森元首相 五輪やるしかなかった – 渡邉裕二

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前千葉県知事で俳優の森田健作氏がパーソナリティーを務めるFM NACK5とニッポン放送のラジオ番組に元内閣総理大臣で東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の前会長・森喜朗氏(現・公益財団法人笹川スポーツ財団特別顧問)がゲスト出演。

先頃、閉幕した「東京オリンピック・パラリンピック2020」について、多くの批判があったことを踏まえながらも「一番苦労されてきたアスリートの皆さんのためにも、(中止・延期せずに)やるしかなかった」と現在の心境を述べた上で、前会長としての総括をした。

森前会長が出演したラジオ番組は3日放送のFM NACK5「森田健作 青春もぎたて朝一番!」(5時30分〜)とニッポン放送「森田健作 青春の勲章は くじけない心」(17時30分〜)の2本。いずれも、4月からスタートした番組だが、7月には菅義偉前総理もゲスト出演し、コロナウイルスの感染対策やワクチン接種の見通しについて熱く語っていた。

今回の森前会長のゲスト出演は、菅前総理に続くものだったが、東京オリ・パラ閉幕後のメディア出演としては初めてのものとなった。外部から五輪を取材してきたフリージャーナリストは、森前会長の番組出演について、

「開幕中から森前会長に対して取材を申し込んでいたメディアが多数あったと聞いています。森前会長が東京五輪に最初から関わってきたことは誰もが分かっていることですし、数多くの問題が噴出する中で開催への道筋を作ってきたのも森前会長だったわけです。

今年2月に女性蔑視発言で辞任し、橋本聖子参院議員が後任の会長になりましたが、やはり森前会長の意向は無視出来なかったはずです。そうした意味でも、東京オリ・パラについて森前会長の総括が重要になってきます。

ところが、パラリンピックが閉幕する直前に菅前総理が総裁選不出馬を明らかにしたことで、メディアも国民の目も一気に自民党の総裁選に移ってしまい、気づけば、あれだけ国民を二分して騒がれた東京オリ・パラはほとんど語られなくなってしまいました。

しかも今回、森田氏のラジオ番組に森前会長が出演したことに対して『森田が出しゃばるな』『嫌われ者同士』と言った批判もあったようですが、それこそがいい加減で無責任な批判ではないでしょうか。そんな批判ばかりしているから、いつまで経っても成熟した国家にならないのです。森田氏も千葉県知事として東京オリ・パラに関わってきた人物で、東京オリ・パラについて総括する責任があります。

そう考えると、森前会長とは30年来の親交だとは言え、自らの番組にゲストとして招いて語り合ったのは大いに評価すべきことだと思います。本来なら、開催に対して批判を繰り返してきたテレビ局…、それこそテレビ朝日あたりが森前会長以下、五輪に関わってきた関係者を一堂に集めて特番を編成して総括、論議すべきことなのです」

と指摘した。

無観客開催の赤字900億円よりアスリートを優先

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番組の中で森前会長は、

「最初から無観客開催を訴えていたんだよ。政府の分科会でも人の流れを作らないことになっていたから。だったら無観客にすべきだと」

とし、その上で、

「チケット販売で損失する900億円ばかりが大きな話題になっていたが、まずはアスリートファーストで考えなければならないと思っていた。900億円の損失は後で考えたらいいんだよ。とにかく一番、努力して苦労してきたのは選手の皆さん方であって、特にパラリンピックの選手は本当に大変だからね。やり直すことも出来ないアスリートもいるだろうし、年齢的にも、これが最後のチャンスだと頑張ってきたアスリートだっているわけですからね」

さらに、開催までのメディアからの批判についても言及。

「朝日新聞や毎日新聞は怖いから。みんな言いたがらないけど、朝日新聞なんて社説にまで反対文を出したわけでしょ。そのくせスポンサーになっている。それだけ批判するならスポンサーを降りればよかったんですよ。テレビも、あれだけ批判をしておいて、いざ始まったら連日、中継をするし、新聞も一面から社会面まで全部オリンピックだったからね」

と、やや呆れ気味に語ったかと思えば、その一方では組織的な問題も指摘する。

「新聞社の連中は我々のタテ割組織ばかりを批判しますが、実は、新聞社ほどタテ割の組織はないですよ。政治部、社会部、経済部、整理部…いろいろあるけど、その中でもスポーツ部は比較的に若い人が多いのかな、だからか社内でも発言権がないのかもしれないね。そもそも新聞社というのは政治部とか社会部、経済部の経験者が、その後、デスクになり局長、役員になっていくから、そういった連中の発言が強くなる」

さすが産業経済新聞出身の政治家だっただけあって新聞社に対しては手厳しい?

若い選手が活躍出来る環境を作っていくことも重要

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また、森田氏も千葉県知事時代を振り返って、千葉県一宮町の釣ヶ崎海岸で行われたサーフィン競技に触れ、

「誘致の際に本当にご尽力いただいた。清潔なトイレの必要性など様々なアドバイスをいただいた。おかげで町が生まれ変わり、リゾート地のようになった。宿泊施設なども増えている。これから世界のサーフィンファンが一宮町や房総半島にやってくるはず」

と感謝の弁を述べると、森前会長は、

「最初、野球と空手を新種目にするため頑張った。とにかくメダル獲得の可能性が大きかったからね。ところがサーフィンやスケートボード、それにスポーツクライミングとか…若い人たちの頑張った競技が東京五輪では多かった。本来なら、各連盟や組織がバックアップするものだけど、彼らにはそれがない。これからは、そういった若い選手が活躍出来る環境を作っていくことも重要だろう」

と振り返った。森田氏は、

「ラグビーをやっておられた森会長は体が大きくて、とっつきにくい印象があると思う。だけど、実は繊細でジョークがお好きな方。そのジョークが時に言葉尻だけを捉えて批判されてしまうことがあるけれど、本当はそんな方ではないということを知っていただきたい」

とし、その上で、

「一国民としてやってよかったと思う。コロナ禍での勇気ある開催に海外から感謝の声がたくさん届いているし、すべての日本人の真心が世界に届いたはず」 と、世界的スポーツ大会の残したレガシーを強調していた。

いずれにしても批判ばかりでは何も進まないが、今後、東京オリ・パラについて再検証するにしても、まず総括をすることは必要だろう。

ちなみに、森前会長の出演する同番組の続編は、FM NACK5が10月10、17日にも予定している他、ニッポン放送も10月10日の放送を予定しているそうだ。

渡邉裕二
芸能ジャーナリスト

芸能ジャーナリスト。静岡県御殿場市出身。松山千春の自伝的小説「足寄より」をCDドラマ化し(ユニバーサルミュージック)、その後、映画、舞台化。主な著書に「酒井法子 孤独なうさぎ」(双葉社)など。

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