梅肉とサメの軟骨をあえた、基本的に居酒屋でしか出会うことのない料理「梅水晶」。
なかなか気軽に手に入れることのできない食材である「サメの軟骨」の代わりになる食材を見つけ、家でも気軽に梅水晶気分が味わえる「ジェネリック梅水晶」を作ることはできないでしょうか?
「梅水晶」をご存知でしょうか?
主に居酒屋で、酒のつまみとしてのみ消費される料理で、端的に言うと「梅干しとサメの軟骨をあえたもの」。
単に酔っぱらうためだけでなく、少しずつ酒場自体の味わいの良さに気づきはじめた20代の終わりごろ、その存在を知り、なんとなく通っぽい気がして、メニューにあれば必ず頼むようになりました。
梅干しのキリッとした酸味と、味に主張はないんだけどコリコリと小気味いいサメ軟骨の食感が相まって、ほんのひと口でぐいぐい酒が飲めてしまうとても優秀なおつまみなんですよね。
ちなみに調べてみたところ、この梅水晶、魚を捕るための網が度々破られたり、暴れて人がけがをしてしまうなど厄介な存在で、基本捨てられてしまっていたサメを有効利用しようと、大阪の「サブ水産株式会社」という会社が開発し、「元祖 梅水晶」という名前をつけて売り出した商品だそう。
その粋な存在感から、はるか昔から酒飲みの間で愛されてきた一品なんだろうな〜なんて勝手に思ってたので、ちょっと意外でした。
緊急事態宣言が明け、久しぶりに酒場でお酒が飲めるようになった先日、ふらりと入った酒場のメニューにこの梅水晶がありまして、「お〜! 久しぶりじゃん!」みたいな感じで頼んでみたところ、やっぱり美味しい。というか、本当に酒場でしか出会わない料理なのですっかりその存在自体を忘れちゃってたことに、ちょっと反省したほど。
もっと気軽に、家でも食べられたらいいのにな〜。と思えど、ハードルはやはり「サメの軟骨」ですよね。スーパーで売られてるのを見たことがない。
となれば、なにか手軽に手に入る食材で、なるべく似た味のもの、「ジェネリック梅水晶」は作れないだろうか?
そこで、一般的に食感が「コリコリ」だと表現される食材をあれこれ買ってきて、梅肉と、ほんの少しの白だしとあえ、食べ比べてみることにしましょう。
はい、準備は完了。果たしてこのなかに、我が梅水晶欲を満たしてくれる組み合わせはあるのか!?
梅“ヤゲンナンコツ”水晶
いきなり大本命なのですが、鶏のヤゲンナンコツからいってみましょう。
焼鳥屋にあると必ず頼む僕の大好物で、クセのないコリコリとした食感がかなり近いんじゃないかと、真っ先に思い浮かんだ食材。
そこでスーパーで買ってきて、さっとゆでてみたところ、嬉しいことではあるんですが、ナンコツの周りにかなりの肉がついてますね。
この、ナンコツのほうのみを包丁で細長く刻み、梅干しとあえれば、
それではいざ実食……コリコリコリ……あれ? う〜む、なるほど。結果は……思ってたよりも微妙!
というのも、少しナンコツに残った肉が旨味となり、もしかしたら梅水晶より美味しいくらいのものができちゃうんじゃないの? とすら予想してたんですが、これが逆効果。旨味の主張がありすぎて、脳がどうしても「鶏料理」と判断してしまいます。食感はかなり近いんだけど、梅水晶ではない。どうせやるなら、徹底的に肉をこそいで、もっとよ〜く洗ったほうがいいのかもしれません。
というわけで、「梅水晶度」と、個人的な料理としての「好き度」を5段階評価するとこんな感じ。
梅水晶度 ★★★☆☆
好き度 ★★★☆☆
ちなみに今回の検証とは関係ないことですが、ナンコツから取り除いた周りの肉が、旨味が濃くてめっちゃうまい! 醤油をかけるだけで最高のつまみ。ヤゲンナンコツのボイル、今後我が家のおつまみの定番となること間違いなし!
梅“はるさめ”水晶
続いての食材は、はるさめ。今回用意したなかでこれだけは、特に「コリコリ」と表現される食感ではありません。が、見た目が近い気がしてどうしても試してみたかったんです。熱湯でさっとゆで、硬さを残しつつも食べられるギリギリくらいの段階で引き上げれば、どうにかならないでしょうか?
