出勤日増やす方針の経団連に指摘 – PRESIDENT Online

BLOGOS

経団連は、政府が呼びかけてきた「出勤者数の7割削減」について、「科学的な知見」を踏まえて見直すべきだと提言している。これに対し「テレワークをやめろというのか」という批判の声がある。働き方評論家の常見陽平さんは「経団連の提言も、それを批判する人も本質を見失っている。出社と在宅を二項対立で考えるべきではない」という――。


※写真はイメージです – 写真=iStock.com/bee32

「体質が古い」といった批判の声

国内における新型コロナウイルスの感染者数が落ち着いてきた。東京や大阪などの大都市でも新規感染者数が30人以下という日が続いているし、重症者や死者も減っている。ワクチン接種が進んだことや、接種後もマスクをつけるなど「新しい行動様式」が徹底されていることなどが要因ではないかと推測されている。ワクチン接種が先に進んでいた欧米諸国で感染が再拡大している。第6波の到来が懸念され、「人類が新型コロナに打ち勝った」と宣言するのはまだ早いが、少なくとも国内において状況は改善されつつある。

感染が落ち着く中で気になるのは、「コロナ後は以前のような働き方に戻るのか」という点だろう。皆さんの勤務先も緊急事態宣言の解除や、感染者数の減少などから、働き方の変化が表れているのではないか。

財界や大手企業各社から、今後の働き方に関する方針が発表され、賛否を呼んでいる。政府が新型コロナ感染拡大対策として呼びかけてきたテレワークなどによる「出勤者数の7割削減」について、経団連は見直すべきだとする提言を出した。楽天は週あたりの出社を4日とする方針を打ち出した。これらの方針に対して、ネット上では「体質が古い」「いまさら出社なんて」「これをやらせようとするのは体育会体質」というような声が散見された。

出社させることは古い考え方なのか

気持ちはわかる。ただ、少しだけ冷静になりたい。「人類が新型コロナに打ち勝った。だから全面的に出社を再開するべきだ」という意見はあまりに牧歌的だが、「出社など古い」と断じる見方もまた硬直化したものの見方だ。別に出社再開を礼賛し、テレワークの実施を批判するわけではない。論じ方が二重、三重にこじれているのである。

本稿での問題意識を先に述べると次のようになる。

1.そもそもテレワークの実施率は高かったのか(時代錯誤と断じられるほど、みんながやっているものなのか)
2.現状のテレワーク(特に在宅勤務)に問題はないのか(出社日数を増やすことは本当に非合理的なのか)
3.感染症対策から新しい働き方の実現へと、テレワーク実施の目的を変えなくてはならないのではないか

それぞれ順に考えてみよう。

「テレワーク再開は時代遅れ」と言っているのはどこの誰だろう

1つ目の論点「そもそもテレワークの実施率は高かったのか」について考えてみる。現状のテレワーク実施率を確認してみよう。テレワークに関する調査結果は政府、自治体、民間の研究所、人材ビジネス企業などさまざまな機関が発表しているが、ここでは、東京都のデータを用いる。2020年4月から毎月、定点観測データとして調査と発表が行われてきたこと、日本、いや世界でも電車による通勤ラッシュが激しいエリアとして知られ、人流の制限による感染症対策が叫ばれたエリアだからである。コロナ前から東京五輪に向け、テレワーク導入が推進されていた(少なくとも呼びかけられていた)エリアだ。


出典=東京都ホームページ

東京都でのテレワークの実施率(導入率)は、コロナ前の20年3月には24.0%だったが、初の緊急事態宣言が発出された同年4月には62.7%にまで上がった。その後、宣言解除などにより実施率は低下し、同年12月には51.4%まで下がったが、21年に入り、再度緊急事態宣言が発令され、1月後半には60%台となった。21年はほぼ55.0%以上で推移しており、感染が拡大した9月には65.0%となった。緊急事態宣言が解除された21年10月には55.4%となっている。コロナ禍以降、おおむね約6割の企業がテレワークを実施しているといえる。

なお、実施率は企業規模によってメリハリがある。21年10月は300人以上の企業では84.5%が実施していたが、100〜299人の企業で57.0%、30〜99人の企業で47.0%だった。


出典=東京都ホームページ



出典=東京都ホームページ

週の中での実施日数は週3日以上が48.7%で、週5日は22.7%だった。選択肢としては、週1日のみが最も多く32.2%となっている。東京都が発表した資料では「週3日以上が48.7%」と表記されているが、これは印象操作ではないかと思ってしまう。週2日以内が51.3%とも言えるのだ。