職場における新型コロナウイルス感染症の脅威は、オフィス再開にまつわる懸念にとどまらない。日々の通勤もまた労働者たちに、大きな重荷としてのしかかる。
リンクトイン(LinkedIn)がフルタイムで働く米国の労働者約3000人を対象におこなった調査によると、通勤時のコロナ感染に不安を感じる従業員は約4分の1を占め、コロナ禍以前よりも通勤に前向きでなくなったと回答した従業員も同じく4分の1にのぼった。また、安全と感じられる交通手段を利用できる状況にないという回答は13%だった。
通勤に対する忌避感の理由は、感染不安だけではないようだ。回答者の約40%が「コロナ禍によって在宅勤務を余儀なくされたが、日々の通勤に伴う不安やストレスから解放され、精神衛生上、プラスの効果があった」と答えている。
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さらに、通勤の減少が自然環境や地球温暖化問題に与える影響についても、広く報告されている。米労働統計局が今年の夏に行った調査によると、コロナ禍中、ある1日の活動で移動に時間を費やした人の割合は17%減少し、また、実際に移動した人の移動時間も常より短かくなっていた。
確かに、日々の通勤は、営業活動の再開に伴って、勤務の柔軟性を左右する大きな要因として浮上している。
収束後も柔軟な態度で臨むべき
ニューヨークの人材紹介会社、サシャ・ザ・メンチ(Sasha The Mensch)の創業者でプレジデントのサシャ・マーテンズ氏はこう語る。「通勤から開放されたエージェンシーの従業員たちは、生活のなかで自分の時間を享受できるようになったが、その反面、仕事と家庭の線引きは曖昧になった」。
マーテンズ氏によると、在宅勤務の従業員たちは、ビデオ会議への「常時ログイン」を当たり前のように求められ、電子メールの受信トレイやSlackのチャンネルも四六時中忙しい状態だという。こうしたなか、彼らは当然、会社に対して就業時間の明確化を要望する。そこには無論、通勤時間も含まれる。同氏はさらにこう続けた。「2022年には、多くのエージェンシーがオフィス勤務を再開する。勤務時間に関するこうした要望に対応できなければ、優秀な人材の獲得や維持は難しくなるだろう」。
ボストンのソフトウェア会社フューズ(Fuze)に所属し、フューチャリストとして職場の未来を描くリサ・ウォーカー氏はこう述べている。「通勤の必要がなくなれば、家族と過ごす時間を増やし、仕事を始める前に心の準備を整え、電話会議にしろ電子メールにしろ、すぐに対応の必要な作業に最高のコンディションで臨むことができる」。
雇用主たちは、コロナ禍の経験を通じて、在宅勤務の従業員も、自分の勤務時間を管理し、オフィス勤務と同様の生産性を維持できると学習した。これを念頭に、たとえコロナ禍が収束しても、企業は従業員やテレワークに対して柔軟な態度で臨むべきだとウォーカー氏は話し、こう警告する。「従業員を無理矢理オフィス勤務に戻し、2019年に時計の針を巻き戻そうとする企業は、深刻な人材流出を免れない」。
燃え尽きは在宅勤務せいではない
この夏、フューズが9000人近くの労働者を対象に行った世界的な調査では、ポストコロナ時代の働き方のあるべき姿として、フレックスワークを挙げる人が75%にのぼった。その根底には、通勤にまつわる精神衛生上の懸念も確かにあるだろうとウォーカー氏は指摘する。にもかかわらず、従業員の福利厚生の要素として、通勤を軽視する雇用主があまりにも多い。
「コロナ禍の収束を機に、従業員を長時間の通勤と硬直的な勤務時間に戻したいと考える雇用主がいるのは残念なことだ」とウォーカー氏は嘆く。「労働者の燃え尽きは在宅勤務のせいではなく、コロナ禍のせいだ」。
ウォーカー氏も指摘するところだが、大多数の労働者は、できるなら辛い通勤の日々には戻りたくないと考えている。通勤にかかる2時間を自由に使うことができれば、それは生活の質の向上につながると、誰もが気づいてしまったからだ。それでも、毎日必須ではなく、自分で出社すると決めた日に限るなら、通勤してもよいと考える人は少なくない。
フューズの経営陣は、どの従業員も、フルタイムでオフィスに復帰する必要はないと明言しているが、一定の時間、オフィスで仕事をしたい従業員が少なくないことも認めている。「コロナ禍を機に、私を含む一部の従業員は通勤圏外へ転居している。オフィス勤務を再開するとしても、長距離通勤のストレスを軽減するために、限定的な出社となるだろう」と、ウォーカー氏は話す。「それでも、月に1度くらいはボストンに行くのが楽しみだ」。
元の勤務形態に戻す企業は11%
日々の通勤を全廃しないまでも、せめて減らしたいという従業員の要望は、デイベース(Daybase)のようなコンセプトの台頭に道をひらいた。今年創業したばかりのデイベースは、ワークスペースのプロバイダーとして、職場とホームオフィスの中間に位置する第3の選択肢を謳っている。
ウィーワーク(WeWork)の元幹部が設立したデイベースは、オフィス勤務と在宅勤務のハイブリッドモデルを提案する。通勤者の生活圏内に、本格的なオフィス環境を整えたオンデマンド型のワークスポットを設置することで、このモデルを実現するという。通勤、在宅勤務、9時5時勤務への忌避感などにまつわる諸々の問題に、有効な解決策を提示したいとしている。
ウィーワークで戦略事業の責任者を務めていたデイベースのジョエル・スタインハウス最高経営責任者(CEO)はこう述べている。「人々の関心事は、自分の会社のコロナ対策ではなく、むしろ、通勤途中や職場で接触する人々の行動にある。もっと具体的にいうなら、ワクチン未接種の同僚と交わることで、デルタ型変異株を家庭に持ち帰り、子どもたちに感染させてしまう可能性を恐れている」。
デイベースは、全米企業経済協会による調査を引用し、コロナ禍以前の勤務形態に戻す予定の企業は11%に過ぎないと指摘している。
スタインハウス氏は、日々の通勤が過去のものとなりつつあるいま、「新しい生き方や働き方のためのソリューションを求める労働者は、今後ますます増えるだろう」と見ている。
[原文:Why fear and dread around commuting are driving the reality of the new workplace]
TONY CASE(翻訳:英じゅんこ、編集:長田真)