1. デジタルトランスフォーメーションに向けた実証実験4題
情報通信技術を利用するさまざまな社会実験が行われているが、今週は4つの事例を紹介する。いずれも社会的な課題を解決するための要素を含んでいて、情報通信技術や基盤の普及の結果、現実になりつつあるような要素を含んでいて、社会的なデジタル化へ適応する動きを感じる。
NTTドコモとNEXCO中日本は東名高速でAIによる渋滞予測を試みている。「携帯電話ネットワークの仕組みを利用して作成される『モバイル空間統計』のリアルタイム版とNEXCO中日本の過去の渋滞実績と規制情報をもとに構築した予測モデル」と説明されている。なお、予測結果は、NEXCO中日本の「東名の渋滞予測 TODAY」で公開する(ケータイWatch)。
また、NTTドコモと都市再生機構(UR都市機構)は、UR賃貸住宅の居住者をモニターとし、自動配送・遠隔操作ロボットによる配送実証実験を実施した。ロボットに対する住人のニーズ、機能性、安全性などを確認し、自動配送ロボットの有用性を検証する(ケータイWatch)。
さらに、NTTドコモ、エヌシーイー、電脳交通の3社では、デマンド型タクシー「のりあいタクシー」の運行を支援するモビリティーサービスの実証実験。従来の市民バスの路線再編に伴う代替となる交通手段とすべく、この「のりあいタクシー」を運行する。利用者は乗車の1時間前までにウェブか電話で予約をする。バスよりも利便性が高く、利用距離に応じた運賃設定であることがポイント(ケータイWatch)。
さらに、NHKはテレビを持たない人を対象として、インターネットでの番組配信を試験的実施する。検証項目は「提供するサービスの受容のされ方」「サービスの提供を通じた情報の多様性、多元性への貢献など公共放送の目的・意義の認知や評価のされ方」であるとしている(日経XTECH)。
2. Photoshopに「フェイク画像を見破る認証機能」を搭載――アドビ
画像や動画のフェイクは社会的な問題としてしばしば取り上げられてきた。技術的にも巧妙化していることにも驚かされる。
アドビ社では画像編集ソフトウェアのPhotoshopに「フェイク画像を見破る認証機能」を搭載したと発表した。同社で画像などのフェイクの拡散に対抗するため「Content Authenticity Initiative(コンテンツ認証イニシアチブ=CAI)」を立ち上げていて、その成果の1つということができる。仕組みとしては「制作中の画像の編集内容やアイデンティティ情報をキャプチャし、画像を書き出す際はその情報を改ざん不可能なメタデータとして画像に添付。コンテンツ認証に利用」するという。したがって、あくまでもPhotoshopで制作された画像に対して検出ができるということ、そして自分の作品がフェイクされることから守るという意味合いのように思われる(Impress Watch)。
また、同社はウェブ版のPhotoshop(ベータ)とIllustrator(プライベートベータ)もあわせて発表している。ネットワークによって複数のクリエイターがリアルタイムにコラボレーションできるようになることがその狙いだ(PC Watch)。
ニュースソース
- Photoshop、フェイク画像を見破る認証機能を搭載[Impress Watch]
- ブラウザ版PhotoshopやIllustratorが登場。Web活用でコラボレーションを強力に支援[PC Watch]
3. 凸版印刷が博物館ガイドシステムを開発
コロナ禍では国内外の美術館や博物館でも通常の営業は困難になっていた。そのようななか、デジタル技術を用いて、遠隔から収蔵品を閲覧できるような仕組みや高精細なデジタルデータを提供する動きなどが活発になっていた。これらについては、この連載でも何度か紹介をしてきた。
そして、今週、ここで紹介するのは凸版印刷が開発した「博物館ガイドシステム」だ。これはどちらかというと遠隔からではなく、現地で収蔵品を閲覧する際に用いるもので、「博物館の展示物にスマートフォンをかざすだけで、解説文やCG映像などを高精度に重ね合わせることできる」というシステムである。記事によれば「紙やボードの説明文やイラストより手軽に更新でき、展示物の裏側に回り込んで説明文を見る」ことを支援する(ITmedia)。
いずれもこれまでの収蔵品や施設のデジタル化という作業の上に成り立っていると考えられる。この1年あまりで大きくトランスフォーメーションが起こっている分野として要注目だ。
ニュースソース
- 展示物にスマホかざすと説明文やCG合成 凸版、博物館ガイドシステム発売[ITmedia]
4. マイナポータルで医療費の確認が可能に――デジタル庁
デジタル庁によると、11月中旬から「マイナポータル」で自分の医療費を確認できるようになる。開始時点では2021年9月以降の医療費が対象となり、診療日、医療機関名、金額などを参照できるとしている(ITmedia)。今後については、毎月11日ごろには前々月分までの分が参照できるようになるとみられる。自治体によっては「医療費の通知書」が定期的に郵送されてくるが、それを代替するものとなりそう。もちろん、参照した情報は「国税電子申告・納税システム(e-Tax)」での確定申告における医療費控除に利用できるようなので、いちいち明細を入力したり、合計金額を計算をしたりしなくても、インポートできるという意味なら助かる。
さらにデジタル庁は、新型コロナウイルスワクチンの電子接種証明書の仕様に関する意見募集の結果を公表している(ケータイWatch)。これを踏まえ、ユーザー向けのアプリは年内にも提供が始まる見通しだとしている。ポイントは、「利用者が自分でどの情報を提供するか、アプリ上で選べるようになる」というところだ。記事によれば、「接種済みであることのみ」「2次元コードのみ」「2次元コード+そこに含まれる情報」といった3レベルの表示方法から選択できるようだ。ただし、その活用方法についてはいまだ明確になってなく、有効に利用できるかどうかは今後の運用にかかっている。
5.「情報通信技術を活用する医療システム」の実現を目指すコンソーシアムが旗揚げ
AI、IoT、センシング、高精細な映像技術など、情報通信技術の医療への応用は活発である。そうしたなか、KDDI総合研究所と埼玉医科大学は「生活者一人一人のライフスタイルに合わせた健康管理や保健医療サービスを目指す」とするコンソーシアムを設立したと発表している。記事によれば「国際標準化されたIoTデータ流通プラットフォームを構築して、安心安全に「PHR」(パーソナルヘルスレコード)と呼ばれる健康管理データが地域や医療機関と連携される環境を目指す」としている(マイナビニュース)。
ネットワーク化されたなかでの利用を前提とするなら、鍵となるのは「国際標準化された」という部分だ。産業発展の歴史的な経緯はあったとしても、機器ベンダーごと、診療科ごとなどに異なるハードウェアインターフェースやデータ形式のままでは実現はできない。さらに、多くの不特定の利用者を想定するなら、必然的に標準化されたプラットフォームの上で実装せざるを得なくなる。インターネットの発展が取り組んできた話題そのものといってもいい。そういう意味で、こうしたコンソーシアムの役割は重要と思われるし、一歩進めて、その分野での標準化組織としての役割も期待するところだ。
ニュースソース
- ICTおよびIoTを利活用した医療システムの実現を目指すコンソーシアム設立[マイナビニュース]