう」と警告を発しているのだ。さらに、「中国人民は他国の人民をだまし、圧迫し、奴隷として働かせなかった。過去にもしなかったし、現在もしておらず、将来にもない。同時に外部勢力がだまし、圧迫し、われわれを奴隷として働かせることを許さない」と強調した。これは中国を植民地化した過去の大国への恨み節を披露する一方、将来、世界の大国となっていくという習氏の決意表明だった。

その習近平主席のラッパのもと、「孔子学院」は中国共産党の威光を世界に広げるプロパガンダ部隊として活躍してきたが、少なくとも欧米諸国ではその実態が明らかになるにつれ、次々と閉鎖に追い込まれてきているわけだ。

参考までに、「大紀元」によると、日本にも14カ所の大学で「孔子学院」が運営されているという。日本政府は国内の孔子学院の実態を調査し、不正な情報活動などが見つかったならば、即閉鎖などの対応を取るべきだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年11月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

タイトルとURLをコピーしました