CEATEC 2021 ONLINEが、2021年10月19日から開幕した。
昨年に引き続き、完全オンラインで開催されるCEATEC 2021 ONLINEのテーマは、「つながる社会、共創する未来」。スローガンは、「ニューノーマル社会と共に歩むCEATEC(CEATEC-Toward Society 5.0 with the New Normal)」とし、オンライン展示会場には、314社の企業・団体が出展。コンファレンスでは、150以上のセッションが用意され、会期中には15万人以上の来場を見込んでいる。
開催初日のコンファレンスとして注目を集めたのが、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)、NTTドコモ、マネーフォワードの3社の経営トップによる「デジタル変革の中で新たな社会のプラットフォームを創る~わたしたちの役割とグローバルな共創」と題したパネルデッスカッションだ。
金融事業や通信事業を行うそれぞれの企業や業界が、新たなデジタル社会において果たす役割や、必要となるビジネスモデルやプラットフォームのあるべき姿を議論する一方、業界を超えた共創や、持続可能な社会の実現に向けた各社の取り組みなどについて語る内容となった。
MUFGの存在意義を見直し、BaaS戦略としてNTTドコモやマネーフォワードと提携
三菱UFJフィナンシャル・グループの亀澤宏規社長兼グループCEOは、「コロナ禍で社会環境の変化が加速し、会社の存在意義が強く問われる時代になってきた。パーパス(存在意義)を定義しなおして、『世界が進むチカラになる』ことを新たに掲げた。また、中期経営計画では、デジタル、サステナビリティ、カルチャーの3つをキーワードにあげ、3年間に渡り変革を進め、金融デジタルプラットフォーマーになることを目指している」とし、「デジタル時代においては、顧客接点の在り方と、オープンであることが重要である。また、デジタル化の鍵は、全てがつながることであり、その上でデータをどう扱うかということである」などと述べた。
MUFGでは、新たな金融サービスとして、Banking as a Service(BaaS)を実現することも掲げているほか、NTTドコモとの協業として、dポイントが貯まるデジタル口座サービスを2022年中に開始することを発表。マネーフォワードとは中小企業向けオンラインファクタリング事業を提供する協業を発表している。
亀澤氏は、金融デジタルプラットフォーマーの定義について説明。「自分自身で強いインフラを持ち、自分たちでルールを決めて、多くの人を呼び込んで、一緒にサービスを提供するのがプラットフォームである。金融システムという安心・安全のインフラを活用し、MUFGが決めたルールの上で、さまざまな企業と組み、一緒になって、デジタルを活用したサービスを提供するのが金融デジタルプラットフォーマーである。金融サービスはさまざまな企業や業界に関与する。また、金融そのものがデジタルサーピスの一部になっている。MUFGは、金融が絡むデジタルのプラットフォームを作れるポジションにいると考えている」と述べながら、「まだまだ伝わりにくいという指摘もある。もう少し具体的に、私たちが目指す姿を見せていきたい」と語った。
また、かつて金融機関において、カード事業を切り分けたり、住宅ローン事業を切り出すといった動きがあり、これらを指してアンバンドリング化という表現が用いられたことを振り返りながら、「これから大切なのは、金融機能のアンバンドリング化ではなく、金融機能のモジュール化である。同様にさまざまな業界においても、機能のモジュール化が進み、機能と機能を組み合わせて、新たなサービスを提供するといったことができるようになる。ドコモのdポイントとMUFGの住宅ローンが結びついて新たなサービスを提供するといったことが、その一例だ。企業は自分が持つモジュールの価値を高めていくことが大切になる。MUFGが掲げたBaaSも、銀行の機能をモジュール化して提供し、実装するものになる」とした。
だが、「あまりにもモジュールに分解しすぎると、なにを使っていいかわからなくなり、組み合わせるとなにができるのかがわからなくなる。お客様には、組み合わせたモジュールをパッケージ化して、サービスを提供していく必要がある」とも述べた。
多くの企業はデジタルが経営の根幹に、マネーフォワードが果たしたビジネスモデルの変革