こいつを刻んで梅肉とあえれば、
ところがですね〜、これが、当たり前ですがむにゃむにゃと柔らかく、ぜんぜん別物。見た目が似てるぶん、食べた瞬間に脳が混乱します。
なにも知らない友達に「はい、梅水晶だよ」と出して驚かせる“梅水晶ドッキリ”を仕掛けたいときにのみ、意味のある料理かな。
梅水晶度 ★☆☆☆☆
好き度 ★★☆☆☆
梅“つぶわさ”水晶
ゆでたつぶ貝に味つけをしてわさびとあえた「つぶわさ」を買ってきて、いったん流水で洗って水気をよく拭きとり、梅肉とあえてみました。
う〜ん、またしてもぜんぜんコリコリじゃないな〜。クニュクニュだ。ふだんコリコリしてると思って食べてるもの、意外とそうでもないんだなってことに気づかされます。
ただ、梅水晶度を抜きにしてみると味は抜群! 日本酒のつまみに最高ですよこいつは。
梅水晶度 ★★☆☆☆
好き度 ★★★★☆
梅“ミミガー”水晶
豚耳をボイルし、薄い塩味がつけてあるおつまみ用のミミガーで。
個人的にかなり期待してた一品だったんですが、これもあれだ、ヤゲンナンコツのパターン。噛んでいるとじわじわ豚の旨味が出てきて、どうしても梅水晶とは別物に感じてしまいますね。コリコリ感も記憶よりだいぶ低め。
梅水晶度 ★★☆☆☆
好き度 ★★☆☆☆
梅“中華くらげ”水晶
中華風に味つけしてあるくらげのおつまみ。こちらも流水でさっと洗いって水気を拭きとり、気持ちだけでも味をシンプルにしてから梅肉とあえてみました。
見た目は今まででいちばん遠いんですが、これが意外にも梅水晶っぽい! もちろんまったく同じではないけど、肉類のような動物性の味がせず、シャキシャキ、コリコリとした食感で、梅水晶気分はだいぶ味わえます。
あと、シンプルにうまい!
梅水晶度 ★★★★☆
好き度 ★★★★★
梅“茎わかめ”水晶
「しその実茎わかめ」という商品名のごはんのおともで。
これまた記憶よりコリコリしてないんだよな〜。というか、サメ軟骨のコリコリ感が群を抜いているということですね。あそこまでの食感の食材はなかなかないというか。
しその実と梅肉をあえた海藻ってことで、ご飯のおともには最高ですが。
梅水晶度 ★★★☆☆
好き度 ★★★★☆
梅“キクラゲ”水晶
商品名が「シャリシャリ梅キクラゲ」ということで、梅肉と合わないわけはなく。が、そもそもコリコリじゃなくて「シャリシャリ」を自称してるので、食感は違いますわな。
つーか、キクラゲをシャリシャリって表現してるの、独特!
梅水晶度 ★★★☆☆
好き度 ★★★★☆
ついに最強が決定
と、ここまで実験してきて思いついたことがあります。今回梅水晶風に調理してみた食材たち。どれにも個性や美味しさはあったけど、「これは梅水晶だ!」とまではいかなかった。
けれども惜しかったものもある。食感がいちばん近かったのは、鶏ナンコツ。それから、気分がもっとも出たのは、中華くらげ。ならば、それらを合わせてみるのはどうでだろう?
そこで、残っていたゆでナンコツを今一度よ〜く洗い、極力鶏の旨味をそぎ落とし、中華くらげとともに梅肉とあえてみました。
するとこれが、大ヒット! 今日食べてきたなかでいちばん梅水晶だ!
2種類の食材が混ざり合うことでよりコリコリ感が増し、また、鶏の旨味のほうはやんわりとするので、あまり気にならなくなります。
冒頭の本物の写真にはありませんでしたが、お店で頼む梅水晶って、大葉とともに出てくることも多くて、僕はその大葉で梅水晶をくるんで食べるのが大好きなんですね。そこでこのジェネリック梅水晶もそうやって食べてみたところ、さらに梅水晶!
家で梅水晶気分を満たす代用品としては、もうこれでいいんじゃないでしょうか。
梅水晶度 ★★★★★
好き度 ★★★★★
途中まではどうなることかと思っていた今回の検証。最後の思いつきによる合わせ技で、ちょっと強引ながら、なんとかゴールにたどり着くことができました。
ただまぁ、鶏のヤゲンナンコツと中華クラゲを買ってきて下ごしらえして、梅肉とあえてっていう工程は、ぶっちゃけちょっと面倒ではありますよね。
やっぱり、たま〜に酒場で本物を食べるくらいがちょうどいいのかな。梅水晶。
でも、万が一いつか禁断症状が出たとき、スーパーなどで手に入る食材でいつでもそれっぽいものが作れるというのは、心の余裕につながりますよね。