マネーフォワードの辻庸介社長CEOは、「マネーフォワードは2012年に創業したスタートアップ企業であり、テクノロジーを活用して、お金に関わる課題を解決することを目指している。現在、SaaS×Fintech領域で事業を展開しており、Money Forwardクラウドなどのバックオフィス向けSaaSでは16万件の課金ユーザー、Money Forward MEによる家庭向けのPFM(家計簿・資産管理)サービスでは1200万人以上の利用者がいる。新規事業開発とM&Aにより、事業領域を拡大してきた」とし、「多くの企業にとって、デジタルが経営の根幹になっている。100年以上続くりんご農園では、マネーフォワードの導入により、経理に関する入力作業の手間が激減し、業務負担は7割軽減。財務状況が分かるようになり、経営に専念できるようになった結果、売上げが2倍になった。デジタルは、業務の改善だけでなく、経営を変え、ビジネスモデルを変えることまで求められている。新たなチャレンジをする会社に使ってもらいたい」とした。
大企業とスタートアップ企業、それぞれの強みを生かしたイノベーションの形
一方、オープンイノベーションについても、それぞれが意見を述べた。
辻氏は、「大企業はいま持っている大きなオペレーションを維持することが優先され、むしろ、変えることがデメリットになる時期がある。そうしたときには、自分たちでやらずに、スタートアップ企業を支援して、技術が使えるようになるまで待つという方法もある。スタートアップ企業は、最初は何の役にも立てないが、実験を繰り返して、イノベーションを起していくことができる。私自身、失うものや守るものがないスタートアップ企業からスタートし、新たなものを作らないと存在価値がないとずっと思っている。環境の変化が激しいなかで、大企業もスタートップ企業も、お互いにオープンイノベーションを活用し、ユーザーに高い価値を提供していくことが大切である」とした。
丸山氏は、「ドコモは、コーポレートベンチャーキャピタルとして、100社以上を対象に、700億円規模の投資を行っている。投資するだけでなく、ビジネスを支援することを重視している。コワーキングスペースを無料で提供するといったことや、ドコモのビジネスに入ってもらい、協業するということもやっている」とする。
また、「オープンイノベーションなしには次の領域にはいけないということを実感している。大企業にはできないが、スタートアップであればできるということも多い。並んで会議をするだけで、スピードの違いなどが体感できる。進取に富んだ気質があり、新たなことを恐れずにやっている。ドコモも29年前に設立したときには、200~300人の会社。それがいまは3万5000人の正社員がいて、関係者を含めると10万人になる。大企業としての動き方に陥っている部分はある。スタートアップ企業からは影響を受けることが多い」とした。
MUFGにとってスタートアップ企業は重要な存在、急務は社内のカルチャー改革
MUFGでは、過去5年間で累計30社以上に1200億円以上を出資しているほか、イノベーションコミュニティであるSPARKを通じた共創活動や、500社以上のスタートアップ企業が参加するDigital Accelerateなどの活動を進めている。「少し前には、金融機関とFintechは競合すると言われていたが、いまではそんなことを言う人は誰もいない。両社が一緒にやらなくてはならないのは明らかだ。スタートアップ企業にとっては、MUFGが持つ顧客基盤を活用できること、MUFGの資金力を利用できること、そして、MUFGが持つ信用や信頼が後ろ盾になるというメリットがある。私たちが、Fintechの人たちに気づかせられることも多く、一緒に仕事をして刺激を受けることも多い。スタートアップ企業は重要な存在である」(亀澤氏)と述べた。
MUFGは、シンガポールに本社を置く配車サービス大手のグラブにも出資するなど、海外企業にも積極的な投資を行っている。「グラブのスピード感や、お客様のためにいいものをつくるための要求の厳しさには、刺激を受ける。MUFGが駄目ならば、他社と組むぐらいの勢いやパッションには驚く」と述べた。
また、亀澤氏は、企業のカルチャーについても言及。「経営陣によるタウンホールミーティングは、6万人が参加したり、社長と本気で語る会を実施したりといった活動も行っている。経営と社員、部門間、業態間、お客様との距離を縮める取り組みをしている。突き詰めると経営がやらなくてはならないことはカルチャー改革だけであると思っている」などと述べた